第276話 チーム莉子、忘年会をする ミンスティラリア・魔王城

「ふぅぅぅんっ! 『ゲート』!!」


 開幕『ゲート』である。

 今日は今年ももうすぐ終わると言う事で、チーム莉子が全員集合。


 忘年会を開催するのだ。


 現在5人は六駆の家に集まっている。

 だが、会場はここではない。


 チーカマとスルメを肴にカップ酒を昼間から飲んでいる社会不適合者がいる環境で、どうしたら乙女たちが今年の思い出を振り返る事が出来ようか。


「莉子さんや。本当に僕は『ゲート』出すだけで良いの? アレするよ? うちの冷蔵庫からチーカマくらいなら持って来るよ?」

「ダメだよぉ。お義父さんが困っちゃうでしょ!」


「料理の材料はバッチリあたしたちで準備したにゃー! お任せにゃー!!」


「木原さん? お聞きしたいのですけど。あのお排泄物を絵に描いたようなブルドッグさんを、今、小坂さん……。お義父さまと呼んだようにきこえたのですけど」

「みみっ。小鳩さんもきっとすぐに慣れるです。世の中、手の施しようのない事もあるのです。みみみっ」


 六駆は四郎に「明日の朝には帰るよ」と言って、門の中へと消えて行った。

 当然のことながら、大吾が飲んでいるのは大五郎であると付言しておく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここは自然と魔素が売りの魔法国家。

 その名もミンスティラリア。


「六駆殿……。来られるならば事前に教えて下さらぬか? 吾輩、厨房から駆け付けましたぞ……」

「ダズモンガーくん! 今日って暇? ちょっと魔王城で宴会していい?」


 質の悪いヤンキーの先輩が後輩の家に押しかけて来た構図にしか見えない。


「おおっ! 莉子! 芽衣! 久しぶりなのじゃ! クララは先週も来ておったからちょっとぶりなのじゃ! ややっ! またしても仲間が増えたのか!?」

「ええと、皆様? わたくしはどこに連れて来られたのですの? トラが喋って、角のある幼女がすごい風格で見下ろしてくるのですけれど……?」


「あれ? クララ先輩、小鳩さんに説明してないんですかぁ!?」

「しまったにゃー。誰かがするだろうと思って、ノータッチだったぞなー」

「みみっ。小鳩さん、小鳩さん。あの人はファニちゃんさんです。異世界ミンスティラリアを支配する魔王様です。幼女に見えるけど年齢は3桁です。みみっ」


 最近は莉子がダンジョンで莉子ペディアさんになる機会が減っているせいもあり、芽衣も説明役ポジションを確立し始めている。

 なにせ、チーム莉子も乙女4人の大所帯になった。


 個性とキャラの確立ができないと、自然と気配が薄くなっていくのだ。


「異世界ですの!? えっ、あの、探索員協会憲章をご存じない訳ではないですわよね!? 個人が勝手に異世界と行き来をする事は禁じられておりますわよ!?」



「えっ!?」

「そうなんですか!?」

「あたしは知ってたにゃー」

「芽衣はし、知らなかった、です。み゛み゛っ」



 六駆と莉子は探索員になってまだ半年。

 憲章の端にある文言まで熟知していないのも致し方ない。


 なにせ、個人で協会本部の警戒網を掻い潜り異世界へ到達する事など、実質不可能。

 ゆえに探索員憲章の隅っこに軽く書いてある条項なのだ。

 それができるのは、監察官クラスかSランク。もしくはアトミルカである。


 そして逆神六駆はそのどれよりも力を持っていた。

 常識を一緒に持っていなかったのは不運としか言いようがない。


「でも、南雲さんは知ってますよ? わたしたちがミンスティラリアに遊びに来てる事とか」

「お、お排泄物……! やっぱり男はこれだから嫌ですわ!!」


「小鳩とやら。わらわと友達になるのがそんなに嫌なのか?」


 潤んだ瞳で訴えかけてくるのは、合法ロリっ子魔王・ファニコラ。

 知らなかったのか。大魔王からは逃げられない。


「わたくし、臨機応変に生きる事の重要さを師匠から学びましたの! 特例という言葉はこの時のためにあるのですわね! ファニちゃんとお呼びしても!?」

「もちろんなのじゃ! 妾も友達が増えて嬉しいのじゃ!!」



 塚地小鳩が陥落した。



「ダズモンガーさん! お台所貸してもらえますか?」

「それは莉子様の申し出とあらば、もちろんですぞ。と言うか、吾輩がちょうど使っておりました。創作料理などに最近は凝っておりましてな」


 ダズモンガーは魔王軍親衛隊隊長である。

 お料理研究クッキングタイガーではない。だが、エプロンはよく似合っている。


「あたしたちはお鍋を作るのにゃー! そしてお鍋と言えばお酒! いっぱい買って来たにゃー!! ダズモンガーさんも一緒に忘年会しましょうぞなー!!」

「なるほど、そちらにはそのような風習が……! 分かり申した! 吾輩も創作料理でおもてなしさせていただきますぞ!!」


 ところで六駆はどこに行ったのかと言えば。


「くくっ……。英雄殿は相変わらず、唐突であらせられる。まあ、良いのだがね」

「みんな! シミリートさんが15分で特注の土鍋作ってくれたよ!!」


 異世界のマッドサイエンティストに土鍋を作らせるな。


「みみっ! シミリートさんも一緒にどうぞです! みんなで食べると美味しいです!」

「ならば、お言葉に甘えようかね。すまないが、よく冷ましてから頂戴できると助かる。猫舌なものでね」


 チーム莉子の分業が始まった。


 リーダーの莉子は芽衣と小鳩を連れて、ダズモンガーと一緒に厨房へ。

 六駆はシミリートとリコニウムの現状確認をするため、彼のラボへ向かった。


 お忘れの方もいるかもしれないが、ミンスティラリアの大気を変換錬成したのは六駆おじさんである。

 アフターフォローまでしっかりするのが逆神流。


 残ったクララはと言えば。

 もちろん、ちゃんと仕事がある。


「はーい! それロン! 大臣のおじいちゃん、甘いにゃー! チートイ、ドラドラ! 6400ー!!」

「妾は危ないと思っておったのじゃ! さあ、次は親番なのじゃ! 一気に捲るのじゃ!!」


 ミンスティラリアに来たら、とりあえず手洗いうがいをして卓を囲むのがクララの流儀。

 半荘でクララかファニコラがトップを取るまでそれは続く。


 それから2時間後。

 宴の時間がやって来た。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「まあ! このロールキャベツ、絶品ですわ! ダズモンガーさん、本当にお料理がお上手ですのね!!」

「ぐっはっは! お気に召しましたか、小鳩殿! それはグアル草でひき肉を巻いたものでございまする! 今年はグアル草が豊作でしてな!」


 小鳩さん、それグアルボンのお排泄物です。


「はい、六駆くん! どうぞー!」

「ありがとう! 莉子の作る料理は何でも美味しいけど、今日のはまた格別だなぁ!」


「も、もぉぉ! お肉多めに入れておいたからね! シミリートさんもどうぞ!」

「これは申し訳ない。……ほう、これが牛とやらの肉か。ふむ、まったく臭みがない。どのような処理をしているのか気になる」


「ファニちゃんさん、熱いので気を付けて欲しいです! みみっ!」

「鍋と言うのは良いものじゃ! みんなで同じものを食すのは楽しいのじゃ!」

「おおー。これはミンスティラリアにまた新しい風習が伝わる予感だにゃー」


 楽しい宴は途中から成人組にアルコールが入り、更に熱を増す。

 実はファニコラも酒を嗜む。


 見た目幼女だが、中身は立派に123歳。

 この間誕生日を迎えて1歳年を取っている。


「この日本酒と言うものは実に美味いのじゃ! ダズモンガー! もっと飲むのじゃ!!」

「わ、吾輩、もう飲めませぬ……。視界が回って……うゔぉあ……」


 気付けば、ファニコラとシミリートに六駆。

 彼ら以外はみんな眠り込んでいた。


 時刻は午前4時。無礼講とは言え、よくぞここまで楽しんだものだ。


「英雄殿。そちらの世界も楽しそうで何より」

「そうですね。周回者リピーターヤメてから半年経ちましたけど、結構充実してますよ」


 2人はグラスをコンと合わせて、乾杯をする。

 ちなみに中身はファンタグレープ。


 翌年、シミリートによる『炭酸飲料製造機』がミンスティラリアに大旋風を巻き起こすことになるのだが、それはまだ未来のお話。

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