第263話 木原久光VS梅林蓮司 協会本部・アリーナ北側
「雷門くん! 大丈夫かい!?」
「楠木さん! 正直キツイですね! そっちは梅林くんもいるのでしょう?」
アリーナ後方の雷門が作ったシェルター周辺では、2人の監察官が梅林軍団の相手をしていた。
梅林軍団と言えば、トップがAランクの部隊ではないか。
諸君がそう思われるのはもっともであり、ほとんど目立つことなく1回戦で消えて行った部隊について覚えて頂けているだけでも恐悦至極。
だが、上官の下柳則夫が真の力を隠していたように、梅林軍団も上官から「いいかい? 君たちの力は常に抑えておくんだよ?」と言い含められていた。
それがついに解放され、なかなかに強力だった。
少なく見積もっても1人の戦力はAランク上位級であり、梅林蓮司に至ってはSランクで間違いないと2人の監察官は見積もっていた。
これが同じ条件での戦闘であれば、雷門監察官も楠木監察官も彼らに遅れを取らない。
しかし、これは試合ではない。
侵略行為なのだ。
当然、使えるものは全て利用する。
梅林軍団は腹立たしい事に、とてもクレバーな戦い方を選んでいた。
Cランク以下の探索員を無差別に攻撃しながら、監察官と対峙する。
そうなると、雷門、楠木両監察官は、何を置いても探索員の安全を確保するのを最優先に動かざるを得ない。
梅林軍団はこの2名がそういう人間だと熟知していた。
伊達に長らく協会本部に潜伏していない。
「ここで不甲斐ない戦いをすれば、南雲くんに笑われますな」
「ええ。彼は今、逆神くんが治療中だとか。せめて彼ともう一度会うまでは生きていたいものだよ」
とは言え、戦況は極めて悪い。
雷門監察官はシェルターの構築で
そんな時、唸り声が本部の建物から響いてきた。
「うぉぉぉぉん! なんか俺様がいないあいだに、とんでもねぇことになってんじゃねぇかよぉぉぉ!! 福田ぁ! お前、戦えるか!?」
「無理ですね。精々3人が私の力量でカバーできる限界です」
「以外とイケるじゃねぇの! じゃあ、2人だけ引き受けろ! 俺は梅林をまず片付けるからよぉぉぉ! 雷門! 楠木のおやっさん! あんたらは探索員の世話してな!!」
木原久光、
「すみません、助かります木原さん!」
「申し訳ない。ボクたちが不甲斐ないばかりに」
「何言ってんだよぉ! 見たところ、探索員に怪我人が出てねぇじゃんかよぉ! 俺にはそんな器用な戦い方はできねぇ! やるじゃねぇか、お二人さんよぉ!!」
最強の監察官、木原久光。
彼なりの労いの言葉を雷門と楠木に捧げて、戦場のど真ん中に仁王立ちする。
「おらぁぁぁ! かかってこんかい!! 隠された力ってのを見せてみろやぁぁ!!」
「木原さんか。全員、聞け! こうなると雑魚を狙って戦う旨味がなくなった! 全員で木原さんを集中的に狙うんだ!!」
木原監察官と梅林軍団の戦いは静かに始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「無駄に
梅林蓮司は卓越した戦闘指揮能力を持っていた。
そうでなければ、実力者が実力を隠してこれまで潜み続けていられた理由がない。
梅林軍団の団員も、リーダーに従っていれば間違いはないと考えているため、指示が飛ばされてから対応するまでのタイムラグが極めて少ない。
「うぉぉぉぉぉんっ!!」
集中砲火に遭う木原監察官。
その悲痛な叫び声が周囲に轟く。
「いいぞ! 攻撃の手を緩めるな!!」
「だぁれを攻撃してるってぇ? 梅林ぃぃっ!!」
木原の影は未だに砲火の渦中にある。
にもかかわらず、梅林の背後には木原久光が立っていた。
「それでは、『シャドーサンドバッグ』を解除しますよ、木原さん」
「おう! 福田ぁ! 陰気なスキル使わせたらお前は1番だぜぇ! うぉぉぉんっ!!」
福田弘道は使用できるスキルが少ない。
攻撃スキルに限れば1つか2つしかない。
代わりに普通は覚えないような支援スキルを多く習得していた。
それが木原監察官室の助手として無駄のない
『シャドーサンドバッグ』は木原が筋トレするためのスキル。
形を自在に選べる
今回は木原監察官の姿をしていた。
「ふ、福田だって!? うちのメンバーを相手にするって話は!?」
「そりゃあ嘘だよぉ! 俺様だって嘘つくんだぜぇ? 歯ぁ食いしばれ!! ダイナマイトォォォォォッ!!!」
木原監察官の一撃必殺『ダイナマイト』が炸裂する。
が、梅林蓮司は辛うじて致命傷を避けていた。
「団長、大丈夫ですか!?」
「ぐっ。すまない。他のメンバーはどうした?」
「全員捕縛されました。福田と山根の連携攻撃です」
「……そうか。山根も無傷だったな。あいつらはAランクの中でも優秀だから、仕方がない」
そう言って梅林は、Aランク探索員の研修などで交流を持っていた福田弘道と山根健斗の事を思い出す。
自分の選択に間違いはなかったと、梅林は断言できる。
アトミルカの存在は麻薬のように梅林の心を蝕み、虜にしていた。
だが、山根や福田と一緒に過ごした時間もまた、今の梅林蓮司を構成している記憶の一部なのである。
「安村。お前のテレパシースキルで下柳さんのところへ伝令を飛ばしてくれ。ご一緒できそうにありませんが、ここでヤツらの足は止めます、と」
「……了解!」
生き残りの団員である安村のスキル発現を見届けて、梅林は
「最後の内緒話は終わったか?」
「ご配慮感謝します。木原さんと手合わせできるなんて、光栄ですよ」
「俺は別にお前なんかと勝負しに来たわけじゃねぇぜぇ?」
梅林が時間を使わずに即反撃に転じられていたら、木原も頭を悩ませただろう。
敵が回復と伝言のために使った時間を木原も有効活用していた。
「木原さん。雷門監察官と楠木監察官のご準備、整いました」
「全力であなたの周りを壁で固めます!! 『
「上空はボクに任せてもらいますよ。『ソニックエボナイト』!!」
木原と梅林を囲むように岩の壁と音波の膜でドームが出来上がる。
「俺様のパンチはよぉ! 周りのヤツまで巻き込んじまうからなぁ! せっかく助けに来てやったのに、雷門と楠木のおやっさんの努力をなしにすんのは、粋じゃねぇだろぉ!?」
「参ったな。あなたにそんな配慮が出来るなんて。まだまだ探索員協会の中でも、知らない事の方が多いんですね」
「終わりだぜぇ? 精々、最後にめいっぱい撃ちな!!」
「本懐です……! いくぞっ!! おおおっ!! 『メタルブレッド・フルバースト』!!」
梅林の具現化された金属の弾丸が木原に向かって襲い掛かる。
鉄の雨を受けながら、木原久光は叫んだ。
「ブレッドじゃなくてよぉ! バレットかブレットだろうがぁぁ! 食パン焼いてんじゃねぇんだよぉぉ! ダァァァイナマイトォォォォォォッ!!!」
木原久光の『ダイナマイト』の威力は凄まじかった。
雷門の作った岩の壁に叩きつけられ、そのまま上空へと飛び出そうとする梅林の体を天井の楠木が作った防壁が邪魔をする。
力なく地面に落ちた梅林蓮司は、最後に呟いた。
「……なんて、こった。……ずっと、間違った、名前。叫んでた、のか」
「ちくしょぉぉ!! なんか俺の見せ場が、こいつの誤用に持っていかれたぁぁぁ!!!」
決着がついたらしいと知ったCランク以下の探索員は歓喜に沸いた。
福田は速やかにドーナツと午後の紅茶の準備に取り掛かる。
数あるストックされたドーナツの中で、福田はフレンチクルーラーを選んだ。
木原の機嫌も直り、また1つ脅威が排除されたのだった。
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