異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~
第236話 監察官・木原久光の「ドーナツなくなった。それと、ここってどこだ?」 タンプユニオール・最北端
第236話 監察官・木原久光の「ドーナツなくなった。それと、ここってどこだ?」 タンプユニオール・最北端
「福田ぁ!! うぉぉぉぉい!! 緊急事態が起きちまったぞぉぉぉ!!」
『はい。どうしましたか、木原さん』
木原久光、気付けばタンプユニオールを縦断していた。
現在の彼は北端の岬に居る。
「追い込み漁をする」と言っていたのに、どういう訳か北の端まで来てしまった。
道中に出会ったアトミルカはすべからく殲滅している。
確かに敵は追い込まれたが、追い込み漁とはそういう意味じゃない。
そんな木原が緊急事態だと言って、オペレーターの福田を呼び出した。
現世では今、朝の4時過ぎである。
福田弘道は木原の呼びかけにいつでも答えられるように、特注の『ベッドになる椅子』で仮眠を取っている。
そのプロフェッショナルな様は、上位ランクの探索員になるほど敬意を表され、かの五楼上級監察官に『日本探索員勲章』の授与を打診させたほどである。
なお、福田はその勲章を「仕事には使えませんのでせっかくですが辞退します」と断っている。
この1件が福田弘道の名前を監察官ですら認知するきっかけになったのは余談である。
「とんでもねぇことになっちまったんだよぉ!」
『なるほど。ドーナツが切れましたね?』
「お前ぇ! 相変わらず察しがいいなぁ!! そうなんだよ! ドーナツなくなっちまったんだよぉ!! さっきからそこら辺歩いてる恐竜狩って食ってんだ!!」
『恐竜が気の毒なのでヤメてください。サーベイランス冷蔵庫によく冷えたバームクーヘンが入っています』
「福田ぁ! てめぇ!!」
『はい』
「帰ったら給料上げるようによぉ! 五楼に掛け合ってやるからなぁ!!」
『恐れ入ります』
バームクーヘンを外側から1枚ずつ丁寧に剥ぎ取って食べながら、木原は福田に尋ねる。
「ところでよぉ。昨日くらいからアトミルカの連中と全然会わなくなっちまったんだが。絶滅しちまったのか!?」
『絶滅したらそれで結構ですが、違います。木原さんがヤバいと察知したらしく、そこから東側へ大移動しています。全然追い込み漁になっていません』
木原久光に堂々と意見を言う男、福田弘道。
昨年から月刊探索員で「福田オペレーターのお便りコーナー」の連載が始まったのも頷ける胆の据わり方である。
「なんてこった! それじゃあ、いつまで経っても芽衣ちゃまの晴れ姿が見られねぇじゃねぇの!! おい、福田ぁ!!」
『姪御さん、木原さんのダイナマイトによく似たスキルで2回戦も大活躍でしたよ』
「どおじでぞんな酷いネタバレがでぎるんだよ、お゛前ぇぇぇぇぇぇっ!!!」
『ちゃんと録画しておきましたから、大きな声を出さないでください』
木原久光「やっぱりお前ぇ! デキる男だなぁ!!」と手の平を返す。
福田は「恐縮です」と答えたのち、1点ほど指摘をする。
『ところで木原さん。背中に矢が刺さっていますけど。痛くないんですか?』
「ああん? マジじゃねぇか! ちくしょう! どこのどいつだ!!」
福田は素早くサーベイランスを操り、周囲を索敵する。
冷蔵庫に容量を食われている分、索敵能力は通常時に比べて格段に下がる。
そこを技術でカバーするのが福田と言う男。
『そこから300メートルほど離れた森の中に多数の
木原は返事をする代わりに、「ダァァイナマイトォォォ!!」と叫んで、両足から
そのまま真っ直ぐに森の中へと突入する。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「47番。確認するが、神経毒を付与した弓スキル。当たったんだな?」
「はい。背中に刺さりました。自分、狙撃の能力を買われて今回の作戦に加わったので、間違いありません」
「では、その木原がどうして猛スピードでこちらに向かって来る?」
「27番様に分からない事は、自分にも分かりません」
森の中には27番をリーダーとする「木原久光をどうにかし隊」が潜伏していた。
彼らの目的は日本監察官最強の木原久光を無力化する事である。
それが叶わずとも、せめて時間稼ぎをするように上層部から命令が来ている。
「トリプルフィンガーズ! 全員で毒スキルの準備をしておけ!! 木原はこのオレと47番で引き付ける!」
「はっ! 了解しまほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「うぉぉぉぉい!! やぁっと見つけたぜぇ? 鬼ごっこはもう終わりかぁ?」
「げぇ、木原!? ……すまんが、この場に集まった貴様らの命はもう諦めてくれ!!」
『ダイナマイトジェット』で文字通り飛んできた木原。
何かを諦めた27番。
だが、人は捨て鉢になってからが本番である。
「全員! 毒スキルを放てぇ!」
「うぉぉぉぉい! 毒でこの俺様をどうにかしようってのかぁ!?」
トリプルフィンガーズの放った毒スキルは全て命中する。
木原にではない。
27番にである。
「このオレの特殊スキルは『
「はっ! 『ゴルゴンボウガン』!! 準備完了です!!」
47番の具現化したボウガンに27番が触れると、その身に溜めていた毒スキルが一気に構えた矢へ集束していく。
「喰らえっ! 木原久光!! 我らアトミルカ総勢25名の合体スキル!! 『ポイズンドライブ』!!!」
「ぐぁあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
木原は基本的に相手のスキルを回避しない。
理由は2つある。
1つ目は、彼が戦闘マニアであるから。
特に珍しいスキルには目がない。
「珍しいヤツに出会ったら喰らってみよう」が彼のモットー。
2つ目は、そもそも避ける必要性がないからである。
木原久光の体は常に高密度の
かつてマグマアニマルズと戦った際には、摂氏100℃を超える環境でも元気に戦っていた事を諸君は覚えておいでだろうか。
以上の理由から、木原はアトミルカの一撃を左胸に受けた。
彼は声をあげて、胸を押さえる。
「やったか!?」
「ヤメろ、47番! 不用意な事を言うな!!」
木原はその場に座り込み、突き刺さった
その表情には明らかに戸惑いの色が混じって見えたと、47番は語る。
「やったか!?」
「だからヤメろ! だが、木原久光! 我らはこのタンプユニオールで充分に
木原は左胸を押さえながら、答えた。
「うぉぉぉぉい! なんかすげぇ、チクッとした!!」
「チクッとした!? 恐竜が1秒で倒れる毒の量だぞ!? チクッとしたのか!?」
木原は黙って頷いた。
27番も静かに頷く。
そこからの行動は実にスピーディーだった。
「総員、撤退!! 木原久光は我々の手に負えん!! 1度本隊と合流する!!」
「では、11番様に連絡を!!」
「うぉぉぉぉい! 11番ってのがこの異世界にいる最高責任者か!?」
「47番! お前、置いて行くぞこの場に! 嫌だろう!? なら、もう喋るな!!」
「木原久光をどうにかし隊」は解散が決定。
彼らは予め、万が一に備えて用意しておいた
「よっしゃ! 追いかけっこだな! 俺は速いぜ? 本気でアクセル噴かせろよぉぉ!!」
「全員、振り返るな!! 今はヤツの追跡から逃れる事にだけ集中しろ!!」
実はアトミルカの本隊、タンプユニオールの中心に潜伏していた。
27番の「えらい事になりました」と言う報告を受けて、彼らも動き始める。
目的地は異界の門。
その付近で現在戦闘中なのが久坂剣友。
いよいよ分散していた勢力が1か所に集まろうとしていた。
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