第206話 Aランク探索員・塚地小鳩登場
「これがうちの部屋に唯一おる不肖の弟子じゃ。ほれ、自己紹介せんか。お主がこの中で最年長になるんじゃぞ!」
彼女は「あ、あぅ……」と1度尻込みをした後、ずいっと胸を張った。
その胸部を見て、なぜだか莉子さんが少し傷つく。理由は分からない。
「わ、わたくしは
久坂監察官室に唯一所属している探索員で、ランクはAである。
現在は女子大に通っており、このまま探索員の道を歩もうか思案中。
得意な戦法は久坂監察官直伝の槍術による近接戦と、水属性のスキルによるかく乱攻撃を併用して戦う。
単騎でもパーティーでも活躍できる汎用性の高い能力の持ち主である。
性格は彼女いわく「ツンデレ」らしいのだが、彼女の感覚を世界の真理と決定づけるのは早計である。
「よろしくお願いしますー! わたし、チーム莉子のリーダーで、小坂莉子です!」
「ふ、ふんっ! 自分の名前をパーティーネームにするだなんて考えられませんわ! なんてバイタリティに溢れていらっしゃるの!? ステキ!! 思わずついて行きたくなりますわ!!」
「あたしは椎名クララですにゃー! お姉さんキャラが来てくれて嬉しいですなー」
「べ、別にわたくし、あなたのお姉さんになるつもりはなくってよ!? 同じ大学生ですし、分からない事があればなんなりとお聞きになったら!? 全力でサポートしますわ!!」
「みみっ。芽衣は木原芽衣です。芽衣の悪い噂は聞こえていると思うのです。みっ」
「なんて卑屈な態度かしら! 木原監察官の姪なのに、偉ぶらない態度! 素晴らしいですわ!! 周りの反応なんて気になさらないで、我が道を進めばいいじゃありませんこと! わたくし、全力で応援してあげてもよろしくってよ!?」
「ああ、どうも。逆神六駆です。よろしくお願いします。また若い子が増えたなぁ」
「ちょっと、いやらしい目で見ないで頂けるかしら? とても不快です」
そう言えば、付言しておくべき情報がもう1つ。
小鳩は重度の男嫌いである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いや、どうやら上手く馴染めそうで良かったなぁ。塚地くんには一応、南雲監察官預かりとして対抗戦に出てもらうから、よろしく頼むよ」
「……分かりましたわ。くっ。中年にいやらしく舐め回すよう見つめられるこの屈辱……!! 我慢ですわよ、小鳩! 一応、この中年は監察官ですわ!!」
「山根くん? 私、なんでいきなり精神攻撃を受けてるの? 私は何かしたかい?」
「南雲さんがそこに存在してるからじゃないっすか? 多分これ、正解っすよ」
久坂が「ひょっひょっひょ」と笑いながら仲裁に入る。
「まあまあ、小鳩。話といたじゃろうが。修一は監察官の中ではかなーりまともなタイプじゃぞ? それから、六駆の小僧はワシの知る探索員の中で最強。下手すると、ワシも負けちまうかもしれんのぉ!」
「お師匠様がそこまでお認めになられているのならば……。お排泄物のような視線にも耐えて見せますわ!!」
六駆と南雲が身を寄せ合っている。
そして、何やら小声でぼそぼそと囁き合っている。
「南雲さん。これが今時の女の子ですよ。あの子たち、おっさんを見ると全てがいやらしくて汚らわしいものだと思うんですよ。怖いですよねぇ」
「いやもう、本当にね。と言うか、逆神くんはまだ良いじゃないか。見た目は高校生なんだから。中身も外側もガッツリおじさんの私はもう泣きそうだよ」
おっさん同士の傷の舐め合いが始まっていた。
どうか諸君におかれましては、不要なおっさん差別をしないで頂きたい。
男に生まれたからには、いつかはみんなおっさんになるのです。
「えっとぉ、小鳩さんってお呼びしてもいいですか?」
「小坂さん、遠慮は無用でしてよ! 今回はわたくしがあなたのパーティーに混ぜてもらう身ですもの! お好きなようにお呼びになってくださいまし!!」
「ねーねー、小鳩さん! その装備カッコいいですにゃー! 全身が真っ白! なにかこだわりがあるんですかにゃー?」
「椎名さん、良い着眼点ですわ! 白は高貴な色! 戦場を駆ける乙女として、誇り高き精神を忘れないために選んだ戦闘服ですのよ!!」
「み、みみっ。知らない人の中に入っても堂々としてる姿勢、すごいです。みみっ」
「あら、木原さん。誤解なさっていますわよ? わたくし、緊張でいますぐにでも倒れそうですわ!! 既にかかりつけの心療内科に行きたい心境ですことよ!!」
チーム莉子の乙女たちと小鳩は、無事に打ち解けたようである。
莉子もクララも芽衣も、相手に対して無駄な壁を作る事がないので、初対面の人間を自然とリラックスさせる。
「その槍、オジロンベ製じゃないですか? さぞかしお高いんでしょうね?」
「あなた、自分の矛である武器の値踏みをされるのですね。心根がお排泄物のようですわ。これだから男は度し難いですのよ」
「南雲さん、南雲さん。僕、久しぶりに若い女の子との接し方が分かりません」
「逆神くん。こっちに来ないでくれる? 多分ね、私に飛び火するんだよ、君の炎上が」
その後、「監察官とべったり癒着して! なんて汚らわしい!! このような中年監察官の元で戦うなんて、屈辱ですわ!!」と、バッチリ南雲にも火が付いた。
ちなみに山根健斗Aランク探索員は既にモニタールームに退避済み。
彼の危機管理シミュレーション能力は既にAランクの枠に収まりきらない冴えを見せている。
「まあ、小鳩も頑固じゃけぇのぉ。言うよりも見せた方がええじゃろう? 六駆の小僧、ちぃとワシと仕合うか」
「僕ですか? 別に構いませんけど。ハンデ付けます?」
「抜かしおるわ! ひょっひょっひょ! ほいじゃあ、疲れるまでが勝負じゃあ!」
「うわっと! 相変わらず、お年寄りにしておくのがもったいない素早さ!!」
急に始まった久坂と六駆の仕合い。
久坂は両足しか使わずに、高密度の
それを六駆は左手一本で全ていなして見せる。
流れ弾が2発ほど南雲に向かっていったが、彼もそれを難なく切り払った。
わずか2分のそのやり取りは六駆の力を証明するに充分なものとなり、最後に久坂が「ちぃとマジでやるぞぉい!」と巨大な
それを足で蹴ると、数百もの細かい弾が散弾銃のように六駆に襲い掛かる。
「うわぁ。もう、いやらしい攻撃するんですから。ふんっ! ふんふんふんふんっ!!」
六駆は右手も解放。
両手で
そのうちの何発かをこっそり久坂にリリース。
「ひょっひょ! 小賢しい事をしおる! つりゃあ!!」
「あらら、バレちゃいましたか!」
その攻防を見て、目を輝かせる莉子さん。
クララと芽衣もしっかりと目で追っている。
チーム莉子はみんなして、どんどん普通からかけ離れていく。
「あ、あの、小坂さん? 少しよろしくって?」
「はいっ! なんでしょうか?」
「さ、逆神さんとおっしゃったあのお排泄物……いえ、あの方。な、何者ですの!?」
クララと芽衣も声を合わせて、チーム莉子は3人で答える。
「「「世界最強の男です!!!」」」
小鳩にとって強い男はみんなが敵である。
だが、今回の敵のあまりの強大さに、少しばかり心がモニョり始めていた。
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