第243話 山根健斗の秘密と、椎名クララの地味な狙撃と、やっぱり増えた木原芽衣

『さあ! 準決勝第2試合も良い感じに場が温まって参りましたぁ! 戦局は大きく分けて3つに分断! 椎名Bランク探索員を狙う潜伏機動部隊の3人! さらに中央ではにらみ合いが続きます! 逆神Dランク探索員と屋払Aランク探索員!! そして反対側では木原Cランク探索員と山根Aランク探索員が合流して交戦開始!!』


『これは綺麗に分かれましたね。まるで誰かのコントロール下にあるみたいです』

『うむ。遠距離砲を潰しにかかっている攻防戦は別だが、逆神と屋払をぶつけたのは山根の企みだろうな。あの男は頭が切れる』


『おっとぉ! 南雲監察官室の事情通、五楼上級監察官!! これまで頑なに表舞台に出てこなかった山根Aランク探索員についても知っている様子!!』

『ば、違うぞ、痴れ者!! 別に詳しいワケではない! ただ、山根はかつて私の監察官室に勧誘した事があったのだ。それを袖にされて覚えていただけだ!!』


 山根健斗、実は五楼にスカウトされていた事が判明する。

 上級監察官室は待遇も設備も監察官室とは比較にならない。

 それを蹴って南雲監察官室に入った経緯とは。


「や、山根くん……! 君、実は私の事が大好きだったのか……?」


 その事実を今、初めて聞かされた南雲は猛ダッシュで武舞台の周囲を走り、山根のいる場所へと駆け付けた。


「ちょっと南雲さん。こっちは今バトってんすよー? 間が悪いっすねー」

「いいや、山根くん! 聞かせてくれ! 実は私の事が大好きで、超尊敬していたんだな!?」



 南雲修一監察官。定期的にメンヘラ女子みたいになるのはもう仕様なのか。



「みみみみっ! アレンジスキル! 『幻想身ファントミオル・プチ』!! 南雲さん、ここは芽衣が時間を稼ぐです!!」

「ああ! すまない、木原くん!!」


 空気を読むのが得意な芽衣は、幻を15体ほど出現させる。

 自分の煌気オーラ総量を考えて幻とドッペルゲンガーを扱えるようになって来た、今最も伸び盛りの女子中学生。


「リャン! 気を付けろ! この子は強烈な一撃スキル持ちだ!」

「了解! では、1体ずつ対応します!!」


 無事に敵の足を止める事に成功。

 なお、山根の後ろに隠れているのが本体の芽衣である。


「山根くん! 聞かせてくれ! どうして私を選んでくれたんだ!?」

「分かったっすよ。分かりました。言いますから、静かにしてくださいっす」


 山根は手を後ろ組んで、少し照れながら答えた。

 ギャグで済ませられなくなる展開だけはご遠慮いただきたい。



「南雲さんが食堂でコーヒー噴いてるの見て! あっ、この人のとこなら好き放題やれそうだなって!!」

「えんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ってバカ! そんな事だろうと思ったよ! 早く敵倒すか、そうでなければとっとと落ちろ!!」



 こうして、茶番は終わり戦いへと場面は戻る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「木原さん、お気遣いどうもっす! そんじゃ、本気出すっすかね! 『双銃リョウマ』!! これをやらなきゃ選んだ意味がない! 『同時発射ダブルシュート』!!」


 山根はホルスターで煌気オーラを充填した『双銃リョウマ』を抜き、同時に発射する。

 ちなみに、どちらの弾丸にもスキルは入っていない。

 純粋な山根の煌気オーラのみが込められた弾丸が、柳浦を襲った。


「ぐぅっ! しまった! 右足をやられた!!」

「柳浦さんはトリッキーなスキル使うっすからね! ここで退場願いたいっす!」


 身を屈める柳浦。

 そこにリャンの姿はない。


「まずはお嬢ちゃんから! 悪く思わないで!」

「みみっ!?」


 潜伏ならば彼らに勝る部隊はいないだろう。

 気配を消したリャンの爪が芽衣に襲い掛かろうとしていた。


「ちょっと待ったぁー!! 『超重量の群れ飛ぶ鴎グラビタ・ガビャーノ』」!!

「なっ!? 痛ぁ!! しかも重力付与!? 誰!?」


 遠距離攻撃ならば彼女にお任せ。

 椎名クララ、ここにあり。


 なお、それまでも各所に援護射撃をしていたものの、確認されたのはこれが初めて。


「クララ先輩はやっぱり頼りになるです!! みみみみっ! 『発破紅蓮拳ダイナマイト・レッド』!!」

「きゃああっ!! くっ、『クイックターン』!! 危なかった……!!」


 芽衣の一撃必殺『発破紅蓮拳ダイナマイト・レッド』を辛くも受け流したリャン・リーピンBランク探索員。

 これを喰らった上で戦線離脱していないのは称賛に値する。


 リャン・リーピンは21歳。

 日本の大学に留学している台湾人。


 入学当初、待遇の良いアルバイトを探していて探索員と巡り合った。

 潜伏機動部隊に配属されたのは去年の事だが、生活費と必要最低限のお金を確保したら残りは実家に仕送りをする素晴らしい乙女である。


「なるほど、この状態ならば椎名さんの遠距離援護射撃の邪魔にならない方がいいっすね。自分も距離を取って、射線に入らないようにするっす!」

「み゛み゛っ!?」


 急に1人にされた木原芽衣。

 そんな話は聞いていない。


 彼女の危機管理シミュレーションが警告を発する。

 使うならばここしかない。


「みみみみみっ!! 『幻想身・分体身歌劇ファンタスティック・アバタミオル』!! みみみみっ!!!」



 芽衣が500人に増えた。



 察するに、どうやら煌気オーラのほぼ全てを注ぎ込んだ模様。

 だが、この判断は意外と悪手ではなかった。


「にゃっふっふー。芽衣ちゃんの煌気オーラは超が付くほど毎日見てるぞなー。つまり、幻の見分けがつくあたし!! 幻ごと射撃しちゃうにゃー! 『サイクロンアロー』!!」


 クララの弓スキルは出会った頃の南雲にも褒められるほどに高精度を誇る。

 なにせ、3年もぼっ……ソロで戦ってきたのだ。

 弓とちょっとしたスキルオンリーで3年も生き残って来たぼっ……元ソロの対応力は高い。


「ぐげげげっ! ああ、失礼。下品な悲鳴を上げてしまった。リャン、無事か!?」

「無事じゃないですよ! 木原さんの一撃をいなした右手が使い物になりません!!」


「そうか! 実は自分も山根さんの射撃のせいで身動きが取れん!」

「……こうなると、青山さんを呼ぶしかないですね」


 潜伏機動部隊の回復役は青山仁香が務めている。

 彼女は攻撃も近距離から中距離をこなし、攻撃、防御、回復のスキルをバランスよく覚えている。


 南雲監察官室における小坂莉子のような役回りを務めるのが彼女。

 楠木監察官の声で負傷者発生の報を受けた青山は、すぐに行動に出る。


「外崎、西山! ここで戦線を維持! もう椎名さんは好きに撃たせていいわ! 目標の方に私が行くから! とにかく、近接戦が得意な小坂さんと塚地さんを自由にさせない事! 足止めに専念して構わない!!」


「了!」

「了解です!!」


 潜伏機動部隊の必須スキルである『ソニックダンス』。

 『瞬動しゅんどう』といい勝負をする移動スキルで、青山仁香は武舞台を駆ける。


 だが、道中に六駆と言う名の悪魔が陣を張っている場所を通過しなければならない。

 それでも彼女は加速する。


「女の子相手だから激しいのはヤメとこう! ふぅぅんっ! 『光剣ブレイバー』! 一刀流! あいたっ!!」


 六駆の手から離れた『光剣ブレイバー』は姿を消した。


「うちの部下に手を出させる訳にはいかないんで! そこんとこよろしく!!」

「速いですねー。注意してたのに。あなたも加賀美さんみたいに、Aランクの皮を被ったSランクですね?」


「どうだかな! 潜伏機動部隊は秘密主義なんで! そこんとこもよろしくぅ!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



『各所に動きアリ!! 青山Aランク探索員が柳浦、リャン両名の回復をするために移動! その隙を見つけて、椎名Bランク探索員も良い感じの狙撃ポイントへ移動!! 山根・木原コンビの相手が3人になりましたぁ!!』


『これは少しばかりチーム莉子の分が悪いな。集団戦に慣れている潜伏機動部隊の動きには無駄がない』

『逆神くんが屋払くんに抑え込まれているのも厄介ですね』


 戦いはさらに混戦へ。

 一進一退の好ゲームの様相を呈してきていた。

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