第231話 大将戦 逆神六駆VS加賀美政宗

「芽衣ちゃん! 頑張ったねっ! 見てたよ! すごかったよぉ!!」

「ついに芽衣ちゃんもダイナマイトデビューしたにゃー。パイセン嬉しいぞなー」


 自陣に戻って来た芽衣は、照れくさそうな表情をする。


「いや、まったく素晴らしかったぞ! 木原くんに陰口を叩く輩はもういないだろう! 君はうち所属の自慢できる探索員だ!!」

「南雲さんがコーヒー噴かなかった事実は誇っていいっすよ、木原さん!」


 南雲と山根も手放しで芽衣を褒める。

 だが、彼女が1番に感想を聞きたいのは自分を鍛えてくれた師匠と、自分を信じてくれた先輩である。


「いいパンチだったよ! ただ、まだまだ粗削りだね。自分の体を介した煌気の使い方の特訓をしていなかったせいで、煌気拳の威力が少し分散傾向にあるよ。相手が山嵐くんだったから勝てたけど、Aランクだったらどうだったかな」

「みみっ……。これからは、ちゃんと近接戦の訓練もするです」


「そうだね! おっと、いけない! 色々と細かい事は言ったけど、まだ1番大事なセリフを言ってなかった! ……芽衣、頑張ったね!! 偉い!!」

「みっ、みみっ……。六駆師匠に褒められると、やっぱり嬉しいです!」


 緊張していた顔をほころばせる芽衣。

 そして、仕上げをする乙女が現れた。


「木原さん……! こんなに小さな体に大きなプレッシャーをかけてしまい、申し訳ございませんわ!! でも、でも、わたくしは……! 信じておりましたわ! きっと、あなたならばやってくださると! そしてその通りになりました!! 仲間って、ステキなものですわね……!!」


「みみみっ! 芽衣も小鳩さんの頑張れがあったから、あんな風に戦えたです! 仲間って本当に最高だと思うです! みみみみっ!!」


 小鳩の胸に飛び込む芽衣。

 感動的なシーンであった。


「これで1勝1敗!! つまり、僕の頑張りにかかっている訳ですね!! おっしゃあ! 気合全開でいきますよ!!」



「ああ……。感動的なシーンが薄れていく。山根くん、コーヒーちょうだい」

「もう既に戦いは始まってるんすね! コーヒー噴く準備は万端っと!!」



 六駆の言うように、これで勝負は五分に戻った。

 つまり、大将戦で全てが決まる。


「南雲さん、なんか剣貸してもらえます?」

「うん。うん? 君が得物を自分から欲しがるのは珍しいな。ホグバリオン以来じゃないか。言っとくが、私のストックに秘宝剣はないぞ?」


「いやね、加賀美さんが剣士だから、ここは相手に合わせるのが筋かなって思いまして」

「なるほど。まあ、良いだろう。山根くん、ちょっと監察官室から何か適当に持って来てくれる?」



「こんな事もあろうかと、こちらに用意してあります!」

「おおい! それ私の『双刀ムサシ』じゃないか!! 愛刀がへし折れる未来しか見えん!!」



 六駆はにっこりと微笑む。

 続けて、「じゃあ、これ1本借りますね!」と言った。


 南雲は「装備の修繕費を要求したら、五楼さんにまた怒られるんだろうなぁ」と空を見上げる。

 冬晴れの空にポツンと漂う雲を見つけて、まるで自分のようだと感じたらしい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「すみません! 俺、Cランクの木原さんに負けてしまいました」


 こちらは雷門監察官陣営。

 うな垂れる山嵐助三郎。

 そんな彼の背中を叩くのは、騎士道精神に溢れた頼れるリーダー。


「ナイスファイトだったよ! あの戦いぶりを見て、君を責める者などうちにはいないさ!!」

「そうだぞ。加賀美の言う通りだ。山嵐、お前は見違えるほど強くなった。そして、この負けはさらにお前を次のステージへと引き上げるだろう!!」


「加賀美さん……! 雷門監察官……!!」


 こちらのチームは爽やかな高校生の部活のような雰囲気である。

 南雲が聞いたら泣いて悔しがりそうな一体感。


「……さあ、自分の出番だ! 勝ち目はほとんどないですが、全身全霊をもって戦って来ます! すみません、雷門さん。本来ならば絶対に勝つと言いたいのですが」

「お前ほどの男がそこまで評価するのだから、それは正しいと思う。悔いのないようにやりなさい。なに、対抗戦は来年だって再来年だってある!」


 加賀美は「ありがとうございます!」と答えて、イドクロア竹刀・ホトトギスを取り出した。

 煌気オーラを伝導させると色を変える竹刀は、それが濃くなればなるほど強度と攻撃力が増す。


「……うん! いい感じだ!!」

「す、すげぇ! ホトトギスが真っ黒に! 加賀美さん、ガチなんですね!」


「さあ、私たちはしっかり応援しましょう! 加賀美さんならやってくれるよ!」

「土門さん……! うっす! 頑張ってください!!」


 加賀美はホトトギスを一振りしてから、歯を見せて声援に応えた。


「ああ! 行って来る!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



『さあ、混戦模様の2回戦、第2試合!! ついに大将戦までもつれ込みました! この対戦カードをどう見ますか、ご両名!』

『そうですねぇ。加賀美くんは最もSランクに近いAランクの呼び声が高い、若手の有望株ですからねぇ。Dランクの捨ての大将には荷が重いでしょうねぇ』


 下柳則夫のりおも決して無能な訳ではない。

 彼は協会本部の査定に絶大な信頼を置いているため、探索員ランクを重要視するきらいがあるのだ。


『痴れ者が。今に見ていろ。逆神の血の恐ろしさを味わうことになるぞ』

『あっとぉ! 五楼上級監察官、まさかの高評価です! 逆神Dランク探索員の秘められた実力を看破しているのかぁ! さあ、両者が武舞台の中央へ向かいます!!』


 向かい合う六駆と加賀美。

 まず、加賀美から口を開く。


「嬉しいよ、逆神くん。こんな事を言うと、山嵐くんに悪いけどね。自分は1度、君と手合わせをしてみたかった! 自分の実力がどこまで通用するのかを知りたいと思うのは傲慢かもしれないけれどね」


 加賀美政宗、どこまでも実直で不器用だが心根は真っ直ぐな男である。


「僕もですよ、加賀美さん! あなたとの戦いは楽しそうですし、ファイトマネーは貰えますし、2回戦突破したら最悪でも3位決定戦に出られますし。すみませんが、加賀美さん。僕だって負けられないんです! お金が待っているので!!」


 逆神六駆、どこまでも欲望に忠実で器用で姑息で性根がねじ曲がった男である。


「げっほげほ。お互いに武器は剣ですね。……はい、結構。問題ありません。ではね、始めて下さい。ああ、倒れそうだ」


 和泉Sランク探索員も審判と言う激務をこなして、ついに最終戦までこぎつけていた。

 この試合もしっかりと覇気のない声で開始を告げる。


『始まりましたぁ! 大将戦!! 両者、開始と同時に武舞台の端まで引いたぁ! お互いに剣を用いての戦闘のはずなのに、これはどうした事かぁ!?』


 加賀美はホトトギスに煌気オーラを集中させる。

 ジジジジジと電流が刀身を走る様子を目視でも確認できる。


「逆神くん! 君に教えてもらったスキルでまずは勝負だ!! ぬぅおぉぉぉぉっ!!!」


 六駆も加賀美の意を理解して、汲むことにしたらしい。

 南雲の『双刀ムサシ』の片方、晴刀を武舞台に無造作に突き刺すと、両手に煌気を集めた。



「行くぞ、逆神くん!! でりゃぁぁぁぁっ!! 『紫電しでん雷鳥らいちょう』!!」

「お手並みを拝見します!! 『紫電の雷鳥トニトルス・パープル』!!」



 発動の方法こそ違えど、両者が同じスキルを撃ち合うと言う珍しい光景。

 観客も大いに盛り上がる。


『なんとぉ! 逆神、加賀美、両探索員が同じスキルを放ったぁ! 威力も互角! 武舞台の中心で雷を纏った巨大な鳥が相殺ー!! なんと言う大迫力ぅ!!』


 六駆の6割ほどの威力で撃った『紫電の雷鳥トニトルス・パープル』だったが、加賀美のそれは推し負けなかった。


「……やはり、さすがだな! 逆神くん!!」

「加賀美さんこそ、お見事です!!」


 激戦は派手な立ち上がりを見せる。


 南雲は静かに「これもう誤魔化しようがないよね」と、コーヒーを飲んだ。

 その味はコクと深みのバランスが無類だったと言う。

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