第230話 木原芽衣、起死回生の新スキル 土壇場で成長する伸び盛りの女子中学生

「あの、よろしくて? どうしてお二人とも、木原さんにそのアドバイスをして差し上げないのかしら?」


 莉子の『復水おちみず』によって回復中の小鳩が素朴な疑問を投げかける。

 なお、六駆が『気功風メディゼフィロス』で回復すると言ったら、小鳩に「男に回復スキル使われるなんて、セクハラですわ!」と拒否され、南雲に「ダメだよ、君ぃ! そのスキル、会場にいるお客の体調が全員良くなっちゃうだろ!!」と叱られた。


 六駆おじさん、心を少しモニョっとさせる。

 だが、聞かれた事にはしっかり答えるのが彼のやり方。


「芽衣はまだまだ成長途中ですからね。全部の行動に答えを出してあげてたら、せっかくの自発的な能力向上機会を奪っちゃいますし」

「……意外とまともに師匠をしているのですわね。どうせお排泄物な理由だろうと思った事は謝罪いたしますわ」


「ちなみに、私はアドバイスのしようがないからね。逆神流のスキルに口を出せるのは逆神くんだけ。私は素直にリアクション要員として働くのだ」

「南雲さん、言ってて悲しくならないっすか? 何のために指揮官として解説席を免除されたと思ってるんすか。これならあそこでコーヒー噴いてた方がみんな喜ぶっすよ」


 解説席では「コーヒー噴くな」と言われ、セコンドに付いたら「コーヒーでも噴いてろ」と言われる、我らが南雲修一監察官。

 彼も既に、自分がどうしていたら正解なのかが分からなくなりつつあった。


「山嵐くんも元気そうでなによりだなぁ。スキルの威力も増してるし、よっぽど加賀美さんの教え方が良かったんだろうなぁ」

「雷門さんも名コーチとして有名だからな。ちなみに雷門さん、私と同い年だ」


「へぇー。南雲さんの方が若く見えますけどね」

「ホント? やっぱりスキンケアって大事だな。最近、美容液を変えたんだよ」


 少しずつ内容のない会話へとシフトしていく六駆と南雲。

 これはおっさんが持つ必殺技の1つで、亜種に「気付いたら病気か景気か政治の話になってる」と言うものもある。


 そんな中、苦戦を強いられる芽衣。

 彼女は3度目の『幻想身ファントミオル』を使うものの、山嵐の斉射により幻を消し去られていた。


 消耗戦になると芽衣の分はさらに悪くなる。

 山嵐はBランクとしてまがいなりにも自力でやって来た実績がある。

 煌気オーラ総量も彼の方が多く、さらに芽衣のスキルは燃費が悪い。


 ならば、突破口は。


 実は芽衣さん、既に1つのアイデアを思い付いていた。

 だが、それを実行に移すのは躊躇われる。

 両者、煌気オーラを随分と消費して、戦いは一気に加速していく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『増える木原Cランク探索員! 増えた女子中学生にマシンガンをぶっ放す山嵐Bランク探索員!! 可憐な幻が消し去れる度に、会場からは大きなブーイングが巻き起こります!!』


『お互いに決め手を欠いているようだな。しかし、木原の方が不利だ』

『そうですねぇ。あれだけの数の自分の幻を何度も具現化していると、Cランクの煌気オーラ総量ではもう限界でしょうねぇ』


 芽衣にも失敗したと言う自覚はあった。

 基本的に守りが主体、攻撃は二の次、三の次。

 下手すると出番がずっと巡って来ない戦い方を芽衣はこれまで選んできた。


 それは、対人戦において極めて不利なものである。


 相手を倒すには攻撃が必要で、攻撃をしなければ勝つ事は出来ない。

 だが、芽衣の攻撃スキルと言えば『分体身アバタミオル』による煌気オーラ弾のみ。

 既に多くの煌気オーラを使ってしまった彼女に出せるドッペルゲンガーは恐らく1体。

 多くても2体。


 さらに悪い事に、山嵐も中距離攻撃に勝機を見出している。

 スキルの撃ち合いになれば、手数に勝る山嵐の優位は揺るがない。


 ならば覚えたての『幻想身・分体身歌劇ファンタスティック・アバタミオル』はどうか。

 それも厳しい。


 発動までの時間がかかる上に、芽衣の煌気オーラ総量のほとんどを食ってしまう極大スキルは仲間のサポート抜きでは実戦に耐えられない。

 八方ふさがりか。


 そんな時に師匠の声がする。

 六駆おじさん、「成長の良い機会」とか言っておきながら、結局は弟子に甘い。


「芽衣! 芽衣ならできるはずだよ! おじさんと同じ事が!!」

「み゛っ!!」


 彼女は気付いていた。

 ずっと前から、六駆たちと出会う前から。

 木原監察官は事あるごとに言っていたらしい。


 「芽衣ちゃまには俺と同じスタイルで輝く才能があるからよぉ!!」と。


 だが、争いを好まない彼女にとって、そのやり方は信条に反する。

 悩める芽衣は山嵐の攻撃によって幻がいなくなったため、最後の『幻想身ファントミオル』を使おうとした。



「木原さん! 頑張って下さいまし!! 不甲斐ないわたくしのせいで負けられない状態を作ってしまい、本当に申し訳ございません!!」

「み゛み゛っ!!」



 まさか、自分が仲間に頼られる日が来るとは思いもしなかった。

 いつもパーティーの端で安全マージンを確保していた芽衣が、今、間違いなくチーム莉子の名前を背負っていた。


 その大切な名前を汚す事は、彼女の心が許さない。


「みみみみみっ! 『分体身アバタミオル』!!」

「うっ! こっちはドッペルゲンガーを出すスキルか! だけど、煌気オーラ弾にだけ気を付ければ! このスキルをしのげば俺の勝ちだ!! 『ガイアスプリングバレッ』……なっ!?」


 芽衣は創り出したドッペルゲンガーと同時に走り出す。

 敵目掛けて、一直線に。


 虚を突かれた山嵐はスキル発動のタイミングを逸した。

 これが勝負の分かれ目だった。


「みみみみみっ! 失礼するです!! みみみぃぃぃっ!! 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』!!!」


 彼女が咄嗟に思い付いた攻撃方法は、シンプルだった。

 体内の残った煌気オーラ全てを自分自身の拳に乗せて、撃ち抜く。

 それはまるでダイナマイトのような爆発を見せる。


 そう、彼女の伯父である木原久光を思わせる、渾身の一振りであった。


「ぐはぁぁぁっ!? し、しまっ!! しまったぁぁぁぁぁっ!!!」


 山嵐はその威力に耐え切れず、場外へと吹き飛ばされた。

 芽衣の本領は近接戦闘にあるとずっと言い続けて来た六駆。


 1つ壁を乗り越えた木原芽衣は、その才能の片りんを見せた。


「……おじ様を生まれて初めてすごい人だと思ったです。でも人間的には大嫌いです!!」


 敵へと接近する恐怖に打ち勝った芽衣は、これから更なる成長を遂げるだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『決まったぁぁぁ!! 木原Cランク探索員、伯父の木原久光監察官を思わせる、ダイナマイトなパンチで山嵐Bランク探索員に一撃ぃ!! その威力は凄まじく、場外へと吹き飛ばされる!! さあ、審判の和泉さんが確認を……今、終わったようです!!』


 山嵐助三郎も全力で戦った。

 かつての彼を知っている者ならば、感動すら覚える奮戦ぶりだった。


 だが、勝負は必ず敗者を生み出す非情な場。


「げほげほっ。えー、山嵐探索員の場外負けです。よって、勝者は木原芽衣さん」

「みみみっ! やったです、小鳩さん!! 六駆師匠!!」


 芽衣にしては珍しく、勝利の喜びを全身で表現した。

 飛び跳ねる彼女を見て、五楼上級監察官が総括する。


『まったく、これだから若い才能と言うものは恐ろしい。この試合で彼女は壁を1つ……いや、もっと多く乗り越え、撃ち破ったようだな。実に見事だった。これでもう誰も、彼女の事を木原監察官の姪とは呼ぶまい。一人前の戦士の誕生だ』


 五楼は満足そうに目を細めた。


『お聞きください!! 木原芽衣コールが鳴りやみません!! 何度でも言いましょう! 彼女の名前は木原芽衣!! 歴戦の兵にやがて名を連ねる、木原芽衣です!!』


 芽衣が武舞台から降りた後も、彼女を称える声援はしばらく鳴りやむ事はなかった。

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