第281話 対アトミルカ侵攻作戦

 五楼京華がようやく会議を進行させ始めた。


「今回、我々はアトミルカの拠点を急襲する。方法は既に伝達している通りだ。元監察官である下柳則夫にこの逆神Dランク探索員がある仕掛けをしている」


 仕掛けについての解説を南雲が引き取る。


「端的に言えば、下柳則夫の所在地に大人数が瞬間移動に近い形で転移する事が可能です。巨大な門を構築するスキルですので、逆神くんが倒されない限りその門は永続的に存在しています」


 『ゲート』をなんかいい感じの転移スキルと言う体で行くことにした、五楼と南雲。

 監察官たちからは特に質問が出て来ない。


 だいたい全員が何かしら察しているからに他ならない。


「そうなると、何人くらいのチームを作りましょうか? あまり数が多いと急造チームですから。いくら合同訓練をすると言っても連携に乱れが出る可能性は高いかと思いますが」


 雷門監察官の意見に五楼は「うむ」と答える。


「急襲部隊は多くても十数人を予定している。あと雷門。貴様は普通に喋ると誰だか分からん。時おり号泣しろ」

「ご無体な事をおっしゃる……。私だっていつも号泣している訳ではありません」



 だいたいいつも号泣しているじゃないか。



 続いて楠木監察官が私見を述べた。


「急襲と言うからには、その拠点は短期戦で完全に制圧するつもりで問題ないですな?」

「楠木殿の言う通りだ。長期戦は初めから想定していない」


「ちぃと思うたことがあるんじゃけどのぉ。ええか?」

「なんでしょうか、久坂殿」


「六駆の小僧が作る門は、常に維持されるわけじゃろうが? ちゅうことは、敵さんも本部側に攻め入る事が可能になるっちゅう話よのぉ? そうなるとじゃ、門のこっち側にもある程度の数の戦力を用意しちょかんと、また本部襲われたら笑えりゃあせんで?」


 久坂の意見はこの作戦における1番の問題点を的確に射抜いていた。


「逆神くん。君の『ゲート』は部隊が1度敵拠点に侵攻したのち、すぐに消せるか?」

「消せますけど、その場合は緊急事態に陥った時に面倒ですよ? 僕が『ゲート』を構築する間は無防備になるので誰かしらに援護を頼む事になりますし」


「つまり、逆神くんは『ゲート』を出しっぱなしの方が良いと考える訳か?」

「1度出してしまえば、僕がオーラの供給を止めない限り行ったり来たりは自由ですからね。退路を断つのも良いと思いますけど、それすると予備戦力の投入もできなくなりますよね?」



 なんだか逆神六駆が監察官みたいな事を言っている。



「……ふむ。ならば、『ゲート』は維持したままで、こちら側に最強の戦力を配置しておくか。最悪の場合を想定すると、急襲部隊が敗れ、さらに本部が戦場になるパターンだが。その場合は逆神に『ゲート』を閉じてもらえば良い。できるか、逆神?」



「お金次第ですね! 100万円もらえれば言う事聞きます!!」

「さ、逆神くぅん!! 違うんですよ、皆さん! この子、ちょっとシリアスに喋り過ぎたんです!! 誰かぁ! パンケーキのおかわり持ってきてぇ!!」



 逆神六駆、戦線離脱。

 これでも彼にしてはよくやった方である。


 そして『ゲート』のお値段100万円は極めてリーズナブルであった。


「……痴れ者め。とは言え、邪険にできんのが腹立たしい。日引、頼む」

「はい! すぐにお持ちします!」


 新しいパンケーキがやって来たところで、五楼はまず門のこちら側。

 協会本部の守備隊と逐次投入する予備戦力の選定へと話を移した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 まず、何人かの監察官を配備しようと五楼は言った。

 異論は出ない。


 代わりに立候補者が出た。


「ワシ、予備戦力やりたいのぉ! うちにゃ55のがおるし、アトミルカの情報通じゃけぇ! ただ、最初から戦場に出るのはのぉ。ほら、ワシか弱い年寄りじゃし?」


 久坂剣友の強さは皆が認めるところであり、反対意見はない。

 それならばと、久坂は続けた。


「守備の要は木原の小僧にやらせるのはどうじゃろ? こやつ、向こう側に送り込んだら無茶苦茶しよるで? 本部側の万が一に備えさせちょくのが1番じゃと思うがのぉ」


 雷門と楠木は「まったくその通り」と同意する。

 だが、面白くないのは木原監察官。


「うぉぉぉん! どうして俺様が留守番なんだよぉぉぉ! 聞けば、チーム莉子は急襲部隊に確定してんだろぉ? 芽衣ちゃまの活躍が見られねぇじゃんかよぉぉぉ!!」



「サーベイランスで見たらいいんじゃないですか? それだったら、木原さんは戦ってない方が集中できますよ? うわぁ! 見て下さいよ、これ! 生クリームがソフトクリームになってる!! うわぁぁぁ!!!」



 パンケーキを食べながら、六駆が良い事を言った。

 おじさんには糖分を与えると仕事ができるようになることがある。

 これは、おっさんの108ある必殺技の1つである。


「逆神ぃ! お前ぇ! やっぱ見どころがあるじゃねぇのぉ!! よし、俺様に門の守りは任せやがれ!! こっちに這い出て来る敵をめったくそにして、向こうに投げ返せばいいんだろぉ? あとはサーベイランス見てるからよぉ!!」


 とんとん拍子に話が進んでいくが、五楼は満足していた。


 久坂剣友と木原久光はタンプユニオールでアトミルカと交戦した経験がある。

 そのキャリアを遊ばせている理由はない。


「では、予備戦力の指揮を久坂殿に。防御指揮官を木原……いや、指揮官は楠木殿にお願いしよう。木原は防御の最高戦力として最前線で待機」


 待機組の指揮官である久坂と楠木で、予備戦力と防御戦力の人員を選定する事も同時に決定された。

 ならば、次はいよいよ急襲部隊の選定作業である。


『すみません。良いですか? 水戸ですけど』

「どうした? 何かあったか?」


『いえ、自分がこの会議に参加する意味ってあるのかなと思いまして。だって、自分は今、イギリスですよ? 急襲作戦に関われないじゃないですか』

「そうか。そう言えば、貴様に資料を配っていなかったな。南雲」


 使命を受けた南雲修一が水戸監察官に告げる。


「逆神くんのスキルによって、現在下柳則夫が潜伏しているダンジョンが判明しています。そこがイギリス領なんですよ」


 六駆の『基点マーキング』は世界のどこにいても、喩え異世界であっても場所を把握する事が出来る。

 下柳はこの1カ月間で所在地を転々としていたが、2週間前から1か所に留まってた。


 それがイギリス。

 北部に浮かぶ島。名前はフォルテミラ島であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、南雲監察官室では。


「このワンピース可愛いにゃー。小鳩さんに似合いそうですぞなー」

「可愛いですけれど、わたくしや椎名さんのように、胸が邪魔をするスタイルではワンピースってシルエットが悪くなりますわよ?」


「みみみみみっ!! 莉子さん! こっちのスカート可愛いです!! みみっ! 莉子さんの健康的な太ももで六駆師匠を狙い打ちです! みみみみみみっ!!!」

「えっ? 今、ワンピースの話してなかったかなぁ? ごめんね、わたし資料見てたから。ワンピースがどうかしたんですかぁ?」


「み゛み゛み゛み゛っ!! 莉子さん、このスカート買うです! 太もも見せるです!!」

「も、もぉぉぉ! 六駆くんはそーゆうのに反応してくれないよぉ?」


 なにやら楽しそうなガールズトークに花が咲いていた。

 最年少の芽衣が1人で奮闘している。


「そんじゃ、ポチるっすか? 実は今年度の予算がちょっと余ってんすよ。南雲さんがいない今ならポチり放題っすよ? 1人ひとつまでっす!」


 チーム莉子、今年の冬物の精査に移る。

 大型モニターに色とりどりのアイテムが並び、彼女たちは歓声を上げた。


 奇しくも監察官会議で急襲部隊の選抜が始まったのと同じタイミングであった。

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