第315話 蛇行運転! アタック・オン・リコ!!
休息を終えた急襲部隊は、いよいよ軍事拠点デスターに向けて出発する。
「諸君、我々が寝ている間に、本部のオペレーター班がキュロドスのおおまかな地図を作成してくれた。まずはこれを見てくれ」
アタック・オン・リコの中で行われる作戦会議。
一同は真剣な面持ちでモニター表示された地図を見る。
「見て分かる通りだが、キュロドスには原住民の街がない。推測になるが、恐らくどこかの施設に幽閉されているのだろうという見解が本部から通達されており、私も同意見だ。彼らの解放も作戦目的に加わる事となった」
探索員協会は別に正義の味方ではない。
だが、困難に直面している者がいて、手を伸ばせば届く距離ならば躊躇せずに助ける。
探索員憲章にも記載されている、彼らの高潔な精神であった。
「ごふっ。ああ、失敬。しかし、少し面倒な場所がありますね。等間隔に駐屯基地が4つですか。これは、どのルートを通っても敵に気取られごふっ」
「駐屯基地からデスターまでは、一番近いものでも20キロ……。アタック・オン・リコを全速力で走らせても、10分と少しはかかりますね」
「つーことは、敵さんも準備するんじゃねぇの? よろしくぅ」
「屋払さん。言う事がなければ、皆が分かってる事を無理して言わなくてもいいです」
南雲は少し渋い表情をして、全ての意見を肯定した。
「その通りだ。駐屯基地をスルーするのは、さすがの逆神流でも厳しいらしい。と言うか、駐屯基地まで気付かれずに接近できるだけでも充分な反則技なので、こればかりは致し方ない」
「みみみっ。という事は、デスターに到着する頃にはアトミルカさんも迎撃態勢が万全ってことになるです……。みみっ」
「悲観することはありませんわよ! 準備をする時間を与えると申しましても、それはたったの10分と少しですわ! それだけの時間でどれほどの準備ができるのかは分かりませんが、万全という訳にはいかないはずですわよ!」
「そういう事だ。我々とアトミルカ、地の利はあちらにあるものの、攻撃するタイミングは私たちが選択できる。これは非常に大きいアドバンテージだ。さらに、デスターに到着すれば逆神くんの『
さて、その逆神六駆とツレ。
さらにどら猫とサイコパスが静かだと思った諸君。慧眼である。
「じゃあ、運転はクララ先輩と雲谷さんにお任せしますね! 操縦方法は車とほとんど変わらないらしいですし!」
「うにゃー。六駆くん、聞いてにゃー。運転席がオートマからミッションに変わってるぞなー! あたし、一応マニュアル免許取ったけど、教習車以外で運転した事ないにゃー」
アタック・オン・リコの操縦方法が変わっていた。
どうやらシミリートが改造したらしい。
「ミッション車ってオートマ? と、そんなに違うんですかぁ? 六駆くん?」
「僕には分からないけど、同じ車だから多分一緒だよ!!」
高校生カップルは気楽である。
が、ご存じの方もいると思うが、普段はAT車にしか乗らない者が急にMT車に乗ると、それはもう計り知れないプレッシャーとの戦いが待っている。
信号で停車する時には、「あかん。エンストしたらどうしよう」と怯え、坂道で一旦停止の標識を見かけた時は「後続車、来るな! 後続車!! 来るなよ!!」と念じ、シフトレバーの操作をミスって次元の狭間に行った時など、死を覚悟すると言う。
「雲谷さん、運転はお任せするにゃー」
「はははっ! 俺、AT専門の免許なんだけど! まあ、いいか! ここ異世界だし! ふふっ、横転したら……ぷっ、ふふふっ」
そこはかとない不安が作戦会議の邪魔をする。
「ええと、諸君。ちなみに、この中で免許持ってる人は?」
「小生はこのような体ですゆえ、諦めました」
「自分は持っています! が、普段は自転車通勤なのでペーパーです!!」
「和泉くんは仕方ない。加賀美くんは運転手にしたくないな。理性的な人がいなくなるのは避けたい」
「オレっちはバイク一筋なんでぇ! よろしくぅ!!」
「私もペーパードライバーです……。すみません」
「屋払くんはイメージを守っていて偉いと思う。青山くんは……。女の子にいきなりこんな巨大な要塞を運転させたくないなぁ」
サーベイランスの向こうの山根が南雲に声をかけた。
『南雲さんが運転すれば良いじゃないっすかー! 知ってるんすよー? 大型の免許持ってるのー! ナグモ、照れないで! できる、できるー!!』
「やーまぁーねぇー! やーめーろーよー!! 私だってペーパーだよ! 大型なんて、久坂さんに取らされただけだよ! 乗ったのも、久坂さんが引っ越しするからってトラックの運転した一度きりだよ!!」
『ぷーっ! いい年してペーパーとか! ウケるー!!』
南雲は「じゃあ君が運転しなさいよ!!」と言うと、山根は「自分は普段からMT車っすよ! 頭文字D好きなんで!」と答える。
「よし! 逆神くん! 『
『ぷぷー! 残念でしたぁー! 五楼さんが、そっちでどうにかしろ! って言ってるので、行けませーん!!』
「君ぃ! なんかアレだ! 昔、ライアーゲームってドラマがあったけど、それに出てたマッシュルームカットのヤツくらい腹立つな!!」
『あのドラマ、面白かったっすよねー。自分、松田翔太くんに似てるって春香さんに言われるんでー。すんません!』
不毛な通信が終わった。
これ以上議論することもなくなったので、南雲は仕方なく運転席後方の席に座る。
アタック・オン・リコ。
久方ぶりの出撃である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うにゃー! エンストしたぞなー!!」
出発してから20分。
3度目のエンストが発生していた。
「逆神くん? ああ、スキル常時発現で忙しそうだな。じゃあ、小坂くん。聞きたいんだけどね。アタック・オン・リコに車輪ってないじゃない? 確か、ホバークラフトみたいに進むんだよね」
「ほえ? はい、そう聞いています! わたしにはよく分からないですけどぉ」
「どういう理屈でエンストしてるんだろう。私も車の構造に詳しくないから断言できないけど。と言うか、車についてはね、にわか知識で語るのは危険なんだよ」
「どうしてですか?」
「見えない力に圧をかけられるんだ。知らねぇくせに語ってんじゃねぇって」
「ふぇぇ。なんだか怖いんですね。車って」
南雲は「ねー」と応じて、心の中でクララにエールを送った。
「あっ、しまったにゃー! バックにシフトレバー入れちゃったぞなー! にゃははー」
現在、アタック・オン・リコの乗り心地は最悪であった。
なまじ宙に浮いているだけに、浮遊感と要塞の揺れがガッチリ握手。
遊園地の外れアトラクションみたいになっていた。
「おや。ぷっ、ふふ! 南雲さん、聞いてくださいよ!」
「どうした、雲谷くん。君の笑い声も大概凶報しか持って来ないんだよなぁ」
「あそこ見て下さい!! ふふふっ、もうすぐに駐屯基地が見えますよ!」
「ああ、君は視力を
「あははっ! すっごい勢いで蛇行運転してたからですね! けっさく!!」
「言いなさいよ! 気付いた時点で!! 逆神くん! 緊急事態だ!!」
だが、六駆からの返事はない。
「逆神くん?」
「うぼぉあ……。すみません、南雲さん。車に酔いました。モルスァ……」
一体、何人が覚えているだろうか。
逆神六駆。彼は乗り物に極めて弱いと言う事を。
文字通り、緊急事態である。
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