第205話 久坂監察官室との合同訓練開始 探索員協会本部・仮想戦闘空間

 本日から【監察官室対抗戦】に向けて訓練のため、チーム莉子の学業はお休み。

 とは言え、莉子と芽衣は成績優秀なので問題はない。


 日須美ダンジョンの前で彼らは集合していた。


「おはおはにゃー。いやー。探索員の仕事が来ると、抑圧された場所からの解放感が半端ないねー!」

「分かります! さすがはクララ先輩だなぁ!」


 椎名クララの後期の取得見込み単位の数は、驚愕の8。

 逆神六駆の期末テストの予想される欠点科目は、異次元の7。



 この2人は一体、何年くらい学生をやるつもりなのだろうか。



「さあさあ! 気持ちも新たに今日から頑張ろう、みんな! そぉぉい!!」


 六駆が『ゲート』を出現させた。

 周囲にいるルーキー探索員は「あれが噂に聞く突然生えて来る門かぁ」と、特に驚く様子もなく『ゲート』に消えていくチーム莉子を見送ったと言う。


 探索員協会本部にある六駆の『基点マーキング』は仮想戦闘空間に作ってある。

 この場所ならば、煌気オーラ力場の防壁によって常に外部への煌気オーラ放出を遮断しているため、六駆の『ゲート』が誰かにバレる心配もない。


「おはよう。……なんか、逆神くんと椎名くんは元気そうだね」


「南雲さん! だって、なんか障害物走とかタイマンバトルするだけでお金貰えるんでしょう!?」

「あたしは大学の留年費用が稼げればそれで良いかにゃーって!」


 南雲は「あのね、探索員憲章に学業に支障が出ると退役する事って文言があるんだよ?」と、チーム莉子のダメな子2人を優しく諭す。



「逆にお聞きしますけど、探索員の活動がなければ生活に支障が出る場合はどうなるんですか!?」

「逆神くんはアレかな? 君の遺伝子には一休さんの細胞も組み込まれているの?」



 挨拶もそこそこに、今日から多くの訓練をこなさなければならない。

 チーム莉子の乙女たちは更衣室へ。

 六駆はその場でお召替え。


「逆神くんの専用装備、ちゃんと新しいの用意してるっすよ! はい、『漆黒の堕天使』! ちなみに、ルシファーって読みで登録しておいたから!」

「なんですか、その名前! そこはかとなく心が躍りますね!!」


「……まあ、作った山根くんと装備する逆神くんがそれで良いなら、好きにしなさいよ。よくそんな名前を装備に付けるね。本部のデータベースに登録されるんだよ?」



「ヤダなぁ! 南雲修一で登録してあるに決まってんじゃないっすか!」

「やーまーねぇー!! うわ、本当だ! 私の名前が『漆黒の堕天使ルシファー』の後ろに付いてる!!」



 そんなやり取りをしていると、乙女3人も装備に着替えて戻ってきた。


「あっ! 六駆くんがカッコいい装備になってる!! えへへへへへ!!」

「あー。莉子ちゃんの表情筋が故障したにゃー」

「芽衣は好きになる人を絶対に厳選しようと心に誓っているです。みみっ」


 南雲が腕時計を確認して「遅いなぁ」と呟く。

 なんでも、訓練初日の今日は久坂監察官に所属している探索員も含めての合同訓練を予定しているらしい。


 約束の時間を30分過ぎても、久坂監察官および探索員は現れなかった。

 仕方がないので、今回が初参加のチーム莉子に【監察官室対抗戦】の解説をするべく、南雲はホワイトボードの前に立つ。


 久しぶりに南雲の仕事ぶりを拝見できる。

 全国50人の南雲修一ファンは是非、ご拝聴頂けると幸いである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 【監察官室対抗戦】は、トーナメント方式で行われる。

 試合方法は1回戦ごとに変更される。

 これは、探索員の力を総合的に判断するためである。


 例えば、実戦に特化しているパーティーを組んできても、ダンジョン攻略に難があればどこかで脱落する。

 オールラウンダーの育成力を競うのがこの催しの主題であり、より優れた探索員育成のプロセスを構築するためであると南雲は語った。


「実はもうね、トーナメント表は出来ているんだよ。山根くん。モニターに映して」

「はいはい。カタカタターンっと。出ます」


 7つの監察官室の名前が順番に並んでおり、南雲監察官室は右から2番目だった。


「あのー。南雲さん、いいですかにゃー?」

「はい。どうぞ、椎名くん」


「監察官って8人ですよね? うちと久坂さんのところが合同でー。なんか変じゃないですかにゃ? 木原さんとこの名前がないのに、7チーム?」

「ああ、それはだね。まず、上級監察官が1チーム編成するからプラス1。で、木原監察官室は出場を辞退したんだよ。理由はね」



「みみみみみっ! ヤメてくださいです! 聞きたくないです!! みみみみっ!!」

「ごめんね、木原くん。まあ、そういう訳だから」



 南雲に代わって説明すると、木原監察官いわく「うぉぉん! 芽衣ちゃまと当たる可能性があるのに、うちのボンクラを出せるかよぉ! うぉぉぉん!!」だそうである。


 続いて莉子が手を挙げた。

 胸部に無駄な脂肪が付いていないので、その姿勢は実に美しい。


「あの、なんでわたしたちだけ一戦多いんですか? 結局7チームだから、1組だけシードになるのなら理解できるんですけどぉ」


「小坂さんはさすがの着眼点だね! それはね、南雲さんのくじ運がウンコだったからだよ! よりにもよって、1番面倒なとこ引いてるの! 最初に抽選受けたのに!」

「それに関しては、大変申し訳なく思っている!! なんか上級監察官がいびつなトーナメント表を作ったのよ! 私も見るまで知らなかったの!!」


 珍しく、六駆おじさんも手を挙げる。

 聞かなくてもいい気もするが、南雲は「どうした?」とちゃんと意見を拾ってあげる。


「一戦多いって事は、ファイトマネーも1つ多く貰えるんですね!?」

「うん。そうなるけど。言っとくけどね、逆神くんは本気出しちゃダメだよ?」


「勝てば勝つほどファイトマネーが貰えるんですね!?」

「……そうだけど。ねぇ、お願いだから全力出さないでよ?」



「いやぁ! これは腕が鳴るなぁ!」

「腕鳴らさないでって話を今ね、私はしているんだけど!?」



 南雲と六駆の楽しい漫才が良い感じに盛り上がっているところで、待ち人きたる。

 久坂監察官がやって来た。


「いやー。すまんのぉ。道が混んじょったんじゃ。予定通りじゃったら、もう余裕で着いとったんやけどのぉ! すまん、すまん!!」

「久坂さん。あなたの姿を朝、食堂でお見掛けしているんですが?」


「のぉ? これじゃから修一は。どう思う、六駆の小僧。こーゆう細かいところが女子ウケせんっちゅうことにまーるで気付いとらんの!」

「へへっ! 久坂さんの言う通りです! へへへっ!」


 ちなみに、六駆はスカレグラーナ遠征で久坂監察官が追加の報酬200万を気前よく出してくれたことにより、久坂への好感度が非常に高くなっております。


「あのっ! 久坂さん! 探索員さんは一緒じゃないですか? 女の子だって聞いてて、わたしたち楽しみにしていたんですけどぉ!」

「そうだったにゃー! 名前と年と階級しか分からないから、ドキドキですにゃー」


「22歳でAランクなんてすごいです! 芽衣はその方の後ろにずっと隠れておくです!! みみみっ!!」


 久坂は振り返る。

 そこには誰もいない。


「なんちゅうかの。うちのは極度の人見知りでのぉ。上手いこと付き合ってやってくれぇ。おい、小鳩こばと! はよう来んか!!」


 小鳩こばとと呼ばれた女子が姿を見せる。

 そして、第一声を力強く言い放つ。


「べ、別に恥ずかしいワケではありませんわ! ただ、あなたたちのような低ランク探索員となれ合いたくないだけですのよ! まったく、そんな低ランクで対抗戦に出ようなんて! 見上げた向上心ですわ! 3人ともとても可愛らしいですし! あなたたちの事なんて、これっぽっちも大好きですわよ!!」


 なんか癖の強い人が来たぞと、チーム莉子の全員が思った。


 君たちもしっかりと癖は強いぞと、声を大にして言っておこう。

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