第246話 塚地小鳩VS外崎Aランク探索員 ひっそり這い寄る芽衣ちゃんを添えて

 小鳩は『銀華ぎんか』を操り、外崎を攻撃する。

 だが、外崎も言ったように小鳩は近距離戦でこそ光る探索員。


 中距離になった時点で攻撃方法が『銀華ぎんか』と『サウザンドシルバーレイ』のコンビネーションスキルに限られてしまう。

 この攻撃手段も悪くはない。


 自在に展開させる事のできる『銀華ぎんか』を変異させて、隙を作り水銀の雨槍で撃ち抜く。

 初見であれば見極めるのに相当な苦労と時間を要するだろう。


 そう、初見であれば。


 小鳩がこの戦い方をするのは対抗戦で2度目。

 楠木監察官室のメンバーは事前リサーチを綿密に行う。

 普段から機密性の高い任務に従事している彼らにとって、作戦概要の精査はお手の物。


「くぅぅっ! なんと言う素早さですの!? お排泄物のような目が背中にも付いているようですわ! そうやって普段からいやらしい目で女子を見ているのですわね!!」


 小鳩の攻撃は外崎にことごとく躱されていた。

 だが、外崎も苦戦している。


「ヤメてくれ! 妻子がいるんだ!! すごいな、南雲監察官室! トリッキーだと事前に分かっていたが、スキル攻撃と同時に社会的な攻撃までしてくるなんて! とんでもない集団だ!! 南雲監察官、あなたはそうまでして勝ちたいのか!?」


 あらぬ誤解を発信され続ける外崎。

 彼は彼で「これ以上塚地さんとの戦いが長引けば、妻に誤解され、娘に嫌われる!!」と、勝負を焦る理由があった。


 外崎は武器を取り出した。

 それは鎖鎌くさりがまであり、潜伏機動部隊の標準装備。

 彼はその扱いにおいて、部隊で1番を自負している。


「まずは武器を奪わせてもらう! 『蛇の尾突スネークヒット』!!」

「また蛇ですの!? わたくし、対抗戦で蛇の事が嫌いになりそうですわ!! こんなもの!! 『銀華ぎんか二度にどき』!! ひゃあっ!?」


 外崎の『蛇の尾突スネークヒット』は分銅が相手の煌気オーラに反応して自律行動し、攻撃を避けながらあらかじめプログラムされていた動きをする、高度なスキル。

 その分煌気オーラをかなり消費するが、ここで小鳩を落とす事が出来れば損のない取引である。


「やっ、やってしまいましたわ……! 槍が……!!」

「悪いけど、これで君は防御手段を失った!」



「お、お排泄物!! それで、わたくしにどんないやらしい攻撃をするもりですの!? 緊縛! 緊縛プレイですわね!?」

「よし子ぉぉ! 愛してるぞぉ!! ホントにこの子、アレなんだ! よし子ぉぉぉ!!!」



 小鳩と外崎の戦いはクライマックスを迎えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『塚地Aランク探索員、これは大ピンチー!! 彼女の代名詞である槍を場外に弾き飛ばされてしまいましたぁ! えー、念のために解説しておきますと、準決勝のバトルロイヤルは1度場外に落ちたものは、それが武器でも拾う事が許されません! つまり、塚地Aランク探索員! 大ピンチだぁー!!』


『外崎は地味だが堅実な戦い方をする。先ほど、小坂を無理して追わなかったのも正解だ。2対1からタイマン勝負に相手が持ちかけてくれるならば、そちらの方がずっと良い。ふむ。うちに欲しいな』


『攻撃スキルにも無駄がありませんね。塚地さんは得意の『銀華ぎんか』をずっと展開していますが、外崎くんは必要な時に煌気オーラを大量使用する戦法です。こちらは1対1の勝負ですと悪手になりかねませんが、準決勝はチーム戦ですから』


 五楼と雷門の評価が高い外崎。

 そのまま楠木監察官の探索員育成方法へと話は続いて行く。


 楠木は自主性を重んじる方針で、教えを乞われた時にのみ助言をする。

 放任主義とは違い、与えられる助言は適切で丁寧。

 探索員の得意不得意、長所と短所を見極めているがゆえにできる指導方法である。


『少しずつ劣勢の色が濃くなっていく塚地Aランク探索員! 絶体絶命かぁー!?』


 そこに迫っている影については、実況の日引も解説の両監察官も言及しない。

 放送によって片方の陣営に有利な状況を作るのはマナー違反。


 だが、着実にその影は小鳩と外崎の戦いに割って入る機を探っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……みみっ」


 芽衣の残った煌気オーラ量は極めて少ない。

 元から煌気オーラ総量の少なさが弱点の彼女が、この戦いでは大スキルを使い過ぎた。

 だが、木原芽衣は自分の無計画な戦い方を反省する事が出来る乙女。


 失敗と向き合うのにはそれなりのエネルギーが求められ、それが直近のものならばひとしおである。

 にも関わらず、芽衣は「自分にできる最後のワンプレー」を計算していた。


「……っ! なるほどですわ!! 『銀華ぎんか』!! アレンジスキル!! 『乙女の花道バージンロード』!!」


 小鳩は視界の端に芽衣を捉えた。

 彼女とはまだ、わずか数週間の付き合い。

 だが、彼女を信頼するのにはそれだけの時間があれば充分であった。


 小鳩は『銀華ぎんか』を地面に敷き詰めることで、足場を阻害していた外崎の『地雷飛び苦無サンダルランドマイン』を無効化する。


「そんな使い方もあるのか! だけど、今さら足場を安定させたからと言って!!」

「ええ! わたくしに出来るのは、もうこの程度ですわ! ですが、あなたを落とせるのではあれば悪くない手でしてよ!!」


「どうやって落とすんだ!? 君はもう、槍を持たない! さらに衛星を全て足場に使ってしまっていては、スキルも満足に使えどぅふっ!?」


 塚地小鳩、腰を落とした良いタックルであった。

 先ほど六駆がやったように、相手に攻撃する手段は別にスキルでなくとも良い。


 もちろん、虚を突かれた外崎は動きを封じられたが、それだけでは彼を攻略できない。

 小鳩の役割は、外崎の動きを止める事。


 あとは彼女の出番である。


「木原さん! わたくしごとやってくださいまし!! 遠慮は無用! 最大出力でお願いしますわ!!」

「ほがっ、なにぃ!? 木原さん!? いつからそこに!?」


「ずっといらっしゃいましたわよ? 煌気オーラ感知ばかりに気を取られて、目視による確認を怠るだなんて、あなたもまだまだですわね! そんなあなたに良いようにされた、わたくしもまだまだですわ!!」


 芽衣は静かに右手の残った煌気オーラを集中させる。

 続けて、小鳩の作った『乙女の花道バージンロード』の上を走って、拳を振りかぶる。


「みみみみっ!! 行くです!! 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』ぉぉぉっ!!!」


「どぅおっふぅっ!!!」

「お見事ですわ! 木原さん!! あと、外崎さん越しでも割と痛いですわね……」


 芽衣の残った煌気オーラ全部乗せ『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』が外崎と小鳩に直撃。

 2人は場外に吹き飛ばされる。


「みみみっ! これで芽衣も煌気オーラが空っぽです! 師匠たちの邪魔にならないようにするです!! みみみみっ!!」


 そう言うと、芽衣は自分から武舞台を降りた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『これは奇策が炸裂したぁ! 塚地Aランク探索員、なんと自分ごと仲間の木原Cランク探索員のスキルで場外落ちを選ぶー!! さらに、木原Cランク探索員も煌気オーラを使い切り、自分からリングアウトー!! これで南雲陣営の残りは3人! 対して楠木陣営は4人となりましたぁ!!』


『思い切りの良い作戦だったな。塚地と木原の意思疎通が潤滑でなければ決まらなかっただろう。1人落とすのに2人かけたのは数字で見れば愚策だが、既に戦力ではなかった木原が1人落としたことに意味がある』


『す、素晴らしい、友情でした!  ウ、ウウ、ウグッブーン! ゴノ、ごの世には、まだまだ綺麗な友情がァァァ、ブッヒィフエエエーーーーンン!!  世の! 中ガッハッハアン!! ア゛ーー世の中はまだ、捨てたものじゃないデーーヒィッフウ!!』


『はい。雷門監察官、ありがとうございました! さあ、いよいよ佳境に差し掛かって来たかぁ! 準決勝第2試合ぃ!!』

『日引。貴様の司会進行能力、すごいな……。私ですらちょっと引くぞ……』


 数字の上では劣勢のチーム莉子。

 だが、残っているメンツが非常に濃い。


 次の一手はどう出るのか。

 チェックメイトは目前まで迫っている。

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