第226話 2回戦 南雲監察官室VS雷門監察官室

『さあ! 監察官室対抗戦! 2回戦の第2試合が始まろうとしております!! 実況は1回戦から引き続き、五楼上級監察官室所属、日引ひびき春香はるかがお送りして参ります!! 今回は各監察官が試合の指揮官として自陣に加わるため、解説役はこちらのお二人!!』


『五楼京華上級監察官だ。よろしく頼む』

『ひぇぇ。下柳則夫監察官です。1回戦に負けたばっかりにとんでもない役が回って来ましたねぇ……。ひぇぇぇ』


 変則トーナメントの2回戦。

 今回から逆サイドの組も2回戦を行うため、解説役は手の空いている監察官が招集される。


 「南雲のコーヒー噴くところが見られないじゃないか」と嘆く病んだファンの諸君には、一言だけお伝えしておくことにする。



 安心してください。噴きますよ。



『このカードは1回戦を大差で勝ち抜けた南雲監察官室に注目です! が! 対する雷門監察官室には、Sランク探索員に最も近い1人として今年の昇進査定に注目が集まる男、加賀美政宗Aランク探索員がいます!! 彼が率いる加賀美隊は協会内でも非常に高い評価を得ております! どうでしょうか、五楼上級監察官!』


『うむ。加賀美は極めて優秀な男だ。自己の研鑽に余念がないのは当然として、パーティーメンバーの修練にも熱心に付き合う。その人柄は大いに評価できる』


『お聞きになったでしょうか! 五楼上級監察官がべた褒めです!! これはレア!! それでは、下柳監察官には1回戦でご自身が苦汁を飲まされた相手、チーム莉子についての評価を聞いてみましょう!』


『そうですねぇ。何と言っても塚地小鳩。彼女の存在は強力ですねぇ。ただ、それ以外のメンバーは実力不足ではないですかねぇ? あとは木原さんの姪御さんくらいですか。さすがに苦戦すると思いますねぇ』


『痴れ者が。下柳、貴様は何を見ている! 努力する有能な者を我々が見定めずして何とするのだ! 恥を知れ!!』

『ひぇぇ!? も、申し訳ありません!!』


 ライオンの檻の中に叩き込まれた太ったネコの様相である。

 同じネコ科なんだから、仲良くしてほしい。


『それでは、両監察官室の入場です! 観客席の皆様! モニターの前の皆様! 大きな拍手でお迎え願います!!』



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲監察官室所属のチーム莉子。

 リーダーの莉子を先頭に、クララ、芽衣、小鳩と続く。


 最後に南雲と山根が出て来る。

 1人足りない気がするのはどうした事か。


「いやー! すみません!! 急にトイレに行きたくなっちゃいまして! まったく、南雲さんがコーヒー飲ませるからですよ! 困った人だなぁ!!」


 デカい声で「おしっこして来ました!」と告白しながら登場をする逆神六駆。

 会場が「わはははっ」と笑いで満たされる。


「六駆くん、さすがだよぉ! 一気に会場の注目を集めたね!」

「莉子ちゃんはポジティブだにゃー。まー、あたしたちは今回賑やかすのがお仕事だから、良い感じに合いの手入れていくぞなー!」


「木原さん? 大丈夫ですの? なんだか顔色が優れませんが、第一三共胃腸薬プラスお飲みになられます? ホットミルクをもらってきてもよろしくてよ?」

「みみっ……。芽衣は口車に乗せられた事に気付いてしまったのです。きっと、試合中の事故で芽衣はむごたらしい死を迎えるのです……。みみみっ……」


 試合に出ない莉子とクララの体調が万全。

 対して、芽衣のコンディションが主にメンタル面で危険な状態。

 これには南雲も慌ててフォローにやって来る。


「大丈夫だ、木原くん! もうアレだよ! いっぱい増えるヤツ使っていいから!! だから絶対に勝とう! 塚地くんと木原くんで2勝! このシナリオが崩れた時! ……私がむごたらしい死を迎えることになるよ」


 指揮官の南雲修一。

 ちょっとメンヘラ気味のコンディションである。


「えー。それでは、メンバー表の交換をお願いします」


 試合の審判を務めるのは、五楼上級監察官に「やれ」と言われたため非番なのにやって来た、和泉正春Sランク探索員。


 和泉いずみ正春まさはるは33歳。

 治癒スキルに特化した珍しい戦闘スタイルで、協会本部にも高く評価されている。

 とは言え、治癒スキルが得意なだけではSランクにはなれない。

 普通に戦ってもAランク探索員相手ならば、最低でも10人は集めなければ勝負にならないだろう。


 和泉のモットーは「争いのない世界を作りたい」であり、そんな彼が出世競争で勝ち組になっていると言うのは実に皮肉なことである。


「じゃあ、小坂くん頼むよ」

「ほえ? 六駆くんがもう行きましたけど?」



「なんで!? あの子には目立つなって言ってあるのに!! もしかして彼の公用語は日本語じゃないのかな!?」



 南雲のツッコミも虚しく、六駆と加賀美が武舞台で向かい合う。

 ルベルバック戦争以来の対面であり、お互いに話したい事もあるだろう。


「やあ! 逆神くん! 君と戦えて嬉しいよ! いい勝負をしよう!」

「加賀美さん、お久しぶりです! なんだかまた強くなりましたね!」


「はい。それではお互いに問題がなければ、小生しょうせいが立会人として試合の成立を認めます。ルールの確認ですが、以下の状態になると負けです。ギブアップを宣言。武舞台の場外に落ちる。戦闘不能になる。小生が危険と判断したら試合は止めます。あと、怪我はどんなに酷くても小生が治療しますのでご安心を」


 和泉が六駆と加賀美を交互に見る。


「自分は問題ありません!」

「僕も大丈夫です! 加賀美さん大将ですか! これは楽しくなりますね!!」


「はい。それじゃあ試合成立です。げほっげほっ……。ああ、失礼。生まれながらの虚弱体質なもので、今日も体調が悪いんですよ。五楼さんに休暇の申請したのに、その五楼さんに来いって言われて……。Sランクになんかなるものじゃないですね。では、5分後に先鋒戦です。ごふっ、ごっふ、5分後に……」


 六駆と加賀美は「お大事になさってください」と和泉に伝えて、自陣へと戻る。


「南雲さん! メンバー表を貰って来ましたよ!! いやー! いい仕事したなぁ!!」

「ヤメなさいよ! 声が大きいんだよ、君ぃ! 逆神くんの一言で会場が常に笑いで包まれてるんだぞ!!」



「ラフ&ピースですね!」

「それをヤメなさいって言ってるんだよ!! くそぅ、このサーベイランス邪魔だなぁ!!」



 南雲修一、自分の仕上げた逸品を邪険にし始める。

 ちなみに、今回のサーベイランスは音声もガッツリ拾う仕様になっております。


「小鳩さん、頑張ってくださいね!!」

「相手も女の人だにゃー。土門どもん佳純かすみAランク探索員さん。おおー。年も1歳しか違わないですにゃー!」


「ええ! 土門さんとは知り合いですのよ! Aランクの講習会などではよく目が合いますの! とても親しくさせて頂いておりますわ! お話したことはありませんけれど!」



 塚地小鳩、目が合うだけで自動的に親しい間柄認定をする事が判明。



「土門さん、名前にちなんで土属性使いなんすね。と言うか、加賀美隊って土属性使い多いっすねー。大丈夫っすか? 塚地さんは水属性で、相性悪いっすけど」

「山根くん。今は冷静な分析なんていらないんだよ! 勝ってくれなくちゃ困るんだ! 神に祈って、仏を拝むんだよ!!」


 南雲修一の知恵者と言う異名が風前の灯火である。

 バースデーケーキのろうそく吹き消す感覚で、多分消滅するだろう。


「それでは、先鋒戦を始めますので。げほっげほっ。代表者は武舞台へ」


「みなさま、行って参りますわ! この塚地小鳩、寄せられる期待には必ず応える乙女ですことよ!! 期待を寄せられるのはこれが初めてですけれど!! おーっほっほ!!」


 金槍・水鳥ヴァッサー・フォーゲルをクルクルと振り回して、塚地小鳩が出陣する。

 先鋒と中堅で試合を終わらせるために、絶対に負けられない戦いが今、始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る