第229話 中堅戦 木原芽衣VS山嵐助三郎

「よくやったな、土門。見事な戦いぶりだった」

「雷門さん! ありがとうございます!!」


 雷門らいもん善吉ぜんきち。37歳。

 南雲と同い年だが、監察官になったのは雷門の方が1年早い。


 彼の得意分野は優秀な探索員の育成であり、ここ数年は特に力を注いでいる。

 そのためダンジョン攻略分野での実績は乏しいが、それを埋めて余りあるほどに雷門監察官室出身の探索員は各地で活躍している。


 髭を蓄えた坊主頭と言う風貌のため監察官の鬼コーチの異名で呼ばれているが、実際はハートウォーミングな性格である。


「南雲のところが今年はやる気だと加賀美が言っていたのは本当だったな。負けはしたが、塚地も実に素晴らしい戦いぶりだった。これは気が抜けないぞ」

「はい! なにせ向こうの大将は逆神くんですからね! 自分もそろそろ体を温めておかなければなりません!」


「お前ほどの者が認める男か……! 噂には聞いていた。南雲監察官室になんか頭のおかしいヤツがいると。それが逆神なのだな!」


 六駆くん、やはり監察官レベルの目は欺けない模様。

 その頭のおかしさは都市伝説レベルだが、ガッツリ知られているようである。


「逆神くんはすごいですよ! 一緒にルベルバックで戦った自分には分かります! ……どこまで彼を本気にできるか、楽しみです!!」


 加賀美政宗は静かに闘志を燃やしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「芽衣、ハンカチ持った!? ほら、ハンカチって汗も拭けるし、怪我したら患部を押さえられるし、なんかエレガントだし! ハンカチ持った!?」

「みみっ……。六駆師匠から、そこはかとないおじ様みを感じるです……」


「でもさー。意外だったよねー。芽衣ちゃんの相手が彼だとは思わなかったぞなー」

「ですよね! 六駆くんに酷い目に遭わされてまだ頑張っている人って珍しいですもん!」


「彼にはルベルバックで結構頑張ってもらったからなぁ。心情的には応援したいが。ただ、うちの木原くんが相手になると話は別だ。私にコーヒーを噴かせられるものなら、噴かせてみるが良い!!」

「何言ってんすか、南雲さん。コーヒーは飲むものっすよ?」


 芽衣の相手は、山嵐やまあらし助三郎すけさぶろう

 かつて莉子とクララを罠にハメて危険にさらした男である。


 そののち、六駆によるお勘定で彼の命が危険となったが。


 さらにルベルバック戦争への道すがら六駆に見つかった彼は、兄貴分の梶谷京児と一緒に異世界の地へと連行され、割と働かされた。

 その最中に彼の体内に眠っていた善玉菌が活性化したらしく、戦争後は加賀美隊に籍を移して一から修行をすると言っていたが、まさか対抗戦で再会する事になろうとは。


 ちなみに、梶谷京児は実家に帰った。

 最近はスケボーで汗を流しているのだとか。


「山嵐くんは意外とガッツがあるからね。油断大敵だよ」

「およ? 六駆くんにしては珍しく評価が高いにゃー? なにゆえー?」



「僕に2回ボコられてなお探索員を続けている胆力は認めてあげないとですよ!」

「にゃははー。すごい説得力だにゃー」



 実際のところ、山嵐は元からそれなりの才能を持っていた。

 若くしてBランク探索員になった実績は認めてやらなければならない。

 それが鬼コーチ雷門監察官の元でどのように開花したのか。


「みみっ! 行ってくるです!!」

「申し訳ございませんわ、木原さん。あなたにプレッシャーのあるバトンを渡すことになってしまって……。無理はなさらないでくださいまし! 対抗戦は来年もあるのですから!」



「芽衣、絶対に勝って来てね! 3千万円は今年ゲットしておかないと! 来年の賞金が減額される可能性だってあるんだから!!」

「逆神さんは心を悪魔に売ったのかと思っておりましたが、さてはあなたが悪魔そのものですわね?」



 木原芽衣、いざ出陣である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『さあ! 中堅戦がやって参りました! 南雲監察官室からは、期待の新星! 史上最年少の探索員として注目されがちですが、1回戦では実力も発揮しました! 増える女子中学生、木原芽衣Cランク探索員!!』


『彼女のスキルにはボクも驚かされましたねぇ。侮ってはいけませんよ』

『木原の姪か。探索員としてデビューさせる件について私は反対だったが、なかなかどうして。この短期間でランクを急速に上げて来た努力は嘘をつかぬだろう』


 解説の下柳と五楼の評価も上々である。

 もう誰も芽衣の事を「ただのコネで入ったアイドル」とは言わない。


『対する雷門監察官室からは、山嵐助三郎Bランク探索員! 彼はフリーの探索員パーティーを組んで活動していましたが、そのパーティーは解散! そののち、加賀美Aランク探索員の元で修行をしているところを雷門監察官に認められ、晴れて監察官預かりとなった異色の経歴の持ち主です!!』


『資料にパーティー解散の理由が2度とリーダーをやりたくないから、と記載されていますが。何があったんですかねぇ』


 その辺りには触れて差し上げるな。

 彼も反省している。


『経歴など所詮はただの目安に過ぎん。実力があれば相応のものを見せるだろう』


 五楼は実力主義。

 彼女の目に留まる活躍を見せることができるのか、山嵐。


『さあ、両名が武舞台で向かい合います!! 審判の和泉Sランク探索員が立ち会う!!』


 和泉は「ああ、倒れそうだ」と呟きながら、芽衣と山嵐を確認する。


「お互いに武器はなしですか。木原さんは規定よりも年齢が低いですから、レフリーストップのラインも必然的に下がります。良いですね?」


 当然の判断である。

 本来ならば16歳からしか認められていない探索員の就労を特例でパスしている芽衣。

 相手が大人の男であれば、和泉の警告は至極正しい。


「みみっ! それで構わないです! ……芽衣は絶対に勝つです!!」

「……木原さん。君やチーム莉子の皆さんには俺も思うところがあるけれど、こうして代表に推してくれた加賀美さんと、俺を鍛えてくれた雷門監察官のためにも、負ける訳にはいかない!」


 両者の士気は高い。

 和泉も咳をしながら「結構です」と頷いた。


「それでは、中堅戦をげっふん! ああ、失礼。げふっ、ごほっ。始めて下さい」


 今にも倒れそうな和泉の宣言で、運命の中堅戦が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「みみみみっ! 『幻想身ファントミオル二重ダブル』!! さらに『瞬動しゅんどう』です! みみみみみっ!!!」

「くっ! 予想はしていたけど、実際に喰らうと凄まじいな!」


『あーっとぉ! 木原Cランク探索員、早速増えたぁ! 武舞台を女子中学生が埋め尽くすー!! 会場からも大きな歓声が響きます! オレと代われの大合唱! 良くないファンが多いぞ、木原芽衣!!』


 先手必勝。

 芽衣は幻を500体生み出した。


 その完成度は六駆も納得のものであり、山嵐には本体と幻の区別はまったくつかないだろう。

 だが、このスキルは既にルベルバックで見せている。

 1回戦でも類似のスキルを使っていた。


 雷門監察官室が対策を講じていないはずがないのだ。


「うぉぉぉっ! 『ガイアローリングガトリング』!! 一斉射撃!!」


 山嵐は土を煌気オーラで固めたマシンガンを実体化。

 武舞台の中心に立った彼は、それを回転しながら斉射する。


「あっ。これはまずいですね。芽衣の判断ミスだ。幻じゃなくて、ドッペルゲンガーを先に出すべきだったなぁ」

「うむ。これは痛烈な先制パンチをもらってしまったな」


 六駆と南雲はすぐに芽衣の悪手を察する。

 その予言は全力疾走ですぐに姿を見せた。


「みみっ!? みみみみっ!!」


 芽衣の出す幻は一定のダメージを受けると霧散する。

 山嵐の回転射撃により、瞬く間に姿を消していく芽衣の幻たち。


 山嵐の優勢と言う想定外の立ち上がりを見せた中堅戦。

 芽衣の次の一手は。

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