第275話 小坂莉子とスイートクリスマス
小坂莉子は御滝中央公園の噴水前であの男を待っていた。
周りの木々はイルミネーションでキラキラと光っており幻想的である。
今日の莉子の恰好は気合が入っている。
寒いのにミニスカートで脚を出して、モコモコのコートで可愛らしさもトッピング。
特別な日に用意した、オシャレ着だった。
「ふぅ……」
吐く息が白く染まる。
それもそのはず、今日は12月24日。
世間一般ではこの日をクリスマスイヴと呼び、リア充は書を捨て街に出る。
非リア充は家でお笑い番組を見て涙を流す。よほど笑えるのだろう。
「あれ!? 莉子、もう待ってたの!? まだ待ち合わせの10分前じゃない!」
「あっ、六駆くん! えへへへへ。だって、楽しみだったんだもん!」
「あらら! そんなに脚出して! 女の子は下半身を冷やしたらダメだって聞くよ? 平気? 股引き買う?」
「もぉぉ! おじさんっぽい事をまた言うんだからぁ! ……でも、ちゃんとスカート、見てくれてたんだ。ありがとー。嬉しいっ!」
「それじゃあ、行こうか? なんかね、南雲さんがレストラン予約してくれたらしいんだよ。タダなんだって! タダで食べられる豪華ディナーとか、これは上がるね!!」
「ふふっ、特別な日でも六駆くんは六駆くんだね。そんなとこも好き!」
六駆はジーンズに黒いジャケットを羽織っている。
この男のファッションセンスを舐めてはいけない。
背中に「莉子」と金ラメで描かれたマントを翻し、
それなのに、今日の彼はオシャンティー。
これには涙ぐましい努力があった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
とある施設のとある部屋。
どこかは敢えて言わないが、多分諸君のご想像の通りである。
「南雲さん。サーベイランスの感度良好です。3基とも問題ないっすよ」
「よし。では、逆神くんがアレをナニした時にはすぐに対処できるように」
「……言われた通りにするっすけど。デートくらい2人きりでさせてあげたら良いじゃないっすか」
「君ね。逆神くんの服を見て、どう思う?」
「良い感じっすね。ちょっと背伸びした高校生って感じで、好感が持てるっす」
「そうだろう。あれ、私が買ったんだ」
「うわぁー。過干渉っすよ、それー」
「山根くん。この写真を見てくれ。逆神くんにデートの時に着ていく服装をスマホで撮って送ってくれと言ったら、これが来た」
「ブルドッグのついたジャージっすね」
「あの子、お父さん嫌いなくせに根っこの部分が似てるんだ。もう絶望したね、私」
南雲は莉子が相当気合を入れた服を着て来る事を計算していた。
ならば、六駆にだってオシャレな恰好をさせて、その姿を見た莉子が喜ぶ方が良い。
小坂莉子は逆神六駆の制御を完璧にこなしてくれる、南雲にとっては得難き部下。
普段から頑張っている彼女が、クリスマスイヴと言う特別な日くらい、普通の女の子みたいな幸せを味わったって良いはずだと監察官殿は考えた。
「私の行きつけのレストランを予約しておいた。今日の私に抜かりはないぞ。タウン誌にも紹介された、デートで行きたいランキング1位の店だからな!」
「たっはー! 自分では恋人同伴で使えないから逆神くんたちに使ってもらうんすね! 南雲さん、優しいっすねー! ぷっ!」
「デートスポットに独身の男が行って何が悪い!? おおい! なに笑ってんの!!」
「いや、すんません! 南雲さんが……ぷっ、ナグモがカップルに囲まれてぼっち飯してるとこ……くくっ……想像したら……ふっふふっ……」
「やーめーろーよぉー!! あと、どさくさに紛れてスカレグラーナ訛りで呼ぶな!!」
「あ、南雲さん。2人がお店に入りますよ」
南雲はひとまずミッション達成を喜んだ。
件のレストランの窓際、1番夜景が綺麗に見える席を予約しておいたのだ。
今頃はきっと、2人して感動しているだろう。
「おー! 美味そうっすね!」
「そうだろう!? 料理が絶品なんだよ!」
「ビッグマック!」
「おい、待て! 2人って今、どこにいるの!? おおい! 駅前のマックじゃん!! なんで!?」
南雲は膝から崩れ落ちた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「莉子、本当に良かったの? なんかモンスターの名前みたいなイタリアだかフランスだかの料理の方が良かったんじゃない? 女の子ってああいうの好きでしょ?」
マクドナルドでビッグマックセットを頼んだ六駆。
飲み物はマックシェイクを選ぶのが彼のジャスティス。
「んー。そーゆうところはね、もっと大人になってからでいいかなって! だって、これからも六駆くんと一緒にいられるんだもん! ……だよね?」
「うまぁい! そりゃあもちろん! 僕と莉子は共犯者同盟だし、莉子なしで現代社会を生き抜く術を僕は知らないから。ずっと一緒にいてくれると助かるなぁ!」
逆神六駆、マクドナルドの中心で愛を叫ぶ。
もう結婚したら良いのに。
「六駆くん、マクドナルド好きだもんね! わたしは六駆くんの好きが好きだから、今日は一緒にハンバーガー食べられて幸せだよぉー」
「僕も莉子と一緒だと安心できるから助かるよ! ナゲットも買っちゃおう! 見てて! 僕、今度は独りで注文してみせるから!!」
雨は夜更け過ぎに雪へと変わりそうもない好天に恵まれた今年のイヴ。
気合を入れたオシャレ着でやって来たのはマクドナルド。
雰囲気も色気もないが、彼らにとってはこれがベスト。
2人が笑っている姿をサーベイランス越しに見ていた南雲も最後には頷いたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「よし。山根くん。レストランに行くぞ」
「冗談きついっす。なんでおっさんと一緒に夜景の綺麗な窓際の席でイタリアン食わなきゃなんないんすか」
「だってもったいないじゃないか! 高かったんだぞ! キャンセル料まで取られるのは嫌だ! 行こう、山根くん!」
「分かったっすよ。ちょっと待ってください。カタカタターンっと」
数分後、南雲監察官室の扉がノックされた。
誰だろうと出迎えると、そこには。
「なんだ、南雲。緊急の用事と言うのは。私でなければならんと聞いたが?」
「ええっ!? はっ! や、やーまーねぇー!!」
「五楼さん。南雲さんがっすね。レストランを勢い余って予約してしまって、一緒に行く相手がいないんすよ。食事、まだっすよね?」
「まだだが? 今日は忙しかったからな。昼食も取り損ねていたところだ」
山根の瞳が怪しく光った。
「五楼さん、イタリアンって好きっすか?」
「嫌いではないぞ。肉が多めだとなお良いな」
「南雲さん! レストランに30分遅れる旨を連絡しといたっす! 行ってらっしゃい!!」
「……モルスァ」
五楼京華は仕事が恋人。
今日がクリスマスイヴである事に気付いていない。
「どうした、南雲。予約をしたのならば行かねばなるまい。お店の方に失礼だ。食材にも申し訳がない。仕方がないから私が付き合ってやろう」
「あ、はい……。あの、五楼さん? 1つだけ約束してもらっても良いですか?」
「なんだ? 勘定の割り勘か?」
「あ、いえ。そこは私が出しますので。……その、食事の後に気分を害されても、私に八つ当たりしないで頂けたらと……」
「ん? いまひとつ意味が分からん。まあ、料理が不味かったら文句のひとつくらい言うかもしれんがな。さあ、行くぞ」
「正門前にタクシー呼んであるっすよ! 今日はお二人とも、直帰してもらって大丈夫なんで! 明日にでも食事の感想聞かせてくださいっす!」
「うむ。分かった。手配ご苦労」
「山根くん。私は君を恨むぞ……」
レストランに2人が到着。速やかに入店。
前菜が運ばれて来たタイミングで五楼が「これ、クリスマスディナーではないか!?」と気付き、南雲がこのあと滅茶苦茶怒られた。
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