第233話 延長戦 小坂莉子VS坂本アツシ
『これは大変な事になりました! 3対3の模擬戦は引き分け! 予想外の延長戦に突入です!! 流石に両陣営ともに想定外! 人選はどうなるのでしょうか!』
五楼がまず所見を述べる。
『南雲のところは小坂だろう。椎名は遠距離攻撃が主戦であることを考えると、もはや選択肢はないに等しい』
『あっとぉ! 五楼上級監察官! 意外と南雲監察官室の内情に詳しいー!! しっかりと部下の様子を見守っている五楼京華! 上に立つ者はこうあって欲しいと言うお手本です! 皆様、五楼上級監察官に拍手をお願いいたします!!』
『よ、よさぬか!! べ、別にそういうつもりで言ったわけではない! ただ、そう、アレだ! たまたま南雲のところの事情に詳しかっただけだ! 他意はない! 末端の部下の事など、知らん!!』
五楼京華、なんだかツンデレになる。
『照れる五楼上級監察官もなかなかに乙なものです! そうなると、注目すべきは雷門監察官室の代表者ですが! 選定が行われている模様です!! 誰が出て来るのかー!!』
それでは、雷門監察官室の様子を見てみよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いや、もうオレに任せてもらえれば、超よゆーなんで! マジ、パネェっすから、土壇場のオレって! 大船に乗ったつもりで、チョリーッス! タイタニック級のヤツでヨロっすわ!!」
現れる。出オチ系のヤツである。
彼の名前は坂本アツシ。
Bランク探索員。19歳。調子に乗りたいお年頃。
年齢を考えるとその経歴は華々しいが、華をキメ過ぎているきらいがある。
かつての山嵐助三郎を見ているようでもあった。
加賀美隊にはダメなヤツを1人加える縛りがあるのだろうか。
山嵐が善玉菌になったと思ったら、しっかりと悪玉菌が住みついていた。
「坂本くん、油断してはダメだよ! 小坂さんは強い! 今はBランクのようだけど、Aランク以上の実力を持っていると考えて掛からなければ!」
「や、もうアレっすわ。相手がJKとか、ボーナスステージっすわ! マジ!」
坂本くんはこれ以上出オチ感を高めるのは即刻ヤメて頂きたい。
「山嵐くん、どう思うかしら?」
「土門さんと同じ考えですよ。俺はルベルバック戦争で小坂さんのチームに帯同していましたから。彼女の恐ろしさは肌で感じています。未だに夢を見てうなされる事がありますよ。信じられます? 砦を破壊する光線撃つんですよ、あの子」
山嵐助三郎の苦い記憶が蘇る。
だが、彼はその苦みで善玉菌へと変身して見せた。
ならば、坂本アツシだって、戦いの中で覚醒する事もあるやもしれぬ。
「ちょ、確認なんすけどー。戦闘中だったらJKにお触りしてもセーフすか? や、マジでこれ大事なんでー、そこんとこ雷門さんにも許可欲しいって言うか」
「加賀美くん、今年はこれまでだ。3人とも、良く戦った。俺は嬉しい。来年こそは優勝を目指そうじゃないか。なあ! 明日からまた特訓だ!!」
「私、もっと努力します!」
「お、俺だって! いつかはAランクになりたいです!!」
雷門監察官、総括に入らないで下さい。
「待って下さい! 坂本くんだってやる気ですよ! 自分はそんな彼の心を応援したいです! 小坂さんは強敵だけど、負けないでくれよ、坂本くん!!」
「うーっす。じゃあ、ちょっと行ってくるんで! 祝勝会のハコ押さえといてくださいねー。やべー、ケツカッチンだわ、これ」
審判の和泉正春が代表者を招集する。
戦いが始まるのだが、もう既に終わった感があるのは何故か。
◆◇◆◇◆◇◆◇
和泉の口から「延長戦なので決着がつくまで続けます。げふっ」と簡単な説明がなされた。
どちらかが倒れるまで行われる、サドンデス方式。
なお、サドンデスは直訳すると「突然死」という意味になる。
このタイミングで付言しておかなければ、恐らく次の機会はないだろう。
「それでは、げふっげふっ、試合開始で。どうぞ始めて下さい」
もうお馴染みとなった和泉の力のない宣言で真の最終戦が始まった。
「やぁぁぁぁっ! 『
「え、具現化スキルすか!? ヤベー、Bランクじゃねーじゃん!」
莉子が持っているのは、南雲修一制作の新装備『
そこに
この装備のセールスポイントは、「注ぎ込む
つまり、
まさに莉子のために生まれた、彼女の専用武器。
「や、ヤベー! 『ガイアスコルピウス』!!! 2基同時発射ぁ!!」
どうしてかつての山嵐助三郎の描いた軌跡をたどるのか。
「はぁぁぁっ! 一刀流!! 『
「え? あ? はっ!?」
『小坂Bランク探索員、気合一閃!! 見た事のない剣技で、スキルを真っ二つにするー!! 五楼上級監察官、解説をお願いします!!』
『あ、あの剣技は……! うっ、頭が……!! 何故だか私も使える剣技だ……。空間を削り取る効果で、大概のスキルは両断できる』
『なんと! 五楼上級監察官も使う高等スキルを繰り出しました! 小坂Bランク探索員!!』
『ひ、日引……。お願いだ、もうその剣技の話はヤメてくれ……』
逆神大吾。ついにその場にいないのに精神的被害を発生させる事に成功。
莉子は『
すると、瞬く間に
彼女の得意とする風属性のスキル『
もちろん、高出力の
「はぁぁぁぁっ! いきます!! 一刀流! 『
「ちょ、え、ま? す、すんまっせん、ギブアッ。アッー!!!」
坂本アツシの戦いの記憶はここで終わっている。
次に彼が目を覚ましたのは救護室のベッドの上で、和泉による緊急治癒スキルが施された後だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『決まったぁぁぁ!! 小坂Bランク探索員の剣技が炸裂ー!! 坂本Bランク探索員は場外に吹き飛ぶどころか、観客席の向こうまで飛んでいきました! イッツゴーン!!』
『いやぁ、見事でしたねぇ。五楼さんのおっしゃる通り、ランクで実力は測れませんなぁ。ところで、あの剣技はどこの流派なんでしょうねぇ?』
『下柳。お願いだからその話はよせ。なんだか頭が痛くて仕方がない』
五楼上級監察官、彼女の脳内にはとても嫌な思い出が泡のように浮かんでは弾け、また浮かんでくる。
そのどれもに、なんだかいやらしい顔をした青年の笑顔が含まれている事実は、彼女のトップシークレット。
『これにて2回戦、第2試合の勝敗が決しました! 南雲監察官室の勝利です! 下馬評はとても高いと言えなかった南雲監察官室ですが、彼らには勢いがあります!! 声を大にして宣言しましょう! 今年の対抗戦の台風の目は彼らだー!!』
戦いを終えた莉子が自陣に戻って来る。
「どうだったかなぁ? 六駆くんの教えてくれた逆神流剣術、使ってみたんだけど!」
「すごく良かったよ! 莉子にとっても似合ってると思うな!!」
「南雲さん、聞いてるっすか? まるで高校生カップルが彼氏に選んでもらった服をデートでお披露目したみたいに爽やかな会話が聞こえてくるっすよ!」
「そうだな。目を閉じたらそう聞こえる。目を開くと現実が迫って来るから、私はこのままずっと音声だけを楽しみたいよ。ちなみにコーヒーは2回噴いたよ。音もなくね」
2回戦は決着を見た。
チーム莉子、準決勝へと駒を進める。
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