第259話 急襲
こちらは10分ほど時間を遡った探索員協会本部。
各監察官室や所定の場所に転移室は多く設置されており、【
オペレーター室の隣にも転移室があった。
「やれやれ、ようやっと帰って来れたわい。55の。ここが協会本部じゃ」
「何と言う清潔な空間……! 煙草と火薬から漂う悪臭にまみれた場所ではないのか!?」
「お主、探索員を何じゃと思うちょるんじゃ。ほれ、行くぞい。とりあえず近所の蕎麦屋で美味いカツ丼の出前取っちゃるけぇ。腹が減ったじゃろ?」
「く、久坂……!! 確かにそうかもしれん!!」
だが、55番が美味いカツ丼にたどり着くのはかなり先の事になる。
「久坂殿。ちょうど良いところにお戻りになられましたね」
「おお、五楼の嬢ちゃん! 新鮮な捕虜連れて来たけぇの! それからこりゃあ土産じゃ。タンプユニオールに転がっちょった綺麗な石」
一見ふざけているようなやり取りだが、この「異世界で見つけた綺麗な石」から大発見に繋がる事も多いので油断はできない。
久坂監察官室のオジロンベも、元は南雲がスカレグラーナで採取したイドクロアの中から「これ、綺麗じゃのぉ」と彼が手に取ったのが始まりである。
「お気遣いに感謝します。すみませんが、捕虜の聴取と同時に各地のダンジョンの状況確認をしたいのでオペレーター室に同行願います」
「おお、よし来た。55の。カツ丼はちぃと後回しじゃ。代わりに鳩の形したサブレをやろう。あれ、美味いんじゃぞ」
オペレーター室では各員が慌ただしくも冷静に作業をこなしていた。
久坂はセーラに挨拶をする。
彼女は嬉しそうに彼の帰還を喜んだ。
「セーラ。各ダンジョンの様子はどうだ?」
「はい、五楼さん! 現在大きな混乱はありません! ただし、問題は発生しています」
「時系列順に報告しろ」
「はい。
五楼はため息をつく。
「あの痴れ者め……。他は問題ないか?」
「あとはチーム莉子の逆神Dランク探索員がダンジョンの壁を削って、床に穴を作り、信じられないスピードで侵攻していますが、同じ速度でダンジョンの崩壊も進行しています」
「さ、逆神……! あの痴れ者が!! ダンジョンを1つ消す気か!?」
「ひょっひょっひょ! 相変わらず、あの小僧の戦い方は見ちょって飽きんわい」
六駆のご乱行がメインモニターに映し出される。
55番が手錠をハメられた手で久坂の服の裾を引っ張る。
「こちらの知っている事は全て話すから、どうか命だけは助けてくれ!!」
「ひょっひょっ! のぉ、五楼の嬢ちゃん。六駆の小僧も役に立つじゃろ?」
「まあ、脅す手間が省けた事は認めましょう」
それから55番の知り得る情報の開示が行われた。
彼の言葉は嘘発見器にかけるまでもなく、真実だと2人は判断する。
これまでのアトミルカの動きと完全にリンクしているからだ。
「つまり、各地のダンジョンの騒乱は全て陽動だと言うのか? その可能性も考えてはいたが、あの数の構成員を捨て駒にするのか、貴様たちは!?」
12か所のダンジョン。
その全てが探索員協会の注意を引き付けるための囮だと55番は語った。
五楼が驚くのも当然であり、アトミルカの構成員は少なく見積もっても1500人ほど動員されている。
その全てを最初から切り捨てる算段だと言うのは、人道的に考えて余りにも非常識だった。
「やっぱりのぉ。タンプユニオールでも思うたけど、お主ら仲間意識が凄まじく希薄じゃもんなぁ。あんなもん、上官と部下の関係じゃないで? 主と奴隷じゃ」
久坂の見立ては真実を捉えていた。
アトミルカは上位ナンバー20まではほとんど固定されているが、それ以下は常に流動的。
有能な人間を得る事が出来ればすぐにすげ変える。
欠員が出ればどこかから補充してくる。
55番もタンプユニオール作戦で一緒になった構成員の中に1人として顔見知りはいなかったと言う。
「つまり、貴様らの目的は。……この協会本部か!」
「じゃろうのぉ。精鋭を四方八方に飛び散らかしちょる現状を考えるとのぉ」
五楼が結論にたどり着いたタイミングで、外が騒がしくなる。
ドンッドンッと着陸音が響き、先ほどまで対抗戦を行っていたアリーナから悲鳴が上がる。
「これは、【
「ひ、ひぇっ!」
「怯えてワシにくっ付くなよ、55の。ええ加減鬱陶しいっちゃあない」
55番は恐る恐る、彼の知っている情報で1番の大物を口に出した。
「アトミルカの現8番は、日本探索員協会の監察官だ!」
さすがの五楼京華も、その言葉を飲み込むのに数秒の時を必要とした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「Cランク探索員は退避!! 雷門さん! シェルターを作ってください!!」
「任せてくれ、南雲くん! 『
雷門善吉は土属性スキルのエキスパート。
彼が作ったシェルターは、ちょっとやそっとじゃ壊れない。
「げほっ、げほっ。南雲さん、小生が足を止めましょう。『
和泉正春が血を吐きながら応戦。
地面を腐らせる事で沼のような落とし穴を展開する。
「これは困りましたねぇ。ボクのスキルは戦闘向きじゃないんですがねぇ。『
「私も微力ながら手伝いましょう。『ソニックショック』!」
下柳則夫は自分の体から作り出した脂たっぷりの火炎瓶のようなスキルでアトミルカをけん制、そこに楠木秀秋が超音波で身動きを封じる。
さすがは一騎当千の猛者たち。
先行して飛来して来た2桁ナンバーたちを圧倒していく。
「……なるほど。これは手強い。8番様の準備が整うまで、我らがお相手しよう」
そこにやって来るのが倭隈ダンジョンを脱出した10番。
彼の両脇には13番と15番。
「くっ! まだ混乱が収まっていないと言うのに! 楠木さん、指揮権を一時委譲します! 私と山根くんで新手の3人を受け持ちましょう! 皆さんはCランク以下の避難を最優先でお願いします!! 行くぞ、山根くん!!」
「ええー。だって自分、武器もないんすよ? それをいきなり戦えとか。これはもうパワハラっすよ。スタッフサービスに電話しなきゃ」
「武器ならあるだろう! 君が片方壊してもう『
「これ使っていいんすか!? 自分の専用装備にしても!? なんだ、南雲さん話が分かるぅー! 自分、援護射撃とフレンドリーファイアならお任せっす!!」
「本当に嫌なヤツだな、君ぃ! いいよ、それあげるから! 君の実力をしっかりと発揮してくれ!! さあ、行くぞ!!」
南雲は『
山根が『
白衣の2人がアトミルカ10番台の3人と向かい合った。
「かかるぞ。足を引っ張ってくれるなよ」
「抜かしておれ。若造の分際で10番などと、度し難い」
15番は老兵。
かつての10番だったが、寄る年波には勝てず年々序列を落としている。
「ぷー! ウケる! これが日本で言う老害ってヤツかー! じいさん、がんばー!!」
「減らず口を! 小娘が!!」
13番は20代の女性幹部。
実力至上主義のアトミルカでは、老いも若きも男も女も関係ない。
強さこそが正義であり、たった1つの厳格なルールなのだ。
「いくぞ。『クラウドスモーク』!」
10番が放った漆黒の煙が立ち込めるアリーナ。
視界を奪われる中、南雲修一の孤独な奮戦が始まる。
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