第210話 逆神六駆VS南雲修一 探索員協会本部・仮想戦闘空間

 チーム莉子の乙女たちの修行は順調そのもの。

 塚地小鳩も六駆にいじめられながら毎日嬉しそうに悲鳴を上げていた。


 対抗戦まで残り3日になり、それぞれが仕上がって来ている。

 が、逆神六駆は特に何もしていない。

 もちろん、トレーニングの相手がいないので無理からぬ事だったが、山根健斗Aランク探索員のよくない思い付きのせいで、今回不幸になる者がいた。



「南雲さんが戦ってあげればいいじゃないですか! 逆神くんと!!」

「やーまーねぇー!! 言って良い事と悪い事があるだろう!?」



 戦闘狂ではないが、体を動かすのは好きな六駆。

 彼も対抗戦に向けて、コンディションの確認はしておきたかった。


 うっかり力加減をミスして殺人を犯さないようにするためである。


「南雲さん!」

「なん……その凶悪な笑顔はなんだい? 分かった。10000円あげよう。これで手を打とう。なぁ? 悪い話じゃないだろう?」


「逆神くん! 対抗戦の優勝賞金、3千万円っすよ!」

「やーまーねぇー!! やーめーろーよー!! 何が君をそうまで駆り立てるんだよ!!」


「南雲さん!!」


 このやり取りを3回ほど繰り返し、最終的に南雲が折れた。

 「このままループに突入したら、多分私は殺される」と悟ったらしい。


「南雲さん、どの装備でいきます? 新しいヤツ出しちゃいます!?」

「バカ! そんな逆神くんの興味惹きそうなもの出せるかい!! 『双刀ムサシ』の用意を。あと、防具は壱式にして。1番耐久値が高い白衣。そこは絶対だぞ」


 こうして南雲修一監察官の急なバトルが始まる事となった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おおっ! 南雲さん、それルベルバック戦争の時の装備じゃないですか! なんだ! 口では嫌だと言いながらも、内心では楽しみだったんですね!?」

「違う! ヤメよう? 逆神くん。こんな事したって何も生まれやしないよ」


 仮想戦闘空間にて、向かい合う六駆と南雲。


 なお、危険な気配を察知した山根によって、乙女たち4人は防壁の外にあるモニタールームへ避難している。

 「危機管理なら任せて下さい」が山根のモットー。


「色々と試したいスキルがあったんですよ!」

「ちょっと待て! 言ったよね? うちと久坂監察官室で独自開発したていで逆神流は少しずつ出して行くって! ダメだよ! そんな新スキルとか出したら!!」



「それなら南雲さん! なおさらその身で受けて精査してあげないとっすね!」

「山根くん、君ぃ! 本当に私を殺したいんだな?」



 六駆は納得した。

 「じゃあ、軽めに撃ちますから! ダメだったら言ってくださいね!」と元気よく発言する。


 普段から仕事のできないおっさんが急に大きな声で「大丈夫です!」と言うと、何故だか不穏な空気になるのはどうしてなのか。

 これは世界おっさん七不思議にも数えられている、永遠の謎である。


「いきます!! ふぅぅぅぅんっ!!」

「……来るのか。……変刃抜刀! 『双刀ムサシ雲晴うんせい』!!」


 2人の模擬戦は、六駆の新スキルから始まった。


「古龍シリーズ! アレンジ!! 『古龍拳ドラグナックル流星群メテオール』!!」

「ばぁぁぁぁぁっ!! バカ! 逆神くんのバカ!! いきなりダメなヤツ!! くそぅ! 『大曲おおまがりきつねよめり』!!」


 六駆は天井に向けて『古龍拳ドラグナックル』をボクシングのジャブのように細かく15発ほど振り抜いた。

 闇の炎を携えた飛来する弾撃はピタリと動きを一瞬止める。

 そののち、標的目掛けて降り注ぐ。


 まさに流れ星の雨。

 手加減しているとは言え、この攻撃を耐える人間が一体どれほどいるだろうか。


「さっすが南雲さん! なんともないや!!」

「なんともあるわい! 私、今使ったの受け流しの奥義だからね!?」


 南雲の実力は本物だった。

 いつもコーヒー噴いてばかりのおっさんだと侮るなかれ。

 彼の『きつねよめり』は晴刀の煌気オーラを蒸発させる特性をフルに使う事により、相手の攻撃を雨のように霧散させる。


「続けていきますよ! 『豪拳ごうけん』! 『豪脚ごうきゃく』! 『豪烈波ごうれっぱ』!!」

「ぐぉおぉぉっ! どれもなんて重たい一撃だ! とりあえず、これは肉体強化スキルって事で無理やり通す!!」


 六駆はパンチ、キック、気功波と続けて攻撃を繰り出す。

 南雲はその全てを受け流し、ちゃんとスキルの精査もする。


 肉体を強化したら気功波が撃てるのかどうかは、識者の間でも議論を呼ぶだろう。


「続けて出すのは! 『石牙ドルファング』! に『糸刃ストリングス』!! アレンジスキル!『四角岩連続速射砲サイコロステーキマシンガン』!!」

「どうして君はそんなに無茶苦茶するんだ!! 『雲外蒼天うんがいそうてん紫陽花あじさい』!!」


 六駆は使えるかどうかギリギリ分からないスキルをちゃんとチョイスしていた。

 『石牙ドルファング』は多分大丈夫だろう。

 ならば、それをアレンジしたものは。


 彼の体に宿っている逆神家の遺伝子が、高度な計算を繰り返しながらスキルを放つ。


 一方、南雲も奮戦していた。


 『雲外蒼天うんがいそうてん紫陽花あじさい』は、かつてルベルバック戦争で見せた彼の攻撃型奥義の1つ。

 ひとたび振るえば、雨上がりに花が咲いたように敵を葬り去る。



 現在は四角い石のマシンガンを捌くのに使われていた。



「よぉぉし! じゃあ、これで最期にします!!」

「おおおい! 多分だけど、君ぃ! 不穏な方の最後って言ってないか!?」


「いきますよ!! ふぅぅぅんっ! 『ディストラ大竜砲ドラグーン』!!」

「……君、やっぱり頭がおかしいなぁ。くぅおぉぉぉっ!! 『豪雨ごうう胡桃くるみ』!!!」


 最後の攻防は目を見張るものだった。

 5割の力で放たれた『ディストラ大竜砲ドラグーン』は、かつてミンスティラリアで人族の軍事基地を灰に変えた古龍のブレス。


 対して、南雲も死にたくはない。


 彼の持つ『双刀ムサシ』のスキルでも最高の防御力を誇る『胡桃くるみ』で身を守った。

 滝のように自分の煌気を前面に張る事で1つ目のガードを。

 体を固い胡桃の殻を思わせる外皮により覆い尽くす事で2つ目のガードを構築する。


 こうして六駆の『大竜砲ドラグーン』を受けて無傷だった初めての人間になった南雲修一。

 監察官としての面目躍如だったが、別に彼はそんな事を望んではいなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「いやー! いい戦いでしたねー! 南雲さん、しっかりデータ取っておいたっすよ! この鼻水噴きながら奥義を繰り出すシーンとか! けっさく!!

「山根くん。覚えてろよ。絶対に忘れないからな」


 六駆は久しぶりに体を動かす事が出来て満足気である。

 思えばスカレグラーナ遠征からこっち、1カ月半もの間、彼は「運動したな!」と言う充実感から離れていた。

 対抗戦の種目はまだ明らかになっていないが、チーム莉子のジョーカーである逆神六駆の慣らし運転ができた事は、南雲にとってもマイナスではないはずだった。


「とりあえず、なるべく派手なスキルは使わないでくれよ、逆神くん。最悪、使うにしてもどさくさに紛れて使って。お願いだから衆目を集めた状態でぶっ放すのだけはヤメて。ホントにお願い」



「嫌だなぁ! 南雲さん、僕を誰だと思っているんですか?」

「逆神六駆と言う、人間かどうか極めて微妙な立ち位置にいる私の部下だよ!!」



 それから2日ほど訓練を行ったチーム莉子。

 ついに明日は監察官室対抗戦の1回戦が行われる。


 それに先駆けて、南雲監察官室ではとある催しに出掛ける準備が整っていた。

 目的地は高級焼肉屋。


 決起集会をする事で、逆神六駆のやる気と自制心の底上げを図るのだ。

 知恵者と呼ばれる監察官は、事前準備だって手を抜かない。

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