第247話 僕たちの失敗

 6人いた南雲監察官室のメンバーも気付けば3人。

 六駆、莉子、山根のみになっていた。


「も、申し訳ありませんわ! わたくしとしたことが、1人を落とすだけで精一杯なんて……!! しかも実質落としたのは木原さん! ……よろしくってよ、南雲さん! さあ、お排泄物のように卑猥な言葉でわたくしを罵りなさいませ!!」



「……外崎くん、奥さんとお子さんとの間に誤解が生まれないと良いなぁ。本当に、どうしてうちに来る子ってみんな尖ってるんだろうね。はははっ」

「南雲さん、南雲さん。コーヒーですにゃー。山根さんが、とりあえず飲ませとけって言ってるので持ってきましたぞなー」



 場外組は目立った怪我がないようで何より。

 南雲のメンタルだけがゴリゴリ削られていくが、それは普段と同じなので多分問題ない。


「それにしても、残ったメンツがなぁ……」

「おりょ? そこで悩むんですかー? あたしとしては、ベストなメンバーが残ったと思いますけどにゃー」


「……みみっ。何となく全てを察してしまったです。芽衣はまた、上る必要のない大人の階段を2歩くらい駆け上がった予感がするです」

「木原さん、何がどうなりましたの!? この新参者の愚かなわたくしに教えてくださいまし!!」



「みみっ。六駆師匠はやり過ぎるとヤバいです。莉子さんは六駆師匠と一緒だと基本やり過ぎるです。山根さんは多分愉快犯だから火に油を注ぐです。みっ!」

「どうして私はバトルロイヤルのリーダーを木原くんに任せなかったのだろう」



 芽衣の言った事が、チーム莉子の全てであった。

 かつては六駆がむちゃくちゃしようとするのを止めるブレーキだった小坂莉子。


 現在はブースト装置になっている。


 そのブーストを止めるのが椎名クララと木原芽衣。

 だが、ブレーキシステムはどちらも場外に落ちているため機能不全。


 ならば、残った山根が頼りになるかと言えば、答えは全力でノー。


 彼は今回の試合で勝てば多額の研究費をゲットできる上に、面白い事が大好きで仕方がない。

 南雲がコーヒー噴く姿をオカズにご飯3杯は余裕。

 調子が良ければ5杯までイケる男である。


 南雲は静かにコーヒーを飲んだ。

 その味わいは奥行きがあり、かぐわしい香りが心をリラックスさせたと言う。


 つまりは凶兆であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『さあ! 人数も減って参りましたぁ! ここまで減ると、局地戦よりも集団戦にシフトしていくのが良いかと思われますが、解説のお2人のご意見はいかがでしょうか!』


『そうだな。日引の判断は正しい。……通常ならば、と言う前提だが。突出した実力者が多いこの戦場では、集団戦になると味方が巻き添えを食うか、それを嫌って力を発揮できない可能性の方が高い。つまり、私がリーダーならば誰か1人に攻撃役を任せて、残りの人員は補佐に徹する。そののち、さらに人数が減れば各個撃破に移るな』


『なるほど! さすが五楼上級監察官! 百戦錬磨の女帝の異名は伊達じゃない!! 今年もお見合いを7件断られたそうですね!?』

『貴様、どうしてそれを知っている!? いや、違う! 別に私は婚活している訳ではない! あれは実家の母がどうしてもと言うから、仕方なくだな!!』



『7件ですが!?』

『日引。貴様、ひょっとすると逆神の系譜だな?』



 日引春香は「こほん」と咳ばらいをして、「雷門監察官はどうでしょうか」と話を戻した。

 五楼が何故か傷を負っている。


『ウーハッフッハーン!! ッウーン! ずっと応援してきたんですわ! せやけどォォ!! うちの子たち文字通り! アハハーンッ! 命がけでイェーヒッフア゛ー!!』


『はい! ありがとうございます! 雷門監察官はまだ整っておられません!! おや! 武舞台で動きがあるようです! 南雲陣営の3人が集結しているー!!』


『……この試合の記録、私の権限で消すのもやむを得んか』



◆◇◆◇◆◇◆◇



 相手は4人。

 こちらは3人。


 少数の側が集合しようとすれば、多数の側はそれを阻止しようと動くのが必定である。

 そのミドルレンジからの攻撃を全ていなしているのが逆神六駆。


「困りましたね! これって僕たち結構ピンチじゃないですか!? 『ラージア風神壁エアラシルド』!!」

「そうだよぉー! わたしと六駆くんの攻撃ってどこまでがセーフですか? 山根さん!」


「それって個人的な見解っすか? フォーマルなヤツっすか?」

「じゃあ、一応フォーマルでお願いします! 『凶振動グラグラック』!!」



「今、逆神くんが使ってるスキルの時点で全部アウトっすかね!!」

「じゃあもう仕方ないや! 僕たちのやり方で行きましょう!!」



 前述の通り、ブレーキ不在の暴走列車状態のチーム莉子。

 六駆が多彩なスキルを披露する度に会場が沸き、南雲が無言でコーヒーを口からダバダバ垂れ流している。


「あっ! あのぉ、わたし考えたんですけど! 山根さんの銃ってスキルを込められるんですよね?」

「そうっすね。ただ、残りの弾丸には大したスキル入れてないっすよ? 逆神くんに入れてもらった面白そうなヤツは前半で撃ち尽くしたっすから」


「だったら、今、この場で新しいスキル入りの弾丸を作るのはどうですか?」

「すごい! 名案じゃないっすか! 小坂さん、師匠の逆神くんにホント似て来たっすね!!」

「えへへへへへへへ。そんなことないですよぉー」



 悪魔的発想であった。



 莉子の提案は、つまりこういう事である。


 六駆と莉子がスキルを使って敵を殲滅すると南雲に迷惑が掛かる。

 だったら、山根の『双銃リョウマ』からスキルが出た体で行けば誤魔化せるのではないか。


 「南雲監察官室の武器やべぇ!」って流れになるのではないか。


 結論から先に言っておくと、ならないのだが。

 そして、彼らの暴走は止まらない。


「じゃあ、僕がスキルを込めますよ! さっきやったからコツも掴んでますし!」

「わぁ! さすがだよぉ! 六駆くん、すごい!!」

「そんじゃ、ふ、ふふっ、いっちょド派手なヤツにするのはどうっすか?」


 山根健斗、喜びを隠しきれていない様子。

 敢えてこのタイミングで言うが、南雲修一は監察官きっての知恵者である。


 彼は3人の企みに気が付いた。


「ちょっとぉ! ヤメて! 君たち!! 聞こえてるでしょ!? ヤメなさい!! もう負けでいいから!! 3位決定戦で頑張ろう! なっ!?」


 3人の決意は固かった。


「この先端にスキルを撃つんでしたよね?」

「そうっすね。オジロンベを超凝縮させた、高性能ギミックっす」


「ふぅぅぅぅんっ!! 『大竜砲ドラグーン』!!!」



 こいつ、やりおった。



「これで大丈夫ですか?」

「はいはい。んー。……まっ、大丈夫って事で良いっすよ!!」


 カウントダウンが開始されました。

 衝撃にご注意ください。


「じゃあ、莉子! 後ろに被害が出ないように『風神壁エアラシルド』でガードしてくれる? 僕は『超石壁グウォールド大囲いエンサルク』で武舞台を包むから!」

「分かった! やぁぁぁぁっ!! 高出力展開っ!!」


「ふぅぅんっ!! 山根さん! 今です!! 敵さんは未だに中距離からちまちま削ってきてますから!」

「了解っす!!」


 山根は『双銃リョウマ』の片方を構えた。

 楠木陣営も「あの銃はスキルを撃つぞ!」と警戒する。


 ちゃんと警戒してくれないと大惨事なので、彼らの有能さに感謝しなければならない。


「んじゃ、いくっす! 1度言ってみたかったんすよ! 『マグナム大竜砲ドラグーン』!!」



 ゴキンッと嫌な音がしたのち、『大竜砲ドラグーン』は大きく軌道がズレた。

 古龍のブレスが空に向かって昇って行く。



 山根は『双銃リョウマ』の片方を眺めて、呟いた。


「逝ったっすね。ははっ!」


 南雲修一は現実逃避のために、頭から熱いコーヒーをマラソンランナーの給水よろしく浴びております。

 リアクションはしばらくお待ちください。

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