第242話 Aランク探索員・山根健斗の実力

 「おお! 僕をご指名とはお目が高い!!」と張り切る六駆。

 そんな彼を制する男がいた。


「逆神くん。まだ君が戦う局面じゃないっすよ。ここは自分がやるっす」

「お前は確か、アレだな? 南雲監察官室の助手とかオペレーターとか、色々な雑用を1人で任されているヤツ!! よろしくぅ!!」


「だいたい合ってるっす! そっちは屋払さんっすね。潜伏機動部隊の活躍はしっかりと見てるっすよー! この間もすごかったっすね。オーストラリアにアトミルカ殲滅の遠征したんすよね? 月刊探索員で読んだっすよー」


 屋払やばらい文哉ふみや、えびす顔になる。


「な、なんだよ、お前! 意外と大事なところ見てるじゃんか! 見どころあるなぁ! そうなんだ! その総指揮を執ったのがオレ! 屋払文哉!! よろしくぅ!!」


 潜伏機動部隊の任務は、通常の探索員と異なる。

 相手はスキルを悪用する人間である場合が圧倒的多数であり、彼らはモンスターとの戦闘よりも、対人格闘を見越してのスキルを鍛えているのだ。


「いやー。そんな有名人と戦えるなんて光栄っすよー! 胸をお借りするっす!」

「なははっ! 良いヤツだなお前! よし、先に攻撃していいぜ! これはオレからのプレゼントなんでよろしくぅ!!」


 山根の目がギラリと光ったのを六駆は見逃さなかった。

 彼は『双銃リョウマ』を抜く。


 『双銃リョウマ』とは、6発の弾丸を装填できるイドクロア装備。

 その一発ごとに煌気オーラ、もしくはスキルを込める事が可能で、炎や冷気のような属性スキルから、突貫や斬撃のスキルまで自在に封入できる。


 トリガーを引く事で、それを使用者の煌気オーラにより発現する仕組み。

 もちろん、弾丸には既に煌気オーラが込められている。



 逆神六駆のスキルが、みっちりと込められている。



 ただし、ノーリスクで強大なスキル弾を撃ち出せるような美味い話はない。

 使用する煌気オーラ量が多くなればなるほど、使用者の負担も大きくなる。

 六駆のものとなれば、並大抵の煌気オーラでは制御できない。


 そんな時に登場するのがイドクロア製のホルスター。


 ホルスターで煌気オーラを充填した『双銃リョウマ』ならば、山根にも制御は可能である。

 付言しておくべき事がもう1つだけ。


「そんじゃ、お言葉に甘えるっす! 『紫電の雷鳥トニトルス・パープルだん』!! バーンっす!!」

「でぇあぁっ!? うべぇぇっ!!」


 山根健斗Aランク探索員。

 彼は結構強い。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 屋払は山根の銃撃をどうにか、すんでのところで躱していた。

 いつもより少し小さな雷鳥が空に向かって飛んでいく。

 曇が割れたのを見届けて、屋払は認識を改めた。


「お前、名前を聞いておこうか」

「えー。自分なんてその辺の雑用っすよ? 山根健斗っす」


「山根か。とんでもねぇヤツが気配を隠してたもんだな。それだけの実力があれば、昇進査定なんかで見かける事もあっただろうに。オレの勘も鈍ったか!」

「買い被りっすよ。じゃ、もう一発! 何が出るかな! 『氷柩ひょうきゅうだん』!!」


 10メートル四方が氷の棺で覆われた。

 屋払をはじめ、近くにいた者数人が巻き添えを食う。


「ぐぁぁあぁっ! た、隊長!!」

「バカ野郎! 柳浦やなうら! てめぇぼさっとしてんじゃねぇよ! 戦場だったら今ので死んでるぞ!!」


 屋払は空中に階段を創り出して難を逃れる。

 これは『スカイエスカレーター』と言う、潜伏機動部隊の必須スキル。


「みみみみっ! 師匠が助けてくれなかったら、芽衣は氷漬けで標本になっていたです! みみみみみっ!!」

「山根さんってばいきなり撃つんだからなぁ! 芽衣はまだ煌気オーラを温存させておきたいから、もう少し離れたところで待機だね。危ないようなら僕がまた助けるから」


「みみっ! 一生待機している方向で芽衣はまったく、全然構わないです!」


 実は煌気オーラを消して、気配も消してずっと六駆の近くに潜んでいた芽衣さん。


 彼女をお姫様抱っこで救出した六駆。

 チーム莉子の隠し玉の出番はまだ早いと判断。

 その様子をチラ見していたクララは、何を置いても莉子の視線を遮る事を優先したと言う。


 そんな折、顔色が悪くなっている男がいた。

 我らが監察官、南雲修一である。


 『双銃リョウマ』の弾丸は1度使うと再利用の出来ない使い切りタイプの武器。

 問題は、その弾丸のお値段にあった。

 スキルを封じ込めると言う特殊性から、材料には大量のオジロンベが投入されている。


 オジロンベがお高いのは諸君も知っての通り。

 一発弾丸を消費する度に、だいたい軽自動車1台分くらいのお金が消えていく。


「おおい! 山根くん! 君の力はまだ温存しておこう! そんな、けん制に『双銃リョウマ』を使うんじゃないよ!! もっと使いどころを見極めて!!」


 大声で指示を出す南雲。

 当然喉が渇くので、水筒からコーヒーをカップに注ぐ。



「ええー? 聞こえないっすよー。そーれ! 『鬼火おにびだん』!!」

「ぶふぅぅぅぅぅぅぅっ!! やーめーろーよー! やーまーねぇー!! 君ぃ! 知ってるだろうが、『双銃リョウマ』のコストパフォーマンスの悪さを!!」



 山根健斗Aランク探索員。

 彼は強い。


 そして性格が少しだけ悪い。


「これ以上好き放題やらせて堪るか! 隊長の名折れだ! 『ソニックダンス』!」

「ひぇぇー。すっごい速さじゃないっすか。そんなの目で追えないっすよ」


「抜かせ! もう油断はしないんでよろしくぅ! 『ソニックニードル』!!」


 超高速移動からの刺突。

 屋払文哉が最も得意とする戦法であった。


「うわぁぁぁ! これはヤバいっすね! 『緊急事態の入れ替わりチェンジ・キャスリング』!!」

「おわっ!? 山根さん! ひどいじゃないですか! 僕と位置を反転させるなんて!!」


 山根健斗Aランク探索員の得意とするスキルは空間移動スキル。

 今使って見せたのは、あらかじめ移動先の印を煌気オーラによって付けた者と自分を入れ替えるものであり、探索員の中でも使える者は極少数と言われている。


 使いどころが限定され過ぎるため、使用する機会に恵まれないからだ。


 山根は珍しいスキルの習得に精を出す変わり者であり、南雲監察官室に入り探索員の第一線から退いたのもその研究のためだった。


「いやー。ちょっと自分には荷が重かったっすねー。あとは逆神くんにお任せするっす! よっ! チーム莉子のジョーカー!!」

「も、もう! そんな事言ったって、許すのは一回だけですからね!!」



 逆神六駆、小鳩のキャラを奪いにかかる。



 こうして位置が変わった武舞台の上。


 南雲陣営側の端で戦うのが、莉子・クララ・小鳩の3人。

 相手は青山・外崎・西山の同じく3名。


 中央付近では屋払文哉と逆神六駆が対峙している。


 山根は芽衣と一緒にちょうど武舞台の西側の端へ。

 そこに迫るのが柳浦とリャン。


 しっかりと煌気オーラと気配を消しており、標的の煌気オーラは補足しているこの2人。

 芽衣が単身だったら隠密スキルで落とされていたかもしれない。



「こっちに来ても狙われるとか、やだー。南雲さんがうるさいんすよねぇ。まあ、撃っちゃいますけど。『ガイアスコルピウス弾』!!」

「ぶふぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」



 雷門監察官室の土スキル使いが作った武舞台で使う土属性スキルの相性は抜群。

 巨大な土の槍が柳浦とリャンを襲った。


「リャン!! しゃがめ!! さっきの汚名返上だ!!」

「了解!」


「うぐぅぅぅっ!! 『飛車角落としスケールダウン』!!」

「みみみっ! 槍が小さくなったです!! みみみみっ!!」


 柳浦は元々一般の探索員だった。

 そこを屋払にスカウトされて潜伏機動部隊の一員になったため、使用するスキルは楠木監察官室の中でも変わり種。


「仕方ないっすね。木原さん、ここは自分たちでどうにかするしかないっすよ」

「みみみみみっ! 皆さんのお役に立って、煌気オーラが切れたら速やかに武舞台から飛び降りるです!! みみみみみみっ!!!」


 戦況が目まぐるしく変化するバトルロイヤル。

 最初の脱落者はどちらの陣営の誰になるのか。

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