第220話 まずは1勝 1回戦を突破したチーム莉子

 1回戦が終わった。


 古住ダンジョンの梅林軍団もチーム莉子に遅れること1時間半、無事にゴール。

 ダンジョン攻略総合戦は途中棄権も多い競技であり、完走しただけでもそれは称賛に値する栄誉。


 梅林軍団のゴールの際にも、惜しみない拍手と歓声が送られたのが証明である。

 彼らは決して弱くなかった。


 当たった相手が悪かったのだ。


 その後、審査員が得点を出し、その合計点がモニターに表示される。

 5人ともさほど悩まずに提出していた。


 得点は、梅林軍団が425点。

 チーム莉子は530点。



 百点満点だって言ったのに、誰かがファールを犯している。



 それだけ圧倒的だったと言う事なので、再集計はされず、これにて決着と相成った。

 続いて行われるのは、2人の監察官の感想戦。


『それでは、順に聞いて参りましょう! まずは南雲監察官! 勝利者インタビューもありますので、簡潔にお願いいたします!』

『はい。梅林軍団は堅実でいて地に足のついたゲーム展開を見せてくれました。探索員のお手本として後の世に記録すべき、良いチームだったと思います』


 にこやかな表情で答える南雲。

 そのままの表情で、水筒からコーヒーを直飲みする。

 カフェインを摂らなければやってられないのだ。


『続いて、下柳監察官! いかがでしたか?』

『イカもタコもないですねぇ。探索員は集団の力をもって戦うのが基本だとボクは考えていたのですが、その根底を揺るがして来る試合でしたねぇ。個の力を極めた集団は驚異的な強さを発揮する。南雲さんの指導方針には学ぶべき点が多かったですねぇ。来年への課題として、受け取っておきます。南雲さん、おめでとう!』


 下柳は南雲に握手を求めた。

 彼は太り気味であり、手が常に湿っている事で有名である。


 だが、南雲の手の方がびっちゃびちゃだったため、彼らの握手はおっさん同士の汁が滴るなんだか嫌な感じのものになったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 チーム莉子がアリーナステージに転移して来た。

 5人を見て、観客は大盛り上がり。


 元から人気のある芽衣を除けば、1度月刊探索員のインタビューを受けた事のあるくらいの露出しかしていないチーム莉子。

 彼女たちの実力はついに世の知るところとなる。


「リーダー! 素晴らしい指揮だったぜー!!」

「ストイックなところがステキー!! 体も鍛えられていて無駄がないわー!!」


 莉子は照れくさそうに頭をかいた。

 続けて、今日もしっかりとお肉を食べて体に無駄な脂肪を付けようと思った。


「ええと、名前は……。スタイルの良い姉ちゃん! 渋い活躍見てたぜー!!」

「うちのパーティーに入ってくれぇ! ええと……! 入ってくれぇ!!」


 椎名クララと名前を呼んであげて欲しい。

 だが、名前は覚えられずとも彼女の能力の高さは人々の記憶に残った模様。


「芽衣たーん!! はあはあ! 芽衣たぁぁぁん!!!」

「うおぉぉぉ! 踏んでくれー! オレを踏んでくれよ、芽衣たぁぁぁん!!!」


 芽衣には既に熱狂的なファンが付いている。

 最年少の女子中学生探索員は、冷めた表情で声のする方を眺めていた。


「塚っちゃん! とんでもない強さだった! スキル教えて!!」

「あのヤバいスキルは久坂さんのご指導ですかー!? 私にもできますかー!?」


 小鳩はこれが公式デビューのようなものなので、観衆の感心も高い。

 あと、ヤバいスキルを撃ったのはこのお姉さんではありません。


「Dランクの兄ちゃんも頑張ってたぞー」

「天井に刺さったり壁に刺さったりしても平気な耐久値はポイント高いぜー!!」


 六駆おじさん、無事に実力を隠し通して1回戦を終える。

 今のところ、「なんかやたらと硬い低ランカー」として認識されている。

 お金がかかれば彼の理性は10倍増し。焼肉が待っていると更に倍。


『それでは、勝ちました南雲監察官室へのインタビューを行っていきます! まずはリーダーの小坂Bランク探索員にお聞きします! 初めての対抗戦のご感想は!?』


『は、はい! とても緊張しましたけど、わたしには頼りになる仲間がいるので、落ち着いて実力を出せたかなぁって思います!』

『謙虚な言葉です! 素晴らしいリーダーシップでした! 次戦も期待しています!!』


 落ち着いて実力を発揮しなかった終盤に放った『苺光閃いちごこうせん』は災害扱いされているものの、莉子もなんやかんやで逆神流を封印できている。

 厳密に言えば自分の力ではなく、偶然の産物なのだが。


『続きまして、監察官インタビューです! 南雲監察官、久しぶりの対抗戦の勝利ですが、今のお気持ちはいかがでしょう』

『……ホッとしています。心の底から。無事に終えられて本当に良かったと』


『小坂Bランク探索員と同じく、謙虚なコメントです! 早くも今回の大会の台風の目と呼ばれ始めていますが、いかがでしょう?』

『いやいや、とんでもない。もう、1回戦勝てただけで満足です。2回戦は思い出にして、後は強い監察官室から学ばせて頂こうかと』



「えっ!? 南雲さん、優勝して3千万ゲットはどうなるんですか!?」

「逆神くん! 今はちょっと黙ってて!! お願いだから!!」



 ついにマイクのスイッチの切り方を覚えた南雲修一。

 六駆おじさんの良くないハッスルは未然に防ぐ。


『パーティーの士気は高いようですね! 南雲監察官室はトーナメントの都合上、優勝までに最も多くの戦いをこなさなければなりません! それに対しての意気込みをどうぞ!!』



「全部勝って、ファイトマネーと賞金を独り占めしたいです!!」

「小坂くん! もうキスとかしていいから、逆神くんの口を塞いでくれるか!?」



 どうにか無事に1回戦の全ての行事を終えた南雲監察官室。

 頑張った監察官殿には、惜しみない拍手を送って頂きたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「いやー! 終わってみれば余裕でしたねー。自分、オペレーターとしてもやっていく自信がついたんで、南雲さんはいつ引退してもいいっすよ!」

「くそぅ! なまじっか良い仕事してるから、怒りづらい!! 私の留守をしっかり守ってくれたから、今日はこうして山根くんも連れて来ただろう!!」


 焼肉屋『どすこい太郎』にて、連日の豪遊中なチーム莉子。

 昨日は決起集会。

 今日は祝勝会。趣が違うのだ。


「でも良かったですね! 莉子の『苺光閃いちごこうせん』でサーベイランスが溶けて!」

「いや、本当にね! ただね、修理の過程で絶対にバレるから、あのサーベイランスは私が引き取ったんだよね! 修理費も自腹だよ! くそぅ!!」


「だってぇー。六駆くんが攻撃されちゃったから、わたし……。ちょっと頭に血が上っちゃって……。だって、六駆くんは大事な人だし……」



「あの禍々しいスキルを放ってその恥じらいですの!? なるほどですわ。わたくし、1つ学びましたわよ!!」

「塚地くん。学ばないで、抑止力になってくれた方が私は嬉しいよ?」



 小鳩がどうやら莉子さんのラブパワーに気付いた模様。

 恋は盲目。視力低下の状況下で凶悪なスキルを撃つ莉子も、彼女の中で「お師匠様が言っていたヤバい人」の1人に無事カウントされた。


「あらら、クララ先輩に小鳩さん、グラス空いてるじゃないですか! すみませーん! 店で一番高いお酒をお願いしまーす!!」

「おおい! 逆神くん! 君ぃ、お肉食べるだけじゃ飽き足らず……!!」


 2回戦は4日後に行われる。

 相手は雷門らいもん監察官室。


 次戦は前日に種目が発表されるらしいので、それまでは静かに羽を休めるチーム莉子であった。

 一方、はたらく監察官たちの様子はどうだろうか。

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