第307話 転生! クソ野郎・逆神六駆
アトミルカの構成員の皮を被った男。
その名は84番・逆神六駆。
溢れ出す
彼はこれからキュロドスの入口にあるアトミルカの関所を攻略する予定である。
「どうしたんですか、84番様? 合言葉をお願いします」
「ああ、はいはい。合言葉ですね。ええ、よく知っています。合言葉。うん」
84番・逆神六駆。初手でクライマックスを迎えていた。
だが、これは彼のミスとも言える。
フォルテミラダンジョン最深部で84番に聞けばよかったのだ。
「関所に潜入するにあたって、何か注意する事はありますか?」と。
そうすれば、彼は素直に全てを話した。
だが、84番は正気を奪われていた。
自分の目の前で作り上げられていく、自分そっくりの
それをなんか偉そうな風格を漂わせている少年が着ると言う。
数十秒ののちには、目の前に自分とそっくりな自分が立っていて、自分の声で話をする。
恐怖体験以外のなにものでもない。
あまりの恐怖に、84番は理性を放棄する事で自我を守った。
その結果、自発的に情報を開示すると言う行為を忘れてしまった。
だいたい全部、六駆が悪い。
そのツケはすぐに回って来た。
「あの、84番様? 何やら、顔色が悪いですが?」
「ええ。はいはい。顔色ね。分かります、分かります。ああ、そうかー。顔色が悪いかー」
ちゃんと中身の表情が外面に反映される『
逆神六駆は論理的に考えた。
割とすぐに答えは出るのだから、この男もなかなかに小賢しい。
「あああああああっ! お腹が! お腹が痛い!! お腹が痛いんですよぉぉぉぉぉ!!」
「ええっ!? どうされたんですか、84番様!? ああ! しっかりしてください!!」
彼が考えたのは、とんでもない力技だった。
腹部を抑えて座り込んだ84番・逆神六駆。
「これはまずい! このままだと、最悪の結末が待っている!! 具体的には便意がすごい!! お願いだから、トイレに行かせてください!! お願いします!!」
「えええっ!? それはまずいですよ! 今日は3番様がお見えになられるんですから! ちょ、ちょっと! なんでズボンのベルトに手をかけているんですか!?」
とんでもなくお排泄物な作戦に打って出た最強の男。
腹痛を人質に関所の合言葉を突破しようとは、常人の発想ではない。
「ダメだぁぁぁぁぁ! もうダメだぁァァァァァ!!! 致し方なし!!」
「ちょ、本当にダメですって! 分かりました! 早くトイレに行ってください!! おい、生態認証システムを起動させろ! 84番様が緊急事態だ! 特例で合言葉を省略する!」
「よ、よろしいのですか、96番様!?」
「よろしいもよろしくないもあるか! ここで大惨事が起きて、そのタイミングで3番様がいらしてみろ!! 我々、全員の首が飛ぶぞ! 比喩表現じゃない! 物理的に飛ぶんだ!! ああ、くそ! 上官がクソ野郎だったなんて!!」
関所の管理者は96番。
直近の人事で念願叶って2桁ナンバー入りした若者である。
アトミルカでは、3桁と2桁では待遇の違いは歴然。
今は久坂と暮らしている55番のように、やむにやまれぬ状況から構成員をやっている者もいれば、根っからの悪人で、悪の組織でのし上がってやろうと言う輩も多くいる。
96番はそちら側の人間であった。
隙あらば出世の機会を伺い、自分よりも階級が上の者を引きずりおろすタイミングを日々狙う、若く野心に満ちた96番。
3番がキュロドスにやって来ると聞いて、「1桁ナンバーに顔を覚えてもらうチャンスだ!!」と浮かれていたのに、上官の84番がトイレの野外フェスティバルを行うと言う。
酷い冗談だった。
「ちょっと、すみません。この中に入れば良いんですか?」
「本当にどうなされんたですが、84番様!? 自分の所属している施設の入り方まで忘れたんですか!? どんだけお腹痛いんですか!?」
「なるほど。入れば良いんですね? よいしょー」
「総員! 急げ! なんか84番様が急にスッキリとした顔をされておられる! これは臨界地点が近い証拠だ! 急げ、急げ!! 生態認証開始しろ!!」
84番・逆神六駆。関所のスキャンを受け始める。
彼のスキルで変身しているのだから、万に一つも手抜かりはない。
「合言葉聞き忘れた」と言う凄まじい手抜かりをしでかしているので、これ以上はないのである。
「生態認証、オールグリーン! 問題ありません!!」
「よし! では、84番様!! お早くトイレへ!! お急ぎください!!」
「うん。どうも、ありがとうございます」
「トリプルフィンガーズは道をあけろぉぉぉぉ!! なんか84番様が、すっごいスッキリした表情をされておられる!! もう手遅れかもしれんが、どけぇぇぇぇ!!!」
割と最悪な感じで、84番・逆神六駆は関所に侵入を成功させた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
速やかにトイレへと案内された84番・逆神六駆。
個室に入って、サーベイランスを呼び出した。
「南雲さん! 見ていてくれましたか!? 僕、やってやりましたよ!!」
『うん。見てたよ。こっちは巨大なスクリーンにしてそっちの様子をモニターしてたからね。何て言うか、84番くんが泣き崩れてる』
これから壊滅させられる拠点の構成員なのだから、そう悲観する事もない。
そう言ってやりたい南雲だったが、「今わの際にイメージが最悪になる」と言う現象は自分でも耐えられないだろうと思うにつけ、良識ある監察官は同情する。
「とりあえず、今からこの関所全体に『
南雲の隣に倒れ込んでいた、和泉正春Sランク探索員が命を削って手を挙げた。
『逆神くんげふっ。その関所から、出来る限りの情報を引き出せないでしょうか? 先ほど3番と言う、明らかにアトミルカの重鎮であろう人物の名前がふっ、聞こえましたので。もしすると、我々は思った以上に好機を掴んでいるのかもしれモルスァ』
Sランク探索員は言う事が違う。
和泉は六駆のしょうもない寸劇を真面目に観察しており、その上で重要な事実に目を付けていた。
急襲部隊の作戦は、8番・下柳則夫のいる拠点を壊滅させる事である。
よって、彼らのプランでは「最低でも8番とそれに連なる上位ナンバーを捕縛する」事を第一に掲げていた。
が、そこに降って湧いた3番の名前。
「もしかすると、この拠点は思った以上に重要なポイントではないのか」と、和泉をはじめ加賀美と南雲も気付いていた。
そして、その推察は見事に的中している。
キュロドスはアトミルカ最大の軍事拠点であり、責任者は4番。
さらに複数の1桁ナンバーが滞在していた。
そこに3番までやって来ると言う事実。
風向きは急襲部隊の追い風となっている。
「了解しました! じゃあ、僕は少し調べてみます! 皆さんは、そうですね。15分後に来てもらえます? 少数精鋭で!」
『うむ。分かった。ところで、逆神くん。1ついいかな?』
「はい。なんですか、南雲さん」
『こんな事を言いたくないんだけどね。くれぐれも慎重に頼むよ?』
「嫌だなぁ! 僕はいつでも慎重ですよ! 敵拠点の調査とか、もう僕のためにあるオンステージじゃないですか!!」
『その出所不明の自信が嫌なんだよ!! 君ぃ、よくも自分で調査が得意とか言うな!? 君が得意としているのは、破壊活動だよね!?』
六駆は「うふふ」とだけ答えて、通信を終えた。
84番・逆神六駆の諜報活動が始まる。
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