第313話 ステルス迷彩仕様! アタック・オン・リコの帰還

 キュロドス最初の関所を制圧した急襲部隊。

 彼らは手分けをして、捕虜になったアトミルカ構成員たちから情報を得るべく動き出していた。


 フォルテミラダンジョンの最深部で待機していた莉子たちも手伝いにやって来る。


 何をされていたのか知らないが、何かとんでもない事をされていたのはハッキリと分かる下柳則夫が無造作に転がっている景色は嫌でも捕虜の視界に入り、結果として彼らの口の滑りを滑らかにした。


 さすがは脂肪スキルの使い手。

 倒れた後にもヌルヌルさせるのはお手の物である。


 充分な情報が集まったと判断した南雲は、全員に招集をかけた。


「みんな、ご苦労だった。全員の集めた情報を本部に送り、オペレーター班に纏めてもらった。その結果が出たらしいので、これから全員で聞こう」


 サーベイランスから、山根が現れた。


『どうもっす! えー。端的にお伝えするっすね。現在地から、アトミルカの重要軍事基地までの距離はだいたい北に120キロっす。道中に基地がいくつか。それぞれ、2桁ナンバーの構成員が基地司令に就いてるみたいっす。目標の軍事拠点のリーダーは4番。更に、今日は3番が視察に来るんだとか。つまり、作戦計画は変更されるっす。はい、南雲さん』


「……君にしては良いパスを出すな? 諸君、我々の最終目標は」

『4番の確保、および軍事拠点の占領っすね! 3番まで確保できたら超成功っす!!』



「おおい! なんで私のセリフに被せて来るんだよ! やーまーねぇー!! 何が君をそうまで嫌がらせに駆り立てるの!?」

『皆さんの緊張を解くのもオペレーターの仕事っすから!! では、アデュー!!』



 いつも通りの仕事をこなす、山根健斗Aランク探索員。

 彼は優秀である。常に一定の結果を残すのは存外難しい。


「そこで、我々はスピード重視でキュロドスを北上する。出来るだけ早く、出来るだけ直線的な移動が好ましい」


「うっす! 南雲さん、オレ発言いいですか? よろしくぅ」

「うむ。屋払くん」


 屋払文哉が珍しく意見具申をする。


「オレと青山がガチっても、120キロは1日かかる距離なんでぇ。つーことは、それよりも足の遅いメンツが集まってる事を考えるとスピード重視は無理なんじゃね? と思うんすよ。よろしくぅ?」


「おおー! 屋払さんがまともな事言ってるにゃー!」

「あれでも私たち潜伏機動部隊の隊長なのよ。たまにはまともな事も言うわよ」

「勉強になりますわね。ただのお排泄物な殿方ではなかったのですね」


 女性陣の屋払に対する評価の低さが判明して、彼はちょっとだけしょんぼりした。


「それに関しては、実はもう既に策があるんだ。逆神くんに行ってもらっている。交渉が上手く纏まれば良いのだが」

「あっ! それで『ゲート』が出てるんですね! 六駆くんってば、わたしも連れていってくれればいいのにぃー」


「みみっ。『無風監獄カームプリズン』のおかげで煌気オーラ感知されないタイミングなのは、さすが師匠です。みみっ」

「ぷっ、ふふ、敵に視認されそうなシチュエーションになったら、俺が撃ち抜くから安心して良いよ。ふふ、敵、来ないかなぁ。ふふふっ」


 『ゲート』を使って六駆が行った先は。

 既に彼の事をよくご存じの諸君には、簡単すぎるクイズだったかもしれない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここは、魔物が平和に暮らす異世界。

 名前をミンスティラリアと言う。


 その魔王城に、例によって『ゲート』を開いてやって来た男、逆神六駆。

 彼はこの世界に大きい貸しを2つほど作っており、だいたい困るとここにやって来る。


「くくくっ。英雄殿はいつも唐突に来ては無理難題をおっしゃる」

「いやー! すみません、シミリートさん! 咄嗟に思い付いた場所がここしかなくって! アレがありますし! シミリートさんの事だから、常に整備はバッチリじゃないかなって!!」


 ミンスティラリア魔王軍の技術開発室長、シミリート。

 豹の獣人である彼は、メガネがよく似合う魔技師である。


「もちろん、いつでも動かせるようにしてあるのだよ。とは言え、ミンスティラリアでは軍事用に使う事はないのだがね。専ら、私の研究に使用している。だが、問題なく走ると保証しよう」


 かつて、ルベルバック戦争で六駆が創り出した巨大兵器を覚えておいでだろうか。

 それは動く要塞。



 名前をアタック・オン・リコと言う。



「そこで相談なんですけど、シミリートさん! アタック・オン・リコをステルス仕様にできませんか? 僕がスキルを出すので、それを外装に伝わらせる事が出来れば済むんですけど! やっぱり急には無理ですか?」


 何やら無茶苦茶言い出したこの世界の英雄。

 だが、シミリートの研究者魂に火をつけることに成功。


「くくっ。無理と言われると、どうにかしたくなるのが技師なのだよ。煌気オーラ砲の配線を改修して、外壁に流せるようにしてみようではないか。2時間、いや、1時間ほど待ってくれるかね、英雄殿。技術開発室の総出で改造しよう」


「助かるなぁ! じゃあ、僕はここで待ってますね!」

「くくくっ。英雄殿のお相手は任せたぞ、ダズ」


「六駆殿! 食事とデザート、どちらがご所望ですかな!?」


 彼の名前はダズモンガー。

 魔王軍親衛隊長なのだが、平和な世が続いているため、最近では魔王軍料理番長と言う新しい部署の長官をしている。


 暇なのである。


「じゃあ、デザートもらえる? ご飯はね、さっき敵から奪って食べたんだよ。冷たいものがいいなぁ!」

「ぐははっ! 承知仕った! おい! 六駆殿が冷たいものをご所望だ!!」


 15分ほどでダズモンガーが戻って来た。

 エプロンをはためかせて。


「こちらをどうぞ、六駆殿!」

「うん。ありがとう。うわぁ! 美味しい! なにこれ!!」


「グアル草のアイスクリームでございますぞ! 以前クララ殿がお土産にとアイスクリームを持ってきてくださった事がありましてな! そこから氷菓の研究が始まり、ミンスティラリアでは現在大ブレイク中でございまする!!」



 君たちは本当にグアルボンの糞から生える草が好きだな。



 アイスを食べ終わって、ファニコラも交えて雑談をしていると、あっという間に1時間が経過した。

 シミリートに「準備が出来たのだよ」と言われて、城の修練場へと移動する。


 そこには、光り輝く「莉子」の文字が眩しい、移動要塞があった。


煌気オーラ砲を一門破棄し、そちらの煌気オーラ注入口から英雄殿のスキルを流し込めば、外装にまんべんなく効果が発現されるようにしておいた。これが説明書だ。何か不備があれば、それを読んで頂きたい」

「助かります! やっぱりシミリートさんは頼りになるなぁ!! じゃあ、今日は急ぐので失礼しますね! また今度、南雲さんに菓子折り買って貰って挨拶に来ますから!!」


 そう言うと六駆は『ゲート極大陣グランデ』を発現させ、アタック・オン・リコに乗ってキュロドスに帰って行った。

 相変わらず、急にやって来る部活のOBのようなおじさんである。


 それを快く迎える異世界・ミンスティラリア。

 ここは良いところなので、興味のある方は是非一度訪れて欲しい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「どうもー。お待たせしました! はい、こちらがアタック・オン・リコ! ステルス迷彩仕様です! 時速100キロまでなら出せるらしいですよ!!」


 六駆が移動要塞に乗って戻って来たのを見て、チーム莉子は「わぁ! 懐かしい!!」と歓声を上げた。

 南雲と加賀美は「うん。何度見ても凄いな……」と感嘆の息を漏らす。


 屋払と青山はドン引きして、和泉は血を吐いて雲谷は笑っている。

 最後に、塚地小鳩が締めるらしい。


「……常識と言うものが六駆さんにはないのですわね。知っておりましたけど。……お排泄物ですわ」


 まったく、小鳩の言う通りであった。

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