第238話 アトミルカ構成員・11番の暗躍 背後にはシングルナンバーの影

 久坂剣友と木原久光が合流を果たし、タンプユニオールに潜伏しているアトミルカの主力部隊も同じく集結していた。

 そんな中、近くの街・ピョリスには、フードを被った男が1人。


 彼の持っている物は通信機。

 サーベイランスのようにビデオ通信はできないが、使用者の煌気オーラが一定の度合いを超えていれば音声のみながら異世界から地球のどこにだって通話が可能な代物である。


「8番様。11番です。準備は整いました。日本探索員協会で最も厄介な2名は当初の計画通り、1週間ほどタンプユニオール内に留まらせております。協会本部では対抗戦なる祭に監察官が興じているようで、機は熟したかと」


 彼はアトミルカ構成員の11番。

 10番から19番の実力は、一概には比較できないもののSランク探索員から監察官のそれに匹敵すると言われている。


 そんな11番の通信相手はシングルナンバー。

 8番であった。


『そうか、ご苦労。方々の準備もおおよそ整ったと連絡が来ている。これより12時間後に作戦を決行するものと心得よ。貴様はタンプユニオールにいる者たちを連れて、現世へと帰還するのだ。充分に煌気オーラも蓄えられただろう?』


「はっ! 監察官を2人相手にする程度の事は出来るかと存じます」

『ふっ。謙遜は過ぎれば愚行。11番。貴様の奮戦に期待する』


 11番は通信を終えると、フードを脱ぎ捨てた。

 薄手の布地で作られた装備を身に纏う彼の姿は、まるで探索員のようにも見える。


 タンプユニオールにおけるアトミルカの最終作戦が今、始まる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「なーんでお主はそんだけお客さん連れて来るんじゃ? しかも車を追い立ててくるとか、ちぃと頭がおかしいんじゃないんか? 小学校卒業しちょるか怪しいもんじゃわい」


 そのディスりは六駆くんにももれなく通用するので、ヤメて頂けると幸いである。

 久坂はひとまず最寄りの煌気カーを停止させるべく、スキルを放つ。


「むんっ! 抜刀術! 『地球横断ちきゅうおうだん』!!」


「まずい! 避けろ、避けろ!!」

「車は急に止まれねぇんだよ! ダメだ、飛び降りよう!!」

「時速100キロ出てるんだぞ!? 死ぬわ!!」


 統制の執れていないアトミルカの構成員など、久坂にとっては近所の子供のようなものである。

 悪さをすれば、少しばかりお灸をすえる。

 年寄りとしての嗜みだった。


 なお、久坂の放った『地球横断ちきゅうおうだん』は真横に刀身の伸びる『空蝉うつせみ』で超ロングレンジの斬撃を加えるスキル。

 本当に地球は横断ではないが、煌気オーラカーは簡単に両断できる。


「いち、にの、さん。うむ。木原の小僧、残りの5台はお主に任せた」

「ったくよぉ! 人遣いの荒いじーさんだぜ! ダァァァイナマイトォォォォッ!!!」


 木原は地面に向けて『ダイナマイト』を放つ。

 すると、地面を割りながら衝撃波が四方八方へと拡散する。


「まーた、無茶苦茶やりよるわい。死にたくないヤツはワシの後ろに来ることじゃ。苦手なんじゃがのぉ、横文字のスキル。『グランドキャンセラー』!!」


 久坂の張った防御層は土属性の超高等スキル。

 触れる衝撃を名前のように「まるでなかった事にする」ものであり、その展開範囲も広大で遠征部隊の全てをカバーした。



「く、久坂……! やはり我々を守って……!?」

「55番よぉ。次にトゥンクしたら、容赦なく見捨てるからの?」



 煌気オーラカーはこれにて全滅。

 だが、乗っていたのは体力と煌気オーラを高めていたアトミルカの構成員。

 簡単には倒れない。


 そこに現れたのは、件の10番台の中でも最前線を行く11番だった。


「貴様ら。喜べ。『幻獣玉イリーガル』が人数分ほど用意してある。崇高な使命の礎となれる事を光栄に思い、速やかに飲み込め!!」


 『幻獣玉イリーガル』の効果と副反応についてはある程度のキャリアをアトミルカで過ごしている者ならば知っている。

 それなのに、彼らは何の迷いもなく『幻獣玉イリーガル』を口にした。


「どがいしたんじゃ、こやつら。おい、55の。説明せぇ」

「我々アトミルカは敵に情報を漏らしたりはせん!!」


「……お主もあれ、飲みたいんか? ワシの近くにおりゃあ、ひょっとしたら捕虜としての待遇が待っちょるかもしれんのぉ?」

「確かにそうかもしれん!! あの方は11番様! 彼の命令に逆らえば、たちまち命を奪われる! ならば、命令に従い生きながらえる道を選ぶのは必定!!」


 久坂の動きは速い。


「そりゃあいけんのぉ。おい、お主。11の。お主が最高戦力っちゅうことで良かろう? 『鳳凰拳・水鳥魚獲みずどりうおとり』!! ……ほぉ!!」

「久坂剣友か。老いてなおその実力は見事。だが、甘い!! 『イエローバラッシュ』!!」


 久坂の手刀を黄色い一閃で防ぐ11番。

 そこに続くは木原久光。


「どいてろ、じーさん!! ダァァイナマイトォォォ!!!」

「木原久光。真正面から勝負すれば、なるほど勝ち目は薄い。だが、何年貴様たちの調査をして来たと思っている! 『グリーンフラッシュ』!!」


 11番、木原の一撃は敢えて防御せずに受け流し、その狭間の時間で緑色の強烈な光を浴びせる。

 自分で言うだけあって、木原の攻撃をしっかりと予習していたらしい。


「うぉぉぉぉんっ! 目が見えねぇ!! ちくしょう! ダァァァイナマイ」

「やめんかい! バカタレ!! どう考えても味方に被害が出るじゃろうが!!」


「じゃあ、じーさんがどうにかしろよ! なんか頭パンパン叩くだけで体の不調が治るみたいなスキル使ってくれよぉ!!」

「そがいな便利なもんがあるかい!! ……こりゃあ面倒じゃな」


 11番と久坂剣友。

 まともに戦えば久坂の勝利は揺るがないだろう。

 だが、この久坂をもってしても無傷での完封は難しいかもしれない。


 そこに加わるのが、次々と獣人化していくアトミルカの構成員たち。

 トリプルフィンガーズでさえ、『幻獣玉イリーガル』の獣人化によってAランク探索員以上の力を得ている状況は看過できない。


「くそぉぉぉぉ! 汚いヤツめ!! 俺様のブリチーな目に光を浴びせやがって!! 目が悪くなったらどうしてくれんだ!! 芽衣ちゃまを愛でられねぇだろうがぁぁ!!」

「なっ!? こ、こいつ! 感覚だけでオレの位置を!? やはり、一筋縄ではいかんか」


 木原久光。

 視力を奪われてなお、普通に戦える最強の監察官。


「……あっちはしばらく木原の小僧に任せるか。お主ら! 3人1組でお化けになってしもうたアトミルカと戦うんじゃぞ! 1人でも欠けたら逃げぇ! ワシが許可する! 大事なもんは何よりお主らの命じゃけぇ!!」



「く、久坂……! 確かにそうかもしれん!!」

「55の。お主は勘定に入っちょらんのじゃがのぉ。厚かましいヤツじゃわい」



 こうして戦局は整った。

 ように思われたのも束の間、11番が号令をかけた。


「2桁ナンバー! 全員、この隙を突いて現世へと脱出せよ!! オレもすぐに向かう!! 以降の指示は通信機から、8番様が行われる!!」


 その声を合図に、隠れていた大量のアトミルカ構成員が走り出した。

 久坂は遠征部隊の指揮を執りながら「やられたのぉ」と頭をかく。


「ははあ。最初から自分も囮にする腹積もりじゃったんか。こりゃあ一本取られたわい。仕方がないのぉ。まずは大急ぎでこやつらを掃除するか!」


「うぉぉぉぉんっ! なんか薄目で見てたら治って来たぞ!! てめぇ! この11番野郎!! 覚悟しやがれぃ!!」

「くっ。相手にとって不足なし! 気の済むまで付き合おう!!」


 こののち、久坂によってこの緊急事態が協会本部に伝わるのはしばらく後の事になる。


 現世では、監察官たちの奮戦など知らない六駆が準決勝を控えて「勝ったら2千万確定! 負けても1千万チャンス! う、うひょー!!」と狂喜乱舞していた。


 この物語の主人公は、逆神六駆であると念のため付言しておく。

 諸君、お忘れなきように。

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