第264話 逆神流奥義・ダメ親父口寄せの術!

「ふふふっ。ボクの蓄えていた脂肪は全て煌気オーラに変換できるんですよねぇ。そらそら! 『脂肪乱射撃ラードマシンガン』!!」


「五楼さん、ここは僕が! 『鏡反射盾ミラルシルド二重ダブル』!!」

「よし! 逆神、このタイミングで距離をとるぞ!」


 大将戦はお互いがけん制し合う形で時が流れていた。


 六駆は現在、南雲の治療のために『時間超越陣オクロック』を並行して発現中。

 いくら煌気オーラ倭隈わくまダンジョンで溜めて来たとは言え、元英国Sランクたちを倒したのちの連戦であり、いきなり極大スキルの連発はできない。


 五楼にもある思惑があった。


「逆神。お前の力は正直なところ、あまり下柳に見せたくはない」

「五楼さん……。僕の事、好きなんですか?」



「黙れ、痴れ者が! ぶち殺すぞ!?」

「やだー。軽いジョークじゃないですかー」



 五楼は「ふぅ」と息を吐き、冷静さを取り戻す。

 その過程で「南雲が生き返ったら、ボーナスを出してやろう」と、日頃から六駆の世話をしている部下を慮った。


「貴様の逆神流の情報はアトミルカに渡したくない。できるだけ普通のスキルに見える攻撃で下柳を倒したいのだ。だから貴様も小坂や木原をダンジョンに置いてきたのだろう?」

「いえ! 女の子に死にかけでお腹に穴空いたおじさんを見せるのはアレだなと思って!!」


「……そうか。まあ、結果としては良かった。どうだ? 例えば剣技だけで下柳と戦えるか?」



「ええー!? ストレス溜まりそうだから嫌です!!」

「ちぃっ! 南雲! 早く生き返ってくれ!!」



 五楼京華は数万人の探索員を束ねる女傑。

 その統率力も極めて秀でているが、それと逆神六駆を上手く扱えるかはちょっと話の次元が違う。


「ボクを抜きにして作戦会議とは寂しいじゃないですか。逆神くん。君だけは日本探索員協会のアンノウンなんですよねぇ。そのスキルの特異性と言い、トリッキーな強さと言い。まさかその欲しいデータがそちらから来るとは! 助かりますねぇ!!」



「五楼さん、五楼さん! あの痩せた下柳さん、僕と自称が被って不愉快なので、さっさと倒して良いですか!?」

「貴様は人の話が聞けないのか? 幼稚園児だってもう少し聞き分けが良いぞ」



 そこで六駆は考えた。

 ならば、比較的どうでも良いけどそれなりに戦える人間を立ててやり過ごそうと。


 久坂と木原が戦っている事は煌気オーラの揺らぎで分かっていた。

 現状、協会の人間は手一杯である。

 だが、六駆には便利な人間の心当たりがある。


「すみません、五楼さん! 名案を考えたので、2分ほど留守にします! 『ゲート』!!」

「なに!? おい、嫌な予感がするからヤメろ! 戻れ! おい、逆神!!」


 六駆は『ゲート』の中に消えて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神家の庭に門が生えて来る。


「じいちゃん! 親父いる?」

「おお、六駆か。おかえり。大吾ならパチンコに行ったぞい」


「そっか。5万円あげるからすぐ帰れって電話してくれる?」

「なんか知らんが、分かったぞい。おー。もしもし、大吾か? 今のぉ」


 六駆は時間を無駄にしない。

 倉庫の中にある埃をかぶったガラクタの中から、剣を2本ほど拾って来た。


 これは四郎が昔作った武器であり、異世界ではそれなりの業物として好評を得たとか。

 現世に戻っても暇に任せて武器作りをしていたのだが、「銃刀法違反」について知った20年前から特に刃物を作る事からは足を洗っていた。


「じいちゃん。この剣借りて行くよ」

「ええけど、もう長いこと手入れもしてないぞい? ちゃんと使えるかどうか知らんが」


「平気、平気。使うの僕じゃないから」

「そうか。そんならええか!」


 六駆の準備が整うのと同じタイミングで、ブルドッグのジャージを着たおっさんが全力疾走で帰って来た。


「おい、六駆ぅ! ちょうど金がなくなったんだよ! 助かるわぁ! あと1万円で絶対当たるから! 5万くれ! 早く! パチンコ屋に戻らねぇといけ」

「ふぅぅぅぅんっ! じゃあ、行って来ます」


 1人庭に残された四郎は消えて行く『ゲート』を見て、「働くのって大変じゃ」と静かに頷いたと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おぎゃああぁああぁぁっ!! ど、どこですか、ここ!? なんで俺、連れて来られたんですか!? うぉぉお! 戦場じゃんか、六駆ぅ!?」


 予定時間をオーバーして5分で協会本部に帰還した逆神六駆。

 手土産に新鮮なダメ親父を連れて。


「き、ききき、貴様ぁ! 逆神! 貴様、よりにもよって、何を連れて来るのだ!?」

「うちの親父です! それなりに戦えて死んでも困りません!!」


「んあ? その声、おお! 京華ちゃんか!? いやー! 久しぶりだなぁ! 20年くらいぶり!? いい感じに年取って、綺麗になったなぁ! ねぇ、なんで何も言ってくれないの? ほら、君の剣の師匠だよ? 大吾さんって呼んでくれてたじゃん! ほら、呼んでごらん? 恥ずかしがらずに! 愛を込めて! 大吾さべぇぇぇぇぇぇぇぇっ」



 五楼京華、あまりにも急なバッドエンカウントについつい手が出る。



「……逆神。貴様、私のメンタルを削ってどうする。私が2度と顔を見たくない男をわざわざチョイスしてくれるとは」

「でも、剣技で戦うにはもってこいな人選ですよ? ほら、剣も持参しました!」


 五楼は六駆の持って来た剣を見る。


「その剣……。手入れはされていないが、かなりの上物だな。さぞ名のある名工の作ったものだろう。どこで手に入れた?」

「うちのじいちゃんが作りました!」



「貴様の家はどうなっているのだ。頭おかしい人間しかいないのか?」

「あっはっは! よく言われます!!」



 ぶっ飛ばされた大吾が戻って来る。

 六駆のガチスキルでも死なない耐久性はスカレグラーナで実証済み。


「なんですかねぇ、この小汚い中年は。どう見ても探索員ではないようですが。まあ、目障りですしねぇ。消しておきましょうかねぇ。『脂肪爆弾遊戯ラードユラユラボム』!!」

「な、なんだてめぇ! この野郎! いきなり会って失礼じゃねぇか! あぎゃあぁぁぁぁっ!! いてぇ! いったいわぁ!! 痛いぞ、こんにゃろー!!」


「……はて。ボクとしたことが、目標を誤りましたかねぇ?」

「六駆! 剣貸せ、剣! この野郎、初対面なのにいきなり攻撃して来やがった! 多分、パチンコで負けたのも全部こいつのせいだ!!」


 ギャンブルの負けを何かのせいにし始めると、それは依存症のサインです。

 近しい人のその兆候が出た時には、速やかに専門機関へ連絡しましょう。


「親父! 五楼さんが親父の剣技を久しぶりに見たいってさ!」

「おお、マジかよ京華ちゃん! へへっ、じゃあ俺、頑張っちまうぜ! なぁに、礼なんていらねぇよ! この戦いが終わったら、お茶しに行こうぜ! あと、5万円もちょうだい! それから、消費者金融の保証人になって!」



「逆神。息子のお前に言いたくないが、あの痴れ者、生かす価値ってあるか?」

「僕もたまにパチンコ台に頭ぶつけて死ねばいいのにって思う事ありますよ!!」



 緊急対戦カードが発生。

 反社会組織アトミルカのシングルナンバー・下柳則夫VS社会不適合者の元周回者リピーター・逆神大吾。


「目障りですねぇ。『脂肪彗星ラードスター』!」

「おっしゃあ! 二刀流! 『風神雷神大乱舞エアロサンダラクラッシュ』!!」


「……ボクのスキルを2度喰らって生きている。どうやら、あなたもアトミルカの邪魔になりそうですねぇ」

「あぁん? ルカって誰だ!? その子、可愛いのか!? どこのガールズバーの子!?」


 六駆は南雲の様子を確認するために戦線を離脱。

 フラフラと足元おぼつかない五楼も、戦うおっさん2人から距離をとった。


「あと15分もあれば大丈夫ですね! 南雲さんは順調です!!」

「和泉、すまんが回復を頼む。ひどい精神攻撃を受けた」


 戦場は混迷を深めて、行きつく先を見失い始めていた。

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