第282話 監察官たちが考えた最強の部隊
「アトミルカ急襲作戦の総指揮は南雲に任せる事にする。異議のある者は?」
無言の信任により、大役を南雲修一が仰せつかった。
「南雲、葬式すんのか? 俺様知ってるぜぇ! 生前葬ってヤツかぁぁ!!」
「木原、縁起でもない事を言うな。万が一の際には協会本部が総力を挙げて葬式を出す」
「ひょっひょっ! 五楼の嬢ちゃんも言うちょる
南雲からすれば、お腹に穴あけられて死にかけたのがつい先月の事なので、笑い事ではない。
だが、今回は隣にいるスイーツ大好き高校生が最初から一緒である。
「大丈夫ですよ! 南雲さんは死にません! 僕が守りますから!!」
「逆神くん……! 嬉しいぞ! ところで最近、エヴァンゲリオン見た?」
「莉子が見たいって言うので、莉子の家でお義母さんと一緒に見ました!」
「色々とツッコミたいけど、会議の邪魔になるから心の中で済ませるね」
五楼は日引に指示をして、モニターに探索員の名前とデータを表示させた。
まず、チーム莉子のメンバーが並ぶ。
小坂莉子Aランク探索員。
椎名クララAランク探索員。
塚地小鳩Aランク探索員。
木原芽衣Bランク探索員。
「うぉぉぉぉぉん! 待ってましたぁぁぁぁ!! 芽衣ちゃまキタコレぇぇぇぇぇ!!!」
「木原さんの姪御さん、大変ですなぁ」
「ねぇ? ボクは見かけると必ずお菓子あげることにしているよ」
続けてモニターに出て来る、我らが異世界転生
逆神六駆Dランク探索員。
「逆神くん。なんで斜め45度から写真撮ったの? それ、あれじゃないか。芸能人の宣材写真の角度じゃないか」
「山根さんが絶対ウケるか、もしくは南雲さんが怒られるからそうしとけって!」
「南雲。貴様は自分のところのパーティーの写真くらいまともに撮れんのか」
「は、はい! すみません!!」
「すごい! 本当に南雲さん怒られた!! さすがだなぁ、山根さん!!」
「くそぅ! あいつめ……!!」
現在確定している急襲部隊はこの5人。
そこにあと5人ほど加えたいと言うのが五楼の意見であり、全員が納得する。
「よろしいですか?」
「楠木殿。どうぞ」
「うちの潜伏機動部隊から何人か出しましょう。対人戦になるのでしたら、機動力と対人スキルに特化した彼らはお役に立つかと」
「それは私も考えていました。誰か、異論はあるか? ……うむ。では、潜伏機動部隊から屋払文哉と青山仁香を加える事とする」
モニターに2人のデータが表示される。
屋払文哉は特に機動力と煌気総量に優れており、青山仁香は全体的にバランスの良い円グラフになっている。
「私の監察官室からも1名推薦したいのですが」
「ああ、なるほどな。よし、雷門。多分異論はないが言ってみろ。あと、泣くなよ」
「はい。加賀美政宗Sランク探索員を推します。彼は逆神くんと共闘した経験もありますし、指揮官としても戦闘員としても経験豊富で、使い勝手にも困りません」
この提案には南雲が大いに賛同した。
「加賀美くんが加わってくれるのはありがたいですね! 彼は本当に、色々と事情を知っていますから! 逆神くんと組ませても安心だ!!」
お忘れの方も多いだろうが、加賀美政宗はルベルバック戦争に参加した折、六駆が異世界転生
この情報を知っているだけでも、六駆がむちゃくちゃやってまったく動じないと言う非常に有能なキーパーソンになり得る資質を持つ。
全会一致で加賀美政宗もモニターに加わった。
「しかし、よう見ると遠距離支援タイプが心許ないのぉ。チーム莉子のクララ嬢ちゃんだけっちゃあ。戦局によったら狙い打ちされるけぇ、遠距離支援ができて、かつ近距離でもある程度戦える者が欲しいのぉ」
久坂の言う事はもっともであり、対抗戦でのバトルロイヤルの時のように真っ先にクララが狙われる事態が戦場で起きないとも限らない。
これにはサーベイランスの向こう側にいる水戸監察官が私見を述べた。
『雨宮さんが、自分のところの雲谷トロピカルから何人か出しても良いと言っておられましたよ』
雲谷トロピカルは本部襲撃戦の際に、極めて正確な狙撃で下柳の足を止めた実績がある。
ならば、選ばない理由がない。
「どうしましょうか。雲谷トロピカルは全員が遠距離攻撃を得意としていますけど」
「それならば、隊長の雲谷陽介で良かろう。あいつは元々近距離のアタッカーだったからな。万が一の際にも対応できるはずだ」
雲谷陽介Sランク探索員、本人の意思を無視されて部隊に組み込まれる。
「これで9人ですか。Sランクが2人……。私も含めて3人。こうなると、攻撃は既に割と柔軟な対応ができますね」
南雲の言う通り、チーム莉子はどの距離でどんなシチュエーションであったとしても戦えるし、屋払と青山が近距離、雲谷が遠距離を担当し、中間距離を加賀美と南雲が占めれば盤石の構えのように思われる。
「ふむ。であれば、回復役か。このメンバーだと、逆神と南雲と小坂が使えるな。だが、小坂の回復スキルは評価がC。南雲はBと頼りないな。……逆神はZになっているが。おい、Zってなんだ!? まあ、いい。逆神は治療役に回したくないな」
「ほいじゃったら、和泉の小僧が良かろう。のぉ、楠木の?」
「そうですね。和泉くんは対抗戦の審判を務めてくれたおかげで、このメンバー全員の能力と特性を熟知していますし、適役でしょう」
最後の1人は和泉正春Sランク探索員。
彼はどこの監察官室にも所属していないフリーのSランクだが、協会に対する貢献度の高さを考えると要請に応じてくれるだろう。
「よし。これで10人か。悪くない編制になったな。他に何か意見のある者は?」
「はい!」
ここで元気に手を挙げるのは、逆神六駆Dランク探索員。
多分、しょうもない事を言う。
「イギリスってご飯が美味しくないとか聞くんですけど、食事の品質は保証されますか!? 僕、お腹が空くと力が出ないんです!!」
「貴様は『
六駆は「なるほど! 五楼さんってすごいや!!」と納得した。
やっぱりしょうもない事だった。
「ならば、これにて監察官会議を終了する。なお、急襲部隊に選抜された者の所属している監察官は、各員にその旨を伝える事。拒否権はもちろんあるゆえ、無理強いをさせないように」
戦闘集団なのに人権に手厚い日本探索員協会。
「私からも一言いいでしょうか? 急襲部隊は陣容が固まり次第、合同演習を行う予定になっております。相手の実力が知れませんから。厳しい状況を想定した演習にしたいと考えていますので、監察官のご協力を得られればと。よろしくお願いします」
南雲の申し出にも異論は出ない。
こうして、監察官会議は終了した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま! 山根さん、パンケーキ最高でした! 僕5皿も食べちゃった!!」
南雲監察官室へと帰還した六駆と南雲。
「ああ、疲れた。総指揮官なんて大役を任されるものだから、気が休まらないよ。山根くん。コーヒーちょうだい」
「うーっす。はい、どうぞっす」
「ありがとう。早いな。って、冷えてるじゃないか! しかも飲みかけじゃないか!!」
「あれ? コーヒーくれって言うから、自分のヤツが欲しいのかと思ったっす!」
「どんな判断だ!! 新しいヤツだよ欲しいのは!! もういいよ、自分で淹れるから!!」
「あ。すんません、南雲さん。お腹空いたんで出前頼んだんすけど、良かったっすか?」
「そうなの? 別に良いけど。確かにお腹空いたな。オヤツ食べる余裕なかったし」
「良かったー! 南雲さんの分を注文し忘れたんすけど! たっはー!!」
南雲のコーヒーは全てを包み込むような香ばしい風味と、どこかエキゾチックな甘みで、飲むと心が落ち着いたと言う。
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