第234話 監察官・南雲修一の「勝つのは良いけど、インタビューはもうヤメようよ……」

『えー。それでは、2回戦の第2試合、南雲監察官室VS雷門監察官室の纏めに入りたいと思います。両陣営の監察官とリーダーはステージへお越しください!!』


 南雲修一と小坂莉子。

 雷門善吉と加賀美政宗。


 4人がステージに登壇した。


「いやー! 本当にいい試合でしたねー! まさか引き分けになるなんて! 加賀美さんはやっぱり強いなぁ!! ねぇ、南雲さん!」


 訂正しなければならない。

 5人がステージに登壇して、呼ばれていない六駆が口火を切った。


『振り返ればハイライトにはヤツがいる! 逆神Dランク探索員、呼ばれてもいないのにやって来ました! それはさて置き、惜しくも負けてしまった雷門監察官室から感想をお願いします!』


 雷門はマイクを受け取ると、静かに語り始めた。


『我々は弱くなかった。ただ、相手の方が強かった。それに尽きます。うちのメンバーはよくやってくれました。健闘を称える観客の声がその証明でしょう』


 短い感想に会場はざわつく。

 日引がその様子を見て、雷門を促す。


『もう少し詳しくお願いできますでしょうか!』

『ああ、分かりました。では』


 雷門は目を閉じて、上を向く。

 五楼と南雲に下柳が同時に「あっ」と言った。


『あのですね、うちのメンバーはですねっ! ウー、全員がァ、ものすごく努力をするんでスゥ! その努力がァァ、実らなかった事がァァ!! ウーアッハッハン! すごく、悲しいとォォォ思いましてぇ! ウッグエーン、これも全部監察官であるワタ、ワタシのォォォン、力不足でィヒーフーッハゥ!!』



 なんだかこんな会見をかつてテレビで見た気がする。



『……はい! 雷門監察官、ありがとうございました!』

『日引、貴様はこの流れでそのまま行く気なのか? 我が部下ながら、恐ろしい。雷門の名誉のために言っておくが、こいつは感極まるとこうなる。それだけメンバーの事を考えていたと言う事だ。どうか笑わないでやってくれ』


 さすがは上級監察官。

 ナイスフォローで場を繋ぐ。


『では、加賀美Aランク探索員にお聞きします。ズバリ、勝敗を分けたポイントはなんだとお考えでしょうか?』


 南雲が視線のレーザービームを加賀美に浴びせる。

 「お子さんにニンテンドースイッチ買ったげるから、お願い助けて!!」と懇願する。

 それを無言で、悲哀に満ちた視線だけでこなすのが、我らが監察官殿。


『雷門さんの言う通りだと思います。自分たちは全力を尽くしました。それでも南雲さんの育てられたメンバーには勝つ事が出来なかった。その事実を真摯に受け止め、来年以降の対抗戦に活かしていきたいと思います』


『やはり加賀美くんは素晴らしいですねぇ。今年の昇進査定でSランクになると、来年の出場権がなくなりますけど、その辺はどうですか?』


 下柳の言うように、対抗戦に出場できるのはAランクまでと決まっている。

 加賀美政宗の功績は今年のAランク探索員の中でも抜きん出ており、昇進はほぼ確実とみられていた。


 加賀美は「まだ決まってもいない事について語るのは恐縮ですが」と前置きしてから、短く答えた。


『逆神くんと戦えた事で、自分は満足しています。今年が仮に最後になっても悔いはありません』


 会場から拍手が巻き起こる。

 それと同時に「逆神って確かになんかヤバかったよな」と観客が口にし始める。


『ありがとうございました! それでは、勝ちました南雲監察官の勝利者インタビューに移ります!!』


 南雲修一は地獄の釜の蓋が開く音を聞いたと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『まずは勝因ですが、どうお考えでしょう!』

『えー。あー。はい。うちの子たちがよく頑張ってくれました。教えてもいない事をやって見せて。もう、本当に胸がいっぱいです』


 言っている事は普通の事なのに、南雲の事情を知っている者からすれば全然違う意味に聞こえる日本語の不思議。


『この2回戦で特に目立ったのは、逆神Dランク探索員と小坂Bランク探索員が使っていた剣技ですが、これは南雲さんが伝授されたのでしょうか!?』

『こ、答えたくありません!!』


『おっとぉ! 出ました、南雲監察官の秘密主義! これは準決勝に向けての布石でしょうか!? つまり、更にあの剣技には先があると言う事ですね!?』

『わ、私には分かりません!!』


『ひ、日引……。私が頭を下げれば、その話題も下げてくれるか? ならば、私は土下座しても良いくらいには思っているが』

『あーっとぉ! どうやら五楼上級監察官も彼らの剣技について何やら思い当たるところがある模様です!! これは俄然盛り上がって参りましたぁ!!』



「南雲。すまんが、コーヒーをくれるか? とびきり苦いヤツを頼む」

「分かりました、五楼さん。何と言うか、本当にすみません」



 その後、日引の追及を「今、コーヒー飲んでるから!!」と力技でやり過ごした五楼と南雲である。

 逆神流に触れたくない気持ちはお互い震えるほどに持ち合わせていた。



 五楼上級監察官、どうやら逆神流被害者の会への入会が近そうな気配である。



『それでは、リーダーの小坂Bランク探索員にお聞きしましょう! 2回戦で1番のピンチはどの試合でしたか?』

『はい、六駆く……逆神くんが引き分けになっちゃった時は、ビックリして、信じられませんでした!』


『なるほど! しかし、相手は加賀美Aランク探索員でしたが? ほとんどSランクに等しい実力者を相手に、逆神Dランク探索員には勝機があったと!?』

『もちろんです! だって、彼は世界で1番強いおと』



「うぉぉぉぉっ! 『雲外蒼天うんがいそうてん紫陽花あじさい』!!」

「ふんっ! 一刀流! 『光破千烈斬こうはせんれつざん』!!!」



『これは大変です! 南雲監察官と五楼上級監察官が、どういう訳かスキルを放ちました! 本当にどういう訳なのでしょうか!? が! 会場は監察官の生スキルに沸いております! なるほど! これは熱い戦いに両名が突き動かされた結果なのでしょうか!!』


 南雲は『双刀ムサシ』で奥義を、五楼に至っては『皇帝剣フェヒクンスト』を初お披露目する。

 彼らはどうにかしてこのインタビューを終わらせたかったのだ。



 五楼京華、逆神流被害者の会に正式加入する。



『……つまり、アレだな。南雲監察官室の次戦の奮闘に期待しよう。頑張れよ、南雲』

「任せてください! 次を勝てば決勝戦! つまり2千万以上が確定するんですよ!! これは頑張らずにはいられませんよ! うひょー!!」



「貴様には言っていない。逆神。お前、父親にそっくりだな。私は頭が痛いぞ」

「五楼さん、本当にすみません。後で山根くんに特製のブレンド届けさせます」



 インタビューも無事に終了し、「無事」の意味については議論の余地がありそうだが、とりあえずチーム莉子は当然のように焼肉屋『どすこい太郎』へ向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「今日は私、飲むからな! 大将! 焼酎を何か適当に、ロックで!!」

「南雲さん、呼びました?」



「大将! やっぱり今のなし!! 強いお酒ちょうだい! すぐに意識がなくなる感じのヤツ!!」

「じゃ、先にクレジットカードだけ預かっておくっすねー」



 この日以降、南雲が酒をロックで飲むことはなくなったらしい。


 小鳩は「負けてしまいましたわ」と、クララは「途中から出番が全然なかったにゃー」とワイン飲みながら反省会。

 芽衣は協会本部の公式動画で自分の活躍を見て「みみみっ」と照れる。


 莉子は今日も脂肪を付けようと脂身の多い肉を食べている。

 六駆はただひたすら無言で高い肉を食べる事に集中している。


 2回戦の夜も賑やかに過ごしたチーム莉子。

 一方、異世界ではたらく監察官たちは何をしているのだろうか。

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