第212話 監察官室対抗戦 1回戦 南雲監察官室VS下柳監察官室
昨夜。
焼肉をたらふく堪能したあと、チーム莉子は監察官室の仮眠室で一夜を過ごした。
南雲こだわりのマットレスと羽毛布団の寝心地はパーティーメンバーにも評判で、彼らは質の良い睡眠を取る事が出来た。
約1名を除いて。
「あらら、おはようございます小鳩さん! 早いですね! 僕は最近、なんか朝早くに目が覚めるようになってきちゃって。いやー、はははっ! 参った、参った!!」
「……おはようございますわ。……わたくし、寝付けませんでしたの。ほぼ徹夜明けですわ」
「それはいけないなぁ! 何か問題がありましたか?」
「お、男と同じ部屋で熟睡できるわけがないじゃありませんこと!?」
六駆おじさん、これはミステイク。
普段からチーム莉子のメンバーと寝食を共にし過ぎているせいで、またしても一般常識を1つ失っていた。
普通は年頃の男女がベッドを並べて寝るものではない。
今回は小鳩が正しいのに、何故だか六駆おじさんのセリフのせいで彼女が異分子のように扱われている。
これをアウェー判定と呼ぶ。
「ん、んーっ! おはよー、六駆くん。早いねー。ふぁーあ」
「こ、小坂さん!? あなた、このお排泄物的に強い逆神さんの隣で寝て、よく平気ですわね!? 何されても抵抗できませんのよ!?」
「あ、はいー。えへへへへへ。六駆くんの隣って安心できますよね。とっても強いから、世界一安全な場所ですよぉー」
「……ごめんなさい。わたくし、なんだか頭が痛くなってきましてよ?」
これがアウェー判定。
今のところ、小鳩が全て正しい。
続けて、芽衣が起きる。
彼女は「みみっ。なんか面倒な気配がするです」と察知して、丁寧に布団を畳んだら「芽衣は顔を洗いに行くです」と速やかに退室した。
クララはまだ熟睡中。
普段は午前6時なんて、まだ彼女は起きている時間であるからして、昨夜はアルコールも入ったことによりその眠りの深さは相当なものになっていた。
これが異世界ならば誰よりも早く起きてモンスターの1匹でも狩って来るのに。
せめてダンジョンならば、ベテラン戦士のように「よく眠れたかにゃー?」とパーティーメンバーにおはようを言ってくれるのに。
現世ではダメ大学生な彼女。
小鳩が大声でこの世の不条理を叫んでも、微動だにしなかった。
それから、南雲と山根も合流して協会本部の食堂で朝ご飯。
探索員は無料で、オマケにご飯のおかわり無制限と言う大盤振る舞い。
普段は貧相な鮭と味付け海苔しか食べていない六駆おじさん、ここぞとばかりにおかわりをする。
しっかりと栄養補給を済ませたら、監察官室に戻ってブリーフィング。
監察官室対抗戦の1回戦についての情報は、公平を期すために午前9時半に公表される。
それに備えて、彼らは装備を整え、どのような種目が選ばれるかの予想を立てる。
「じゃあ、塚地くんが睡眠不足。逆神くんが食べすぎ。体調に変化があるのはこの2人で良いかね? 山根くん、記録しといて」
「南雲さん。1つだけいいっすか」
「なんだ。昨日、いつの間にかこの部屋に焼肉屋から出前させてた件なら、もう許してあげるよ。私も領収書切ったし」
「ゴチでーす! あと、これ経費じゃ落とせませんよ?」
「えっ」
「はい」
「それからっすね。自分が言いたいことはそうじゃなくてですね」
「なんだ。そんなに言いにくい事なのか!?」
「いや、椎名さんいないなーって。誰も話題にしないから、言っちゃダメなのかと思って!」
「ちょっと!? 小坂くん、木原くん!! 椎名くんは!? まだ寝てるの!? 嘘でしょ!? あと30分で1回戦始まるんだよ!?」
椎名クララ。未だに惰眠をむさぼる。
ダンジョンでも安眠できる女子大生に、寝心地抜群なマットレスと羽毛布団はオーバーキルであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
莉子と芽衣がクララを引きずって監察官室へと戻って来る。
時を同じくして、館内に放送が流れた。
『こちらは
「あ、日引さんっすね。逆神くん、聞いてくれるっすか? この子って自分と同期なんすよ」
「そうなんですか! 上級監察官室ってすごいんですか?」
「うちが鼻くそに思えるほどすごいっす!」
「ええー? でも僕、まだ鼻くそしか知らないんで分かんないです!!」
「君たちいい加減にしないとコーヒーぶっかけるよ?」
そんな脅し文句を言いながらも、ちゃんと全員の前に挽きたてのコーヒーを並べる南雲修一。
鼻くそだって住めば都だと分かる人には伝わって欲しい。
『1回戦は、南雲・久坂監察官室。久坂監察官の要望により、今後は南雲監察官室とお呼びします。そして、下柳監察官室。この両チームの対戦です』
「日引さんって、もしかして去年も実況されてましたかにゃー?」
「ええ。されておられましたわ! 時に熱く、時にエキサイティングに、そして大事なところでは冷静に! 見事な実況でございましたわよ!」
監察官室対抗戦は、探索員に所属していればランク関係なしに視聴する事が出来る。
研究のために見る者、娯楽として楽しむ者、探索員として思い出作りに観戦する者と、目的は違えどその注目度は抜群である。
全国にいる数万人の探索員が熱狂する、年に一度のお祭りなのだ。
だが、参加する側からすれば祭も別の側面を見せる。
南雲修一の双肩には「逆神流のほんのりとしたお披露目」と「監察官室として恥ずかしくない程度の結果」と言う、Sランク難易度のミッションがのしかかっていた。
『それでは、1回戦の種目を発表いたします。ダンジョン攻略総合戦です!』
「うげっ! なんと言う事だ!!」
「あー。これは確かに、うちとしては避けたかったっすねー」
ダンジョン攻略総合戦とは、既に廃坑が決まったダンジョンに協会本部の職員がトラップやモンスターなどを配置して、それをいかに上手く捌いて攻略できるかの総合力を試す競技であり、いつもならば2回戦以降で出て来る演目だった。
『出場パーティーの元へ、今、【
アナウンスが終わると、折り目正しく【
「いいか、みんな。ダンジョン攻略は、攻略タイム、モンスター討伐数、イドクロアの採取量の主に3つを総合的に判断して勝敗が決まる競技だ。各々が得意な事に専念して、チームワークを出して行かなければ苦戦するぞ!」
なお、勝敗は協会本部が無作為に選んだ審査員のジャッジによって決定される。
また、南雲と下柳監察官は自分のパーティーの良さをアピールするため、実況席の隣で解説をする。
つまり、サポート兼オペレーター役は山根健斗Aランク探索員になる。
「まあ、1回戦でしょ? しかも対人戦じゃないなんて、これは僕たちへのハンデですね! 軽く捻ってやりましょう!」
「逆神くん。もうその死亡フラグには触れない。お願いだから、やり過ぎないでね? ほんのりだよ? ちょっと香るくらいの逆神流を惜しみながら出して行くんだよ? 絶対だよ? これ、押すなよ、押すなよじゃないからね? 分かってくれるね?」
「あっ、すみません! 今、お金の事を考えていました!!」
「ああ、時間だ。山根くん、あとは任せたよ。私は実況席へ……ああ……」
まるで斬首刑に処されるのが決まった罪人のように、南雲は力なく部屋から出て行った。
続いて、チーム莉子が
今回の【
果たして、どのようなダンジョンが待ち構えているのか。
1回戦、スタートである。
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