第309話 想定外の再戦 逆神六駆VS下柳則夫
南雲はまず、周囲を警戒する部下たちに告げる。
「下柳則夫は強い。本部襲撃事件の際には、
加賀美は愛刀の竹刀・ホトトギスを取り出して頷く。
「了解しました! 自分は下柳さんの戦いをデータでしか知りませんが、南雲さんともあろう方がそう言われるのならば、気は引き締め過ぎるという事もなさそうですね」
関所に突入するのは、南雲と加賀美。
狙撃チームは施設の外からスナイピングポイントを探す。
「南雲さん、気を付けてくださいにゃー。また大けがしたら、五楼さんが泣いちゃいますにゃー。五楼さんとラブラブライン通話できなくなっちゃいますにゃー」
「我々は屋外から上手く狙撃できる場所を探しますよ。ふふ、南雲さんが死んじゃう前に! あははっ。お腹に穴空いちゃう前に!! あっはっは!」
「うん。君たち、嫌だな、なんかさ。心配してくれてるんだろうけど。センシティブなところにグイグイ来るんだもんなぁ。和泉くんは……和泉くん?」
「ああ、小生ならばこちらに。少しばかり眩暈がしたので、横になっております」
和泉の特殊装備はマント。
六駆が付けている「莉子!」と自己主張する逸品とは真逆で、和泉のマントは対象を覆う事で背景と同化する効果がある。
言葉を発さず、
「和泉くんは君の判断に任せる。フリーでSランクを維持している君には、この手の混戦で指示を出すよりも、自由に動いてくれた方がきっと良いだろう」
「買い被りごふっ、ですが。南雲さんにそう言って頂けるのならば、微力を尽くしげふっ」
南雲は4人の顔を見る。
全員が戦闘態勢に移行しているのを確認したら、時間は貴重である。
「行くぞ! みんな!! 突入だ!!」
南雲たちは関所攻略にかかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方。
情報処理室の前で、六駆と下柳は依然として交戦中だった。
六駆は本気を出していないため、両者のパワーバランスは拮抗している。
それには理由があった。
まず、いくら『
六駆は自分の実力を過大評価しないが、過小に考える事もしない。
現状、下柳と互角程度の煌気出力が彼にとってのセーフティである。
もう1点は深刻な内容だった。
六駆は「キュロドスの情報を得る」と言う使命を帯びており、まだそれを遂行できていない。
このままでは、お金がもらえないのだ。
普通に考えれば、南雲は状況を鑑みて「まあ仕方ないよ」と寛大な判断でお金をくれるだろう。
だが、欲にまみれた六駆おじさんにはその発想がない。
結果、情報処理室の安全まで考えて戦わなければならなくなり、六駆は多くの制約を抱えた上での交戦を余儀なくされていた。
「どうしたんですかねぇ? 逆神くんはもう少しやると思っていたんですがねぇ! これは少しばかり買い被りが過ぎましたかねぇ? 『
「うわぁ!! 脂を圧縮して撃って来たぁ!! 受けたくないけど、弾いたら部屋が!! くっ、仕方がない! 一刀流! 『
六駆は『
すると、下柳の放った脂のレーザーは『
「それは悪手ではないですかねぇ? これで君は剣を失いましたねぇ!!」
「くそっ! なんてネチネチした喋り方なんだ!! こんな人と戦ったなんて、親父と五楼さんってすごいや!!」
実は六駆が下柳とまともに戦うのはこれが初めてだった。
『
「ふふふふっ。こんな事もできるんですよねぇ! 『
「う、うわぁぁぁぁ!! 口から臭くてベタベタしたものを吐いて来たぁぁぁぁぁ!!!」
サーベイランスが六駆の傍にやって来る。
透明な状態を保っているため、山根も細心の注意を払う。
『逆神くん、落ち着くっすよ。今、南雲さんと加賀美さんが関所内に突入したっすから。それまでどうにか耐えてくださいっす!』
「もうそろそろ限界ですよ! 『
そんな六駆の願いが通じたのか、頭上から援護射撃が飛んできた。
まさに天の助けである。
「ぐぁっ!? な、なんですかねぇ!?」
「……これは! 助かります、雲谷さん! ふぅぅぅんっ! 『
六駆にしては珍しい、植物を具現化するスキルであった。
かつて過ごした異世界でストックしたものを具現化するのは、六駆の十八番である。
古龍をも凍らせる吹雪を具現化すれば、『
この草も、ただの草ではない。
「な、なんですかねぇ! この植物は!! ぐひぃ!?
「うわぁ。凄い勢いで痩せていきますね。たんまり溜め込んでたんだなぁ」
雲谷の狙撃によって生まれた隙を最大限に生かした六駆。
下柳則夫を拘束。さらには煌気を吸い取ると言う理想的な展開に持ち込む。
「逆神くん! 無事か!?」
「南雲さん! 遅いですよ!! すっごいストレス溜まったんですからね!!」
「すまなかった! そして、お手柄だ! まさかもう既に下柳さんを拘束済みとは!」
「なっ!? 南雲修一!? それに、加賀美政宗!? ど、どういうことですかねぇ!?」
下柳則夫は太ったキモいおっさんだが、頭の回転は速い。
彼は遭遇した相手が全員探索員協会の関係者である事を鑑みると、素早く真実に辿り着く。
「ま、まさか……! 意図してキュロドスに来たと言うのですかねぇ!? そ、そうなると、必然的に窓口は……ボクですかねぇ。身に覚えはありませんけどねぇ。あなたたちとの接点がある人間は、キュロドスでボク1人ですからねぇ!!」
「今更気付いたところで、もう手遅れなんですよ。下柳さん。投降してくれますね? 命は取りません。私たちは、探索員憲章に則って仕事をしている!」
南雲の言葉に嘘はないが、下柳からすればもう、そのセリフにうま味はないのである。
自分が原因でキュロドスに探索員が侵入した事実は、そのまま組織内での責任問題に直結する。
既に1度致命的なミスを犯している下柳にとって、2度目はない。
喩え南雲が身の安全を保障しようとも、アトミルカの上層部によって自分が消される事がほとんど確定した状況を理解した今、下柳則夫が取る方法は2つしかない。
命を諦めるか。最後のどんでん返しに賭けるか。
選ぶべき価値のある答えなど、元から1つしかなかった。
下柳は体に溜めている脂肪煌気を解放し、拘束を破る。
「ふぉぉぉぉっ! 『
無差別に他者の
今回は彼も死に物狂い。
その効果範囲は極めて広域に拡大される。
「これはいけない! 南雲さん、加賀美さん! 僕の後ろに! ふぅぅぅんっ!! 『
六駆の機転によって難を逃れた南雲と加賀美。
だが、外にいる者たちはどうなったのか。
追い詰められた豚は、全てを喰らうらしかった。
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