第244話 戦局に動きアリ! 行動に出る逆神六駆

「『オートヒール』! 簡易的な治癒スキルだけど、これで充分ね?」


「はい! 救援に感謝します!」

「謝辞は良いから、結果で示しなさい! リャンもイケる?」

「イケます!! 痛みがなくなっただけで全然違います!!」


 青山仁香の来援によって、息を吹き返す柳浦とリャン。

 そうなると、ターゲットは必然的に2人に絞られる。


 12人の中で唯一遠距離射撃スキル持ちのクララは武舞台北側の端まで移動しており、彼女を落とそうとすれば射線に入らざるを得ず、犠牲が出るだろう。

 ならば、早急に対処すべきもう1人が近くにいるので、そちらを優先するのが潜伏機動部隊の戦い方である。


「木原さんのスキルはドッペルが精々10体混じっているだけ! 残りの幻は煌気オーラ込めた攻撃でも簡単に霧散する! 少しだけ距離を取って、3人で同時に行くよ!」

「了解!!」

「青山さん、頼りになります!」


 青山、柳浦、リャンの3人は煌気オーラ弾を次々に作り出し、それを手当たり次第、芽衣の幻かもしくはドッペルゲンガーに投げつける。

 その結果、幻は消えてドッペルゲンガーは残る。


「み、みみみみっ!! 『分体身・発破紅蓮拳アバタミオル・ダイナマイトレッド』!!」


 芽衣のドッペルゲンガーが一斉に一撃必殺を繰り出した。

 その1発は柳浦に直撃し、彼は武舞台の真ん中まで吹き飛ばされたが、飛んだ方向が良く場外には落ちていない。


 対して、芽衣は今の攻撃で自分のドッペルゲンガーの居場所を全て白状してしまった事になる。

 そうなれば、青山仁香の目を誤魔化すのは限界だった。


「やぁっ! 『風車手裏剣ガンスリンガー』!! 多発展開!!」

「み゛み゛み゛み゛っ!!!」


 ドッペルゲンガーを見分けた青山に手加減はない。

 手裏剣を具現化して、可憐な女子中学生の首筋をピンポイントで撃ち抜いて行く。

 彼女の目は正確なので、間違って本体の芽衣が酷い目には遭わない。


 全国数万人の芽衣ちゃまファンは安心して欲しい。


 だが、旗色は悪い。

 そんな時に現れるのは師匠であると、昔から相場は決まっている。


「皆さん、手裏剣投げるんですか? うわぁ、本当に忍者じゃないですかー! やだー!! カッコいいから僕も真似しようかな!」

「ろ、六駆師匠ー!! 助けに来てくれたです!!」


「てんめぇ、この野郎! オレ様より速いとか、それは譲れねぇ! 譲れねぇよ!? よろしくぅ!!」

「助けに来たのは良いけどね。僕、なんか変な人に粘着されてるのだよね。この人がしつこくてさー。どれだけ『瞬動しゅんどう』で撒こうとしても追っかけて来るの!!」


 武舞台の端に勢力が集まる。

 楠木監察官室のメンバーが4人。

 チーム莉子は芽衣と六駆の2人。


 さらに芽衣はガス欠寸前。

 ならば、六駆の取るべき行動は決まっている。


「山根さん! 芽衣を配置転換してください!」

「あー、了解っすよ!  『緊急事態の入れ替わりチェンジ・キャスリング』!!」


 芽衣の姿が一瞬で消える。

 代わりに現れたのは、彼女。


「うへぇー。なんで山根さん、あたしを戦いのど真ん中に転移させるんだにゃー!?」

「……すみません! 小坂さんと椎名さんを間違えたっす!!」



「莉子ちゃんとあたしをどう見たら間違えるんですかー! うにゃー!!」

「……うっ! なんだろう。小鳩さん、わたし胸が痛いです!」



「だ、大丈夫ですわ!! たまに成人になってからも大きくなるらしいですわよ! たまに!! 極まれに!! 非常に珍しいケースで!!」


 山根のミスで遠距離砲のアドバンテージが消えて、莉子の小さな胸が傷ついた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『これはミステイクぅー!! 山根Aランク探索員、よもやの転送ミス!! これは仕事用のチャットで仲の良い同僚に上司の悪口を送ったつもりが、グループチャットだったパターンかぁ!!』


「……うぐっ!! うちの部下によるその手の経験があり過ぎて、頭が……!!」



 今度は日引の実況が南雲修一を傷つけた。



 と言うかお宅の監察官室、普段は南雲と山根だけじゃないか。

 グループチャットと言う名のダイレクトチャットじゃないか。


『いや、見ろ。山根のヤツ、やはり曲者だな。消える寸前の木原のドッペルゲンガーと西山の位置も交換させている。つまり、逆神の周りに楠木監察官室のメンバーが4人。一見すると逆神のピンチだが、これは……』

『そうですね。逆神くんの実力ならば、むしろ1か所に集まってくれた方が都合の良いシチュエーションです。潜伏機動部隊は足が速いですから、なかなかこうはなりません』


 山根健斗Aランク探索員。

 狙ってやっているのか、それとも天然なのか。

 食えない男である。


「うにゃー! ちょ、あたしにこの距離はキツいぞなー! 『グラビティレイ』!!」

「おおっ! クララ先輩、ナイスです!! 一時的に動きが鈍った! ならば、必殺!! 『光剣ブレイバー』を握ってからの!! 『回転グルグルすね光剣ブレイバー』!!」


 クララが放った苦し紛れの重力スキルは、潜伏機動部隊の足を一瞬だけ遅くした。

 その瞬間を利用して、六駆は身を屈め『光剣ブレイバー』を持ち、高速で回転する。


 バラエティ番組の罰ゲームでよく見る『すね竹刀』が完成していた。

 なお、『光剣ブレイバー』は異世界の刀匠が打った魔剣を召喚している。


 こんなしょうもないスキルに使われるとは、異世界の刀匠も嘆いているだろう。


「いったぁ!!」

「はぐぁ!!」

「バカ! これくらい避けられないでどうするの!」

「いや、青山。これ普通に痛いわ。よろしくぅ」


 4人中、3人が被弾。

 特に配置転移で突然この場に現れた西山の動揺は大きかった。

 そこを見逃さないのがチーム莉子のジョーカー。


「そぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!!」

「ええっ!? ちょまぁぁぁっ!! ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 西山が場外へと転がり落ちる。

 六駆は一体何をしたのだろうか。


『ついに最初の脱落者が出るー!! 西山Aランク探索員が場外へー!! しかもそれを決めた逆神Dランク探索員、まったく煌気オーラを感じられません! 五楼上級監察官、あれは一体何と言うスキルでしょうか!?』



『……大外刈おおそとがりだな。別にスキルでも何でもない。柔道の技だ』

『なんとぉ! ここで意表を突く、純粋な体術ぅー!! 逆神Dランク探索員、準決勝でも好き放題にやっております! 世界よ、これが南雲監察官室だぁ!!』



 南雲修一、彼は対抗戦を勝ち上がる度に何かを失っていく。

 今や六駆は立派な南雲監察官室の「面白い事をするなんか強い人」である。

 彼の行動は全て、南雲監察官室への評価に繋がる。


『さぁ! 観客席も歓声で沸いております!! 沸点を超える一撃を放つのは誰だぁー!!』


『む。楠木殿が何やら合図を出しているな。仕掛けるか』

『分かりやすいサインですね。相手にバレても問題ない類の攻撃でしょう』


 屋払が手刀に煌気を集中させると、それを武舞台に突き刺した。


「『急所崩壊突きピンポイント・ブレイク』!! 全員、飛べぇ! よろしくぅ!!」


 屋払の合図で、青山とリャンが飛び上がる。

 直後に武舞台の端から5メートルほどが崩れ始めた。


 屋払文哉は隠密性の高い作戦を担う、潜伏機動部隊の隊長を務める男。

 多くの特殊能力を持っている。


 その1つがよくえる目。

 彼の目は人体の急所、つまり防御煌気オーラの薄い場所を見抜き、一撃で相手を仕留める事を可能にしている。


 さらに、それは有機物に限らない。

 煌気オーラさえ存在していればその目で急所を見つけることができる。

 そして、この武舞台は加賀美隊が土スキルで構築したもの。


 つまり、屋払文哉には「武舞台でどこに攻撃を加えればその土台ごと相手を落とせるか」が分かるのだ。


「いやー! すごい事しますねぇ! 武舞台を壊すって発想はなかったなぁ!!」

「なんでお前も飛んでんだよ!! 落ちろよ、そこは!!」


「いや、だって飛べって言われたので! つい!!」


 ただし、それが逆神六駆に通じるかは別の話である。

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