第258話 逆神六駆VS元英国Sランク探索員

 ジェパートとマイクが六駆と対峙する。

 10番は今のところ戦闘に加わる様子を見せない。


 もう1度彼らの煌気オーラ総量を確認しておこう。


 ジェパートが1南雲。

 マイクが3南雲。

 10番も3南雲。


 いずれも強敵である。

 これも繰り返しているが、煌気オーラ総量イコール戦闘力ではないので、南雲修一が彼らよりも弱いと言う訳ではない。


「ハハハッ! ジャパンでは貰ったものに返礼するのがマナーだろ? なら、今度はこっちの番だ! 『ユニコーンスピア』!!」


 ジェパートが真っ白な槍を具現化した。

 彼の得意武器だろうか。


「早速勝負を決めにかかるか。それで良い。『ブレイジングフレア』! やれ、ジェパート!」

「残念だけど、君とのお喋りはここまでだ! 『フレア・ユニコーン』!!」


 ジェパートの槍にマイクの獄炎が乗り移り、そのまま美しい投擲のフォームで六駆に向かって『ユニコーンスピア』を投げつける英国コンビ。

 しかもジェパートの手を離れた『ユニコーンスピア』は巨大化する。


 もう槍ではなく、尖った巨大な煌気オーラの塊である。


「これは珍しい! 避けると莉子たちが危ないけど、盾で防ぐとまた面倒ですね! ならば! 『光剣ブレイバー二重ダブル!』 二刀流! 『次元十文字大切断じげんじゅうもんじだいせつだん』!!」


 六駆の二刀流、正式解禁。

 彼は逆神流剣術が好きではない。



 自分の親父が嫌いだからである。



 だが、好む好まざるを戦いには持ち込まないプロフェッショナルが逆神六駆。

 使えるものなら鼻くそだって使うのだ。


「おいおい、マジかよ! 本当にサムライボーイだったのか!」

「あの剣は具現化武器のようだが、驚いた。炎そのものを切り裂いたぞ」


「楽しいスキル談義は今度にしましょう! 『古龍拳ドラグナックル』! さらに『瞬動しゅんどう』! もうひとつオマケに『幻想身ファントミオル』!!」


 六駆が300人に増えた。


「面白いボーイだ! 『スライサー・スピン』!!」


 ジェパートは細く長い刃を創り出して、そのまま回転する。

 凄まじい勢いで六駆の幻が霧散していく。


「手伝おう。『インフェルノ』!!」


 そこにマイクも加わり、刃と炎の共演が始まった。

 これほどの広範囲攻撃になると、『幻想身ファントミオル』の中に紛れ込んでいてもダメージは回避できないだろう。


 ちゃんと幻の中に本体がいればの話であるが。


「……すみませんね! こっちも背負ってるものがあるので!! 『竜翼急降下・麻痺手刀ドラグライダー・パラライズドリル』!!」


 ちなみに、六駆の背負っているものは実家の借金。

 彼らの背負う組織の密命とどちらが重いのかを計算するのは無粋だろう。


「こ、こいつ! いつの間に天井から!? ま、麻痺を解かねば!」

「ジェパート! よせ!」


「あらら、その隙は見逃せませんよ! 二刀流! 『雲外蒼天うんがいそうてん紫陽花あじさい』!!」


 六駆に使えないスキルはない。

 苦手としている治癒スキルだって、時間をかければ模倣が可能。


 ならば、何回も見て来た上官の必殺技であれば言うに及ばず。


「がぁっ!?」

「このバカ野郎! ジェパート、気を抜き過ぎだ!!」


「あなたたち、1南雲とか3南雲とか言わせてもらいましたけど、南雲さんに失礼だったなぁ。……うちのコーヒー噴く上司は、あなた方よりもずっと強いですよ!」


 何だかんだで六駆は南雲の事を認めている。

 ジェパートの体に咲いた美しい紫陽花がその証拠だろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「くそっ! 『ヒーリングスライム』!! 自律発現!!」

「うわぁ! 気持ち悪い回復スキル! それは真似したくないなぁ!」


 六駆の放った南雲製の必殺技は、ジェパート・アルキンソンに深刻なダメージを与えていた。


「そっちの10って書いてある人! ピンチですよ! 参加しないんですか?」

「……マイク。やれ。08を返上したくなければな」


 0番台のアトミルカ構成員は、言わば客員扱い。

 この場では正式な構成員である10番が実権を握っていた。


 あくまでも10番は高みの見物を決め込むつもりらしい。

 後ろに控えている莉子たちに攻撃させようかと六駆は数秒考えたが、それは愚策であると自分で却下する。


 実力が未知数の相手を試すならば、自分の手で。

 大事な仲間を危険にさらすなど、下策も下策。


「ぐおぉぉぉっ!! 『ボルケーノアーマー』!! お前、マグマの温度を知っているか?」


 マイクは体から溶岩を生み出し、それを衛星のようにして周囲を舞わせた。

 初見であれば戸惑うかもしれないが、その種類のスキルを六駆はよく知っていた。



 と言うか、数週間前に久坂と南雲と3人で作った。



「やっぱり久坂さんが言った通り、花びらにして正解だったなぁ! 溶岩を体の周りに散らかしているおじさんって、もう見た目が美しくないもの! 暑苦しい!」


 そのスキルは、小鳩の『銀華ぎんか』にそっくりだった。

 ただし、纏っている溶岩に込められた煌気オーラは小鳩の比ではなく、実に高密度。


 例えばオジロンベ製の武器である金槍・水鳥ヴァッサー・フォーゲルでさえ、この溶岩衛星に触れたら溶けて原形を留めていられないだろう。


「年端も行かない子供の命を獲りたくはなかったが! 『ボルケーノ・ストリーム』!!」

「ああ、はいはい! やっぱりそうしますよね!」


 マイクは溶岩衛星をいくつも集めて、六駆目掛けて襲い掛からせる。

 この攻撃方法は小鳩に教えたものだ。


 さらに言えば、ルベルバック戦争で阿久津が使っていたスキルの応用で考案したものであり、その特性を六駆は熟知していた。


「ふぅぅぅんっ! 『虚無の豪雪フィンブル・ゼロ』!! かーらーの!! 『古龍拳・大流星群ドラグナックル・メテオール』!! ふんふんふんふんふんふんっ!!」


 溶岩衛星を急激な冷気で凍らせる。

 それだけでは数秒ののちに、衛星は復活してまた動き始めるだろう。


 だから六駆は数秒の間も開けずに、『古龍拳ドラグナックル』の連打を繰り出した。


「な、なんなんだ!? お前! ただの探索員じゃないのか!?」

「ふんふんふんふんふんふんふんっ! ふぅぅぅぅぅぅんっ!!!」


 マイクの『ボルケーノ・アーマー』は全て粉砕された。


「嫌だなぁ。僕は逆神六駆。Dランク探索員ですよ! チーム莉子のね!!」


「そ、その背中の文字! 読めんが、ジャパンで死を意味する言葉か!? くそったれ! ジェパート、まだ回復は済まないのか!? オレたちは、とんでもない悪魔を相手にしてしまった!!」



 久しぶりに風評被害を受ける「莉子」の文字。



「さあ! まだ戦えるでしょう? これで終わりなんて思われると心外だなぁ! 僕の中では準備運動ですよ!!」

「ジーザス! 悪魔め……!!」


 逆神六駆の戦いはまだまだ続く。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あれ? あの人……」

「どうしたにゃー? 莉子ちゃん?」


 後方で六駆の戦いを観戦中のチーム莉子の乙女たち。

 完全に六駆1人で英国Sランクコンビを手玉に取っているため、全体を見渡す余裕のある莉子さん、10番の不審な動きに気付いていた。


「……頃合いか」


 10番の手には【稀有転移黒石ブラックストーン】が握られていた。

 あのイドクロア加工物は日本オリジナルのもので、他国にも似たようなものは存在するが、10番が持っているものは間違いなく【稀有転移黒石ブラックストーン】だった。


 莉子はその情報を仲間で共有する。


「小坂さんの言う通りですわ。あれは協会本部が管理しているものですから、アトミルカさんが持っているのはおかしいですわよ!」

「みみっ……。盗んだです? 悪い人は悪い事を平気でするです」


「あっ! 六駆くん! その人! 10番の人、止めて!!」


 莉子が叫んだのは、10番が【稀有転移黒石ブラックストーン】を使うために煌気オーラ力場を構築していたからである。


「えっ!? なんだって!?」



 そして肝心な時に難聴を患うおっさん。



「どうやら、協会本部のSランク、それも相当な手練れをおびき寄せる事が出来たようだ。悪くない。精々お前たちはここで戦い、小さな功を誇るが良かろう!」


 そう言って、10番は光の中に消えて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る