第306話 爆誕! 84番・逆神六駆 異世界・キュロドスの関所

「それじゃあ、84番さん! ちょっと立ってもらえます?」

「う、うわぁぁぁ! 助けてくれぇ!! オレの皮膚を生きたまま剥ぐつもりだろう!? ヤメてくれぇ! オレが関所に行けばそれで済むじゃないかぁぁぁ!!!」


 逆神六駆は「やれやれ」とため息をついた。

 出来の悪い生徒に赤点の答案を返す時の教師のような顔で、彼は言う。


「あなたが本気なのは分かりますけどね? 関所であなたの裏切りが発覚したらどうします? 普通に考えたら、あなたは殺されますよね? しかも、その前に拷問されて、背後にいる僕たちの情報も吐かされますよね? それじゃダメなんですよ」


 捕虜になったアトミルカの構成員たちは、心の底から震えあがった。

 「この若者は、一体どんな人生を過ごして来たらこの年で冷静に戦いの場の分析ができるのだろう」と思うと、冷えた手で心臓を握られたような感覚に陥ったと言う。


「その点、僕が84番さんに変身してから関所に行けば、万事上手くいきます。まずバレませんし、万が一バレたとしても関所を壊滅させれば問題ない訳ですから。ねっ! 南雲さん?」



「その同意の求め方は良くないぞ! まるで悪魔の企みの共同著者が私みたいじゃないか! 諸君、私も今、初めて作戦を聞いてるからね!?」

「南雲さん、落ち着いてにゃー。捕虜の人たちの心証良くしても意味ないと思うにゃー」



 南雲総指揮官が激しく狼狽え散らかしているのを見て、食事を終えたメンバーたちが集まって来た。

 彼らにはクララが作戦について説明する。


 ぼっちなのにコミュ力が高い椎名クララ。

 優秀な伝令役と言うものは、作戦部隊に欠かせない人員の1人。


 これまでのチーム莉子の活躍を振り返っても、地味に活躍しているのが彼女である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「変身ですか! 逆神くん、君は本当に何でもできるんだなぁ! 尊敬するよ!!」

「いや、まったく。小生には眩し過ぎて、思わず吐血してしまいますげふっ」


 理性的なコーヒー愛好家コンビが六駆を称える。


「逆神、マジでやべぇんでよろしくぅ。オレぁこいつと張り合ってたのか……。自分の命知らずっぷりにセルフリスペクトよろしくぅ」

「何を言ってるんですか、屋払さん。つまり、運が悪かったらあなた死んでましたよ」


 ドン引きの潜伏機動部隊コンビ。

 これが恐らく正しいリアクション。


「あはは、変身かー! それ使ったら、狙撃いらないね! 近距離で撃ち放題だもんなぁ! ふはは、楽しそうだなー! 俺にも教えてくれるかい? はははっ」


 サイコパスは発想が違う。

 多分、六駆と組ませると制御不能になるであろう雲谷陽介。


「芽衣さん、残ったお食事を保存しておきましょう。わたくしの収納箱に真空パックが入っていましたわ」

「みみっ。いい感じに冷めているので、六駆師匠たちが話してる間に済ませるです」


 チーム莉子は特に感想がないらしい。

 人の適応能力の可能性は無限大である。


「えー。それではね、まずは84番さんの情報を全て抜き取ります。『観察眼ダイアグノウス』!」

「うわぁぁぁぁ! 目が光ってるぅぅぅ!! レーザーで焼き払われるんだぁぁぁ!!!」


 84番は部下のために名乗り出た瞬間がピークであり、そこからは坂を転がり落ちるように慌てふためき、泣き叫んでいる。

 上官が威厳を保つのは並の精神力ではできない事なのかもしれない。


「はい。これで情報はバッチリです。次にこの情報を具現化します。装備を具現化する時と感覚は似ていますが、ちょっとコツがいります。ふぅぅんっ! 『人間模写マネマネキン』!!」


「おお! すごいな。84番くんが具現化されている。逆神流って本当に何でもありだなぁ。私、これどうやって報告書に纏めれば良いんだろう。小坂くん、手伝ってくれる?」

「はぁい! 六駆くんの事なら任せてくださいっ!!」


 逆神六駆の変身スキル講座はいよいよ最終段階へ。

 具現化した84番の体に、自分の体を重ねる六駆。


「このように、情報を着る感覚でスキルを使います。はい、『人体試着術フィッティング』!!」


 スキルを発現した六駆。

 少しばかり光ったかと思えば、そこには84番が2人に増えていた。


「ねっ! 簡単でしょう? これで、目の虹彩から指紋、煌気オーラの質に至るまで、全部コピー完了ですよ! 声もちゃんと変わってるでしょ?」


 84番・逆神六駆が爆誕した。

 彼に真っ先に駆け寄るのは、小坂莉子。


 彼女は心配そうに質問した。


「六駆くん、ちゃんと元の姿に戻れるんだよね!? わたし、こんなおじさんの六駆くんヤダよぉー。いつものおじさんの六駆くんがいいよぉー!!」



「小坂の姉御、心配するところがやべーんで、よろしくぅ。もう恐怖しかねぇんだわ」

「これに懲りたら、すぐに誰彼構わず絡んでいくの直してください。屋払さん」



 六駆の変身スキルは莉子を不安にさせ、屋払文哉をちょっぴり更生させた。

 84番・逆神六駆は「大丈夫だよ、莉子!」と彼女の肩を抱いた。


 胸に「84」と書いてある、見知らぬおっさんに肩を抱かれた莉子はひどく心細そうに見えたと、その場にいた全員が感じたと言う。


「ふぅぅぅんっ! 『試着は用済みキャストオフ』!! はい、この通り!」

「わあ! 六駆くんだぁ! 良かったよぉー!!」



「いや、その前に逆神くん。君の纏っていた84番の皮膚とかが飛散したんだけど。アレなの? その凄惨な方法でしか元に戻れないの? 子供が見たら泣くよ?」

「ふ、ふふっ。良いなぁ、そのスキル! 雨宮さんに見せてあげたら、あの人絶対に喜ぶよ! あはははっ」



 六駆は答えた。


「このスキルは、無理やり煌気オーラで造った人の皮を体に貼り付ける荒っぽいものなので、お行儀よく脱ごうとすると時間がかかるんですよ。そもそも、そんなに使い慣れているスキルでもないですし。まあ、ちょっと解除した後がグロいですけど、セーフですね!」


 南雲は「アウトだよ? だけど、現状これ以外に妙案がない」と、六駆の作戦に乗る事を決断した。

 繰り返すが、急襲はスピードが命である。


 無駄な時間を思考に費やすのであれば、行動を起こしてから次善策を講じる方が建設的であり、それが指揮官に求められる責務でもあった。


「じゃあ、もう一度最初からやりまーす!」

「う、うわぁぁぁぁぁ! 今度こそ命を獲りに来たぁぁぁ! やめろぉぉぉぉ!!」


 84番の悲痛な叫びは、残りの捕虜14人に「もうアトミルカをヤメよう」と決心させたらしい。


 5分ほどで、再び六駆の変身が完了した。


「それじゃあ、ちょっと行って来ますね! それにしてもすごいですね、サーベイランス! 透明になるバージョンもあるんですか!!」

「うん。今回の作戦のために開発したんだよ。……その声で褒められると、なんだか素直に喜べないな。ものすっごい違和感があるよ」


 南雲の違和感は、逆に考えればそれだけ精巧な変身が出来ている証明になる。

 84番・逆神六駆は、手を振りながら異界の門の中へと消えていく。


 その姿を急襲部隊のメンバーが見送った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ついにキュロドスに降り立った逆神六駆。

 周辺を探すまでもなく、関所は異界の門の目と鼻の先にあった。


「よし! それじゃあ、サクッと制圧してボーナスゲットしよう! 20万の大仕事だ! 気合が入るなぁ!!」


 84番・逆神六駆。軽やかな足取りで関所へと向かった。

 入口には番兵が立っており、敬礼をされる。


 どうやら、84番の部下らしい。


「お疲れ様です! まだ交代の時間には早いですが、どうされましたか?」

「ああ、はい。ちょっと用事がありまして!」



「なるほど。では、合言葉を願います!」

「えっ!? 合言葉? 令和のご時世に!? そんなアナログな事するんですか!?」



 暗雲が一気に立ち込めて来る。

 心なしか、サーベイランスもカメラを逸らしたように思われた。

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