第235話 監察官・久坂剣友の「ようやっとワシの出番が来たんか!?」 異世界・タンプユニオール

 こちらは異世界・タンプユニオール。

 久坂が異界の門にほど近い街であるピョリスに陣を張ってから、今日で6日目になる。


「久坂監察官! 今日も異常ありません!!」

「ほうじゃのぉ。っちゅうか、お主ら集まり過ぎじゃ。どがいして潜伏しちょるワシのところに集合するんじゃ。15人でテント生活しちょったら、もうそれ潜伏じゃなかろうが。ただのフィールドワークじゃろうが、これ」


 久坂の言う事はもっともだが、遠征部隊にだって言い分はある。

 彼らはアトミルカと交戦するべく選抜された、対抗戦に出られなかった探索員。

 それなのに、タンプユニオールに来てやった事と言えば、久坂と木原が討ち取ったアトミルカの構成員の収監のみ。


 それも、3桁番号のいわゆるトリプルフィンガーズばかりである。

 「大物釣るぞ!」と意気込んで海に来たのに、釣れるのは小さなフグばかりではやるせない。


「久坂監察官! 昼と晩のオカズを買って来ました!!」

「おお、今日は魚か。って、そうじゃないじゃろが。どがいしてお主らはこの世界の通貨を扱えるくらいに馴染んじょるんじゃ。常に緊張感を持てとは言わんけど、なんじゃ? ここに永住する気か?」


 そうは言っても、アトミルカが攻めてこないのだ。

 55番の率いる奇襲隊が来てからこっち、1度として姿を見せていない。

 もしかしてアトミルカもこの世界に永住を決めたのではないかと探索員たちが噂をするほどに、静かな時間が流れていた。


「やっちょれんのぉ。もしもーし。セーラ、おるかー?」

『はい。久坂さん! どうされましたか?』


「ワシ、現世に帰っちゃダメかのぉ?」

『へっ!? く、久坂さん! 今はそんな事を言わない方が良いかと!!』


 なにやら慌てるサーベイランス越しのセーラ。

 その理由はすぐに分かる。



『久坂殿。今のセリフは聞き捨てならんぞ。監察官ともあろう者が』

「……五楼の嬢ちゃん、おったんか。いやぁ、今日はええ天気じゃのぉ? おい、お主ら! 昼飯にしよう! 魚焼くなら任せちょけ!!」



 五楼京華がたまたま上級監察官室に戻っていた。

 対抗戦の運営責任者でもある彼女は実に多忙である。

 そんな五楼がちょっと用事を済ませに来たタイミングで通信してしまった久坂。


 なにやら、悪い事が起きる前兆を感じるのは何故か。


『報告は読んでいます。久坂殿の出入り口を固める作戦は正しいと私も思う。ですが、その肝心要の最高戦力が気を緩ませるのはいかがなものか』

「……ワシ、そんな事したかいのぉ? いやぁ、最近物忘れが酷くてのぉ?」


 ボケたふりをするものの、五楼は誤魔化せない。

 その後も色々と手を変え品を変え「仕事しちょるで」オーラを出すものの、暖簾に腕押し。

 相手が南雲だったら既に5回は誤魔化せているのにと、久坂は唇を噛んだ。


 だが、救いの時が来る。


 五楼のお説教を30分聞かされて、そろそろ眠くなって来た頃合いだった久坂を、見覚えのあるスキルが襲った。


「喰らえ! 『ローゼン・クロイツ』!!」

「ほぉ! この意味不明なスキルは!! ようやっと来たかぁ! 待っちょったぞ!!」


 具現化された薔薇の花が十字架の形を描いて久坂に襲い掛かる。

 それを普通の蹴りで吹き飛ばした最高齢の監察官。


「すまんのぉ、五楼の嬢ちゃん! 仕事が入ったんじゃ!」

『やれやれ。あなたに心配は不要でしょうが、油断して怪我などしないようにしてください。セーラ。久坂監察官を支援せよ』


 久坂と遠征部隊のキャンプ場は、いつの間にかアトミルカに囲まれていた。

 老人はそれを歓迎する。


 仕事をすれば怒られないし、現世にも帰れる。

 なにより、退屈しないで済む。


 久坂剣友、彼は腰を伸ばして戦いの準備を整えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 55番とトリプルフィンガーズが久坂たちを囲んでいた。


「お主ら。ええと、そこのAランクの。なんちゅう名前じゃったかのぉ?」

「佐藤です」


「……忘れそうじゃ。下の名前は?」

「二郎です」


「すごいのぉ! 合わせ技かぁ! 一瞬で覚えたわ! ほんなら、佐藤二郎! 3桁の相手はお主がリーダーとなって相手をせぇ! 2桁以上はワシの獲物じゃけぇの!」

「了解です! みんな、オレに続け!!」


 遠征部隊は精鋭の集まりである。

 AランクとBランクの混合チームであるが、14人いる彼らなら、相手が3桁のアトミルカに遅れは取らないだろう。


「ほいじゃあ、こっちも相手しちゃろうかいのぉ! 55のお主。後ろに隠れちょるヤツは名乗らんのか? なんちゅうたか、それ。ステルスじゃったか?」

「さすがだ! 久坂剣友!!」



「55の。相変わらず、根が正直じゃのぉ。なーんでお主がバラすんじゃ」

「くっ! 確かにそうかもしれん!!」



 ちょっと変な空気になった中、ステルス迷彩で煌気オーラと気配を殺していた男が姿を現した。

 その隊服には24と記されている。


「決行の時が来た。これより我らアトミルカは現世に向かう。邪魔だてするなとは言わん。精々足掻いて止めてみせろ」

「おお、活きのええヤツが来たのぉ! 腕も立ちそうじゃ」


 24番は久坂の言葉には答えず、真っ青な斧を構えた。

 その斧からは異彩の煌気オーラが放たれる。


「……なるほどのぉ。平衡感覚を奪うイドクロア装備か」

「一目で看破した事は褒めてやる。だが、分かったところで結果は変わらん! 『セディメントル』!!」


 24番は斧に煌気オーラを充填させて振り下ろす。

 土石流が発生し、それは瞬く間に久坂の足元へと迫った。


「こういう時にのぉ、六駆の小僧のスキルが便利なんじゃよ。なんちゅうたか、ああ、そうじゃった。『激跳躍すごいジャンプ』!!」


 空高く飛び上がる久坂。

 24番もそれに対応して、すぐに対空迎撃態勢に移る。


「ど、どうして24番殿の『ブルーオーガ』が効かない!?」

「いや、効いちょるで? ただのぉ、年寄りっちゅうもんは、普段から足元がフラフラなんじゃ。ちぃと平衡感覚いじられたくらいで慌てるかい」



「な、なるほど! 確かにそうかもしれん!!」

「55番。貴様、少し黙っていろ。イライラしてくるんだよ!!」



 イドクロア装備『ブルーオーガ』を空に向けて、24番は吠える。

 それが仲間への𠮟責なのはシリアス感を奪うので、出来ればヤメて頂きたい。

 飲食店でお客がいるのにバイトを叱りつける店主と同じ雰囲気を覚える。


「『ブルーオーガ』を攻略したのは見事だったが、上空に逃げたのは悪手だったな! 避けられまい!! 『デス・メタルボール』!!」


 久坂に向けて、具現化された煌気オーラの鉄球が襲い掛かる。

 だが、この老人は慌てない。


「空に飛びあがったのはじゃの。周りにまだ伏兵がおったら面倒じゃと思うたんよ。それから、避ける必要はないけぇのぉ。『鳳凰拳ほうおうけん高所急降爪こうしょきゅうこうそう』!!」


 久坂の繰り出す鳳凰の爪は、鉄の塊など問題にしない。

 全てを弾き返し、彼は美しく着地を決めた。


「どうやら、お主らだけみたいじゃのぉ? 察するに、先遣隊か? それにしちゃあ数が少なかったのぉ。ワシを舐めちょるな?」

「た、確かにそうかもしれん!!」


「舐めてなどいない。この場はオレだけで収めることができる。そう上は判断した」


 ついに55番の事を無視し始める24番。

 職場いじめは国際的な問題である。せめて一言、何かコメントしてあげろ。


「『幻獣玉イリーガル』。こいつで問題なく片付く」

「まーたそれかい。ようも飽きもせんと、同じこと繰り返すのぉ」


「ふっ。これでも同じと言えるのか?」


 24番は『幻獣玉イリーガル』を口の中に放り込み、そのまま飲み込んだ。

 数秒ののち、24番の煌気オーラが一気に膨れ上がる。


「ええ……。それ、飲むんか? 何の罰ゲームじゃ。えええ……」


 久坂は戦慄する。

 「イドクロア飲む人、初めて見たわい」と、顔を引きつらせドン引きしていた。

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