第227話 先鋒戦 塚地小鳩VS土門佳純

 武舞台で向かい合う、塚地小鳩と土門どもん佳純かすみ


「土門さん、お久しぶりですわね! お元気でいらしたかしら!?」

「えっ、あの、私とどこかでお会いしましたっけ?」


「何をおっしゃっておられるのかしら! いつも目が合っていたじゃありませんこと!? 先月の講習会でも3度目が合いましたし!!」

「ええと……。ごめんなさい、ちょっと分からないです」



 塚地小鳩、戦う前から心にダメージを受ける。



 なお、「目が合ったから向こうもこっちを認識している」と考えるのは危険である。

 チンピラの因縁付けやアイドルのコンサートなどでも語られる、ある種の古典。

 だが、9割9分でそれは一方通行の片思い。


 チンピラが絡む相手を向こうは別に見ていないし、アイドルだって何万人の中からわざわざピンポイントで視線を合わせにはいかないのだ。


「げっほげほ。では、いいですか? 試合を始めますが。塚地さん、なんだか具合悪そうですね。治癒スキルが必要ですか?」


「い、いえ、結構ですわ。土門さん、わたくしたち初対面でしたのね……」

「あ、はい。えっ!? 私、お話しするの初めてですよね!?」


 土門さん、お話しするのは初めてなので安心してください。


「それでは、先鋒戦を開始します。ファイげっほげっほ! ああ、失礼。どうぞ」


 和泉の生命力を削る号令で、戦いは始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「では、参ります!! せぇぇぇぇっ! やぁ!! 『ストーンバレット』!!」


 土門の先制攻撃は、土属性の基礎スキルだった。

 まずはけん制と言ったところか。

 だが、研ぎ澄まされた基礎スキルはそれだけでも必殺技になり得るポテンシャルを秘めている。


「心は未だに痛いですが、やらせませんわ!! 『金色こんじき流し』!!」


 小鳩は久坂流槍術で対応。

 両者とも静かな立ち上がりを見せる。


『さあ、始まりました! 先鋒戦はAランク同士の戦いです! 五楼上級監察官、注目すべきポイントなどがあれば教えてください!』

『土門はトリッキーな攻撃と基本に忠実な攻撃を使いこなす猛者だ。低ランクの者たちには、良い教材となるだろう』


『なるほど! それでは塚地Aランク探索員はいかがでしょう!?』

『あの者については情報が少ないため、まだ評価するのは早計だろう。だが、久坂殿の秘蔵っ子であると言うだけで一定の戦力は期待できる』


 武舞台では土門が中距離から攻撃スキルを放ち、それを小鳩がいなす展開が続いている。

 近接戦に持ち込みたい小鳩だが、その狙いは土門もしっかり理解しているため、膠着状態が続く。


『それでは、下柳監察官にこの戦いの勝敗を分ける要素について語ってもらいましょう!』

『ええ……。五楼さんの後にボクが喋るんですか……。塚地さんの実力は1回戦でよく味わいましたからねぇ。彼女がいかに距離を詰めて一撃必殺の間合いに持ち込めるか。そこが分水嶺だと思いますがねぇ』


『下柳監察官』

『ひぇぇぇ。すみません、さかしげに語ってしまいました……』



『よく戦局を理解している。さすがだな』

『ひぇぇぇ。恐縮です! 褒められてもプレッシャーがすごいですねぇ!』



 今のところ両者とも正攻法の戦いを見せているが、五楼の言う土門佳純の「トリッキー」が牙を剥く時が来た。


「悪いですけど、近づけさせませんよ! せぇや! 『アイアン・ツインテール』!!」

「ちょ、なんですの!? ひゃあ!」


 土門は腰よりも長く伸ばした黒い髪がチャームポイント。

 そして、そのチャームポイントがさらに伸びて、鋼のような硬度を得たかと思えば、蛇のように意志を持って小鳩に襲い掛かる。


『出ましたぁ! 土門Aランク探索員の十八番!! アイアン・ツインテールです!! まさにトリッキー!! 自分の髪の毛を武器にしようと言う異形の発想!!』

『あれは相当に厄介だぞ。……私は絶対にやらんが』


 小鳩は襲い来る双頭の蛇を槍で受けながら、だが反撃に転じない。

 何か考えがあるのか。


「くぅぅっ! この髪、斬っても平気ですの!? こんなに艶のあるステキな髪を斬るなんて、万が一実体にも影響があるのなら、わたくしできませんわ!!」


『あーっとぉ! 塚地Aランク探索員、乙女です!! なんと言う気配りでしょう!! 自分に向かって襲い掛かって来る髪の毛を慮っております!!』

『いやぁ。分かるなぁ。ボクが彼女の立場だったら、髪を切り払う時点で絶対にセクハラだって指をさされますからねぇ。うん、分かるなぁ』


 このまま黙ってごり押ししていけば、土門佳純の勝ちは揺るがないだろう。

 だが、彼女は公明正大を旨とする加賀美隊の一員。

 価値のない勝利など願い下げと言わんばかりに、小鳩へ進言する。


「心配してくれてありがとうございます! でも、この髪は煌気オーラで具現化したものですからご安心を! 斬っても元の髪に影響はありません!!」


 諸君はルベルバック戦争で犬伏雪香が使っていた、腕を刃物に変異させるスキルを覚えておいでだろうか。

 土門佳純のスキルはあれに類似するもので、依り代として髪を用いている。

 つまりどれだけ攻撃を受けようとも、髪は無事なのである。


「土門さん……! やはりあなたは尊敬できますわね! では、わたくしも本気を出しますわよ!! お師匠様に無茶振りされて、逆神さんにお排泄物的なトレーニングを受けて身に付けた、このスキルで!! 『銀華ぎんか』!! 一六枚!!」


 小鳩の周囲に銀色の華が咲く。

 金色の槍を操る彼女の、金と銀の共演が始まる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『出ましたぁ! 1回戦でゴールデンメタルゲルモドキの外皮を単身で破壊した、塚地Aランク探索員の美しいスキル! その名は銀華ぁ!! 彼女の周りを衛星のように水銀の華が回っております!!』


『あの感じは、久坂殿だけが考案したスキルではないな。……痴れ者の気配がする』


 五楼上級監察官、大正解である。

 痴れ者の息子がしっかりと一枚噛んでいる。


「参りますわよ!! 『銀華八枚ぎんかはちまい繚乱りょうらんき』!!」

「きゃっ!? なんて威力……!! 『アイアン・ツインテール・ウォール』!! これで……!!」


 実力の拮抗した者同士の戦いは見る者に美しさすら感じさせる。

 攻守交代。

 攻めに転じた小鳩のスキルを、今度は土門が煌気の出力を上げた髪の壁で防いだ。


「まだまだですわ! 『銀華ぎんか』は形状も変化させられますのよ! 『サウザンドシルバーレイ』!! 広域展開!!」

「やっ! せいっ!! くっ、手数が多い……!!」


 小鳩の応用力は高い。

 『銀華ぎんか』の元になったスキル『サウザンドシルバーレイ』に花びらを素早く形質変化させる事で、土門の虚を突いた。


 だが、土門もやられっぱなしではいられない。

 彼女は奥義を披露する。


「塚地さん、あなたは強い! けれど、私だって強い!! 『アイアン・ツインテール』! 最終形態!! 『八岐大蛇ヤマタノオロチ』!!」


 土門佳純、ツインテールを8股に増やす。

 もはやツインテールではないじゃないか。


『ああっと! 出ました、土門Aランク探索員の奥義ぃ!! 超高密度の煌気オーラを練り込んだ髪が8つに増える!! これはトリッキーを超えて少々ホラーです!! 手元の資料によりますと、この奥義の悩みはダンジョン攻略時に使うともれなく味方を巻き込んでしまう、との事!! だが、今回は開けた武舞台の上! これは土門Aランク探索員の優勢か!?』


「な、南雲さん! 何かアドバイスを頂けると嬉しいですわ!!」



「小鳩さん! 南雲さんは今、鼻からコーヒー噴いてるので無理です!!」

「すまない、塚地くん。急に髪がいっぱい増えたから、ビックリしちゃった……」



 南雲修一、サイレントコーヒー噴きを披露する。

 小鳩の感想やいかに。


「……お排泄物ですわ!!」


 彼女の孤独な戦いはクライマックスを迎えようとしていた。

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