第237話 ついに合流する久坂と木原、両監察官 タンプユニオール・異界の門付近

 時間は少しだけ巻き戻り、久坂剣友の元へ。


 彼の眼前では『幻獣玉イリーガル』を飲み込んだ24番が「グゥオォオオォォォォォォ!!」と唸り声をあげていた。

 額からは大粒の汗が滴り落ちる。


「ほれ、見た事か。そがいなもん食べるから、腹ぁ壊したんじゃろ?」

「確かにそうかもしれん!!」


 55番が取り込み中の24番に代わり、返事をする。

 ついでに「喰らえ! 『ローゼン・クロイツ』!!」とか叫んで久坂に向けて薔薇十字を放つも、特に何かが起きる訳でもなく、「やめんかい」と久坂に怒られるだけで終わった。


「もうええから、お主ら大人しゅう捕まってくれぇよ。これ以上の労働は年寄りにゃあ堪えるわい。なぁに、命までは取りゃあせん。多分のぉ」


 捕えられたアトミルカの構成員は、まず各国の探索員協会が事情聴取を試みる。

 そののち、国際探索員協会に引き渡す事になるが、彼らの実態についてはまだまだ分かっていない事の方が多いため、2桁ナンバークラスならば司法取引を持ち掛けられる場合が多い。


 3桁以下の構成員も情報を持っている者がいないとは限らないため、収容施設に収監される。

 中には貧困にあえぐ国から違法な手段で連れて来られた構成員などもいるため、更生の機会を与えられるのが通例である。


「ええか? ここでワシらが争うてもの、誰も得せんのじゃぞ? だって、お主らはワシにゃ勝てんから無駄に血を流すだけじゃろ? ほいで、ワシはワシで勝つと分かり切っちょる戦いをこなすのはのぉ。虚しいんじゃよ」

「た、確かにそうかもしれん!!」


 この奇襲部隊のリーダーが55番だったら、もしかすると話は簡単に纏まっていたかもしれない。

 だが、彼らのトップは24番。

 彼の準備が整った以上、話はそう簡単なものでもなくなってしまう。


「グォオォォォッ! 待たせタな、久坂剣友。このオレが、お相手しよウ」

「ええ……。ちぃと目ぇ離した隙に、どんな大改造しとるんじゃ、お主……」


 24番が飲み込んだのは『幻獣玉イリーガル人鳥イカロス』と呼ばれるイドクロア加工物。

 文字通り、人と怪鳥が合わさったような異形の姿に使用者を変貌させる。


「黙れ、久坂剣友。お前はもう、この場で始末する事ニする。『ブルー・フレア』!!」

「ちぃと待たんか! 味方もおるじゃろが! バカタレ!! 『鳳凰拳ほうおうけん異飛動いびどう』!!」


 久坂の体がその場から消え去り、次の瞬間には24番の吐く青い炎に襲われようとしていた55番を含め、アトミルカの構成員3名を抱えてさらに移動する。

 逆神流の『瞬動しゅんどう』に近いスキルだが、あちらは脚力を煌気オーラで強化しているのに対し、久坂のスキルは煌気オーラで作った壁を宙に生み出しそれを蹴る事で推進力に変えるもの。



「く、久坂……。我々を助けてくれたのか!?」

「そのトゥンクっちゅう顔を今すぐやめぇ。なんかのぉ、放り投げたくなってくる」



 久坂は55番と他2名の拾ったアトミルカの構成員を乱暴に後方へ放り投げる。

 やっぱり放り投げるんじゃないか。


 そして改めて24番と向き合った。


「なるほどのぉ。こりゃあ、ちぃとだけ本気出しちゃろうかいのぉ?」

「抜かせ。貴様に『幻獣玉イリーガル』の進化を超える事などできナい」


 久坂は『異飛動いびどう』で素早く動き回り、巨大化した24番の背中目掛けて一撃を加える。


「いくぞい! 『鳳凰拳ほうおうけん巨躯襲舞踏きょくしゅうぶとう』!! さらに蓮技! 『巨躯襲舞踏きょくしゅうぶとうせん』!!」

「ぐーははは! それが本気か? 久坂剣友! 喰らエ! 『ウインドブロウ』!!」


 確かに久坂の攻撃は翼の付け根にヒットした。

 それも、直撃である。

 にもかかわらず、24番はその傷ついた翼でスキルを放った。


「……お主。痛覚を遮断しとるじゃろ? さては痛みを感じちょらんのぉ?」

「それこそが『幻獣玉イリーガル』の神髄よ! まだまだ行くゾ! 覚悟シろ!!」


 久坂は「哀れじゃのぉ」と呟いて、次の攻撃へと移る。

 痛みを感じない事とダメージを無にする事はイコールではない。

 その事実に気付いていない時点で、24番の勝機はないと断言しても良いだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うぉぉぉぉんっ! 待てやコラぁぁぁぁぁっ!! どこまで逃げるんだよぉぉぉ!!!」

煌気オーラカーの出力を上げろ! 追いつかれるぞ!!」


 こちらは木原久光に追いかけられる哀れな部隊。

 既に50キロ近い距離の追いかけっこが続いていた。


 アトミルカの乗る煌気オーラカーは搭乗者の煌気オーラ出力によって速度が上がる。

 そのため、各員が死に物狂いで煌気オーラを放ち、倒れ伏したのち次の者が決死行に打って出ると言う流れを繰り返し、どうにか木原に追いつかれない距離を保って逃走を続けていた。


「お前らぁ、すげぇな! 疲れねぇのか、そのやり方!!」

「貴様にそのセリフはそっくり返させてもらう! どうなっているんだ、その体!!」


 全世界で暗躍するアトミルカをもってして「どうなってんの」と嘆かれる木原久光。

 そんな彼の隣を寸分違わぬ距離で飛んでいるサーベイランスが起動した。


『木原さん。少しまずいです』

「分かっているぜぇ! ドーナツもバームクーヘンもストックが切れた!!」


 福田は「それもそうですが、もっと深刻な事があります」と続けた。

 木原は「ドーナツとバームクーヘンよりもか!?」と驚きの声を上げた。


『このままの速度で直進すると、久坂さんのいる地点に突っ込みます』

「ちょうどいいじゃねぇの! 久坂のじーさんと挟み撃ちだな!!」



『久坂さんは現在交戦中です。それなりの敵が相手のようです』

「なぁーにぃー!? そんな楽しい場所にゃ、すぐ駆け付けねぇといけないじゃねぇの!!」



 福田は静かに通信を切って、五楼上級監察官室へと向かった。

 久坂のオペレーターであるセーラ・ハーグリーブスに謝罪するためである。

 「こんな事を通信させてしまってすみません」と、彼はちょっと良いお店のどら焼きを持って廊下を早歩きで移動した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぬぅぅんっ! 『鳳凰拳ほうおうけん烈火紅心掌れっかこうしんしょう』!!」

「ふっ! はははっ! 痛くも痒くもなイぜ! それで終わりカ? 久坂剣友!!」


 久坂は「やれやれ。よっこらしょ」と腰を下ろした。

 続けて彼は24番に言う。


「終わりじゃよ。その、なんちゅうたか。そう、『幻獣玉イリーガル』のぉ。お主よりもやり手が使えば、ワシもそれなりに苦戦したかもしれんよ」

「負け惜しみを言うナ、久坂剣友!」


「お主、痛覚がないだけでダメージは蓄積されちょる事に気付いてないじゃろ? すまんのぉ。背中ばっかりに攻撃して。その『幻獣玉イリーガル』の効果が切れたら、痛いんじゃろうなぁ」

「何を言ってイる? ぐぇあぁ!? 足が、腕が、動かナい!?」


 久坂は水筒に入っている梅昆布茶をコップに注ぎ、ずずっと啜る。

 南雲が好物の飲み物を水筒に入れて持ち運ぶのは師匠譲りである。


「そりゃあ、あれだけの攻撃を背中と腰に集中させたからのぉ。それで全然影響なかったら、ワシだってショックじゃわい。当分は動けんけぇ、まあゆっくり転がっちょってくれぇ」


 一仕事終えた久坂のサーベイランスがピピピと鳴った。


「おお、もしもーし。セーラか? こっちは片ぁ付いたで」

『久坂さん。今、木原さんのところから福田さんがいらっしゃいまして。お伝えしなくてはならないことが』



「……おお。もうええで。全部見えたわい。木原の小僧がものすごい勢いで大量のお客連れてこっちに来よる。……じゃからのぉ、あの小僧と組むのは嫌なんじゃ」

『が、頑張ってください! わたし、応援してます!!』



 セーラの心のこもった応援が久坂に少しだけ活力を与えた。


 タンプユニオールに入って約1週間。

 ついに監察官が合流を果たす時が訪れる。

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