第197話 平和が戻ったスカレグラーナ 新しい守り神は3人の竜人

 六駆は南雲から事情を説明され、帝竜バルナルドに反逆の意思なしと言う旨を理解した。

 「はじめまして」と言った時点で気付いて欲しかった。



 帝竜バルナルドの第一声は「逆神六駆、けい宸襟しんきんを騒がせ奉り恐縮である。いや、ございます。逆神六駆。いや、陛下」だったので、彼の心中をお察しして差しあげろ。



「なるほど。つまり、帝竜さんはもう僕に爪とか翼とか角をくれる用意があると?」

『逆神くん、君ぃ。言い方ってものがあるでしょうよ。バルナルド様には講和の用意があるんだよ。どうして先に君のお財布事情を考慮せにゃならんのかね』


「……なるべく、痛くしないでくれるとありがたい」


 4000年を超える時を生きている帝竜バルナルド、なんだか生娘みたいになる。


「安心してください! 僕も『生命大転換ライフコンバート』使うの、3回目ですから! 気付いたんですよ! その過程で爪とか翼とかを取っちゃえば良いんだって!」

『ダメでしょ!? そうしたら、君ぃ! バルナルド様だけ角もなければ翼もない、貧相な竜人になるじゃないか! この方、古龍の王だぞ!?』


「……痛くないならば、それで構わぬが?」


 バルナルド様、未だに焦げ臭い逆神大吾をチラ見して、何もかもを諦める。

 むしろ、痛くないならもうそれでハッピーじゃん、くらいに思い始める。


「じゃあ、こうしましょう! バルナルドさんの希少部位をまず剥ぎ取って、僕がクローンを作りますから! それをバルナルドさんには付けてもらうってことで!」

『ええ……。小学生が夏休みの自由研究に粘土細工作るんじゃないんだよ……?』


「大丈夫! 上手くやりますよ! へへっ!」

『薮蛇になりそうだからあまり言いたくないけど、やっぱり君、お父様の息子だよ』


 こうして話は纏まった。

 とりあえず、コンバトリ火山の古龍の巣は狭すぎるので、六駆と帝竜バルナルドは王都ヘモリコンに1度移動する事にした。


 『ゲート』を出しても良いのだが、せっかく覚えた飛行スキルを楽しむために、敢えて『竜翼ドラグライダー』で空を駆ける六駆と、それに続くバルナルド。

 その様子は「まるで古龍を使役しているようだった」と、ホマッハ族がのちの世代に語り継ぐ伝承の書「スカレグラーナの歴史」に記されている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おお! 帝竜! サカガミ、帝竜と仲良くなってる!」

「汚い方のサカガミ、なんかぐったりしてる!」

「ほんのり炙られて、良い感じに焦げてる!!」


 帝竜バルナルドが飛来した王都は大騒ぎになった。

 そこにやって来るのは、チーム莉子と竜人が2人。


「おかえりなさい、六駆くん!」

「なんだかまたやっちゃったんだにゃー? あたしたちが寝てる間にー!」

「みみっ。六駆師匠が本気を出すとどんなに離れていても危険を感じるです。みっ」


「ただいま! とりあえず、諸悪の根源を片付けてきたよ!!」


 3人娘は「あれ? 最後の古龍、元気そうなのになぁ」と思った。

 その最後の古龍が嫌そうに咥えているのが、諸悪の根源である。


「バルナルド殿。このジェロード、再びお目に掛かれるとは思いもせず。……いささか痩せられましたか?」

「うむ。心労が祟ってな。たった1日で2000年分くらい痩せた」


「こうして逆神六駆と共に参られたと言う事は、つまり帝竜バルナルド様もお覚悟を決められたと言う事でございまするか?」

「うむ。覚悟と言うか、余には選択肢がなかった。一本道である」


 スカレグラーナの伝説の古龍を無事にコンプリートした六駆。

 まず、竜人ナポルジュロに「ちょっと良いですか」と頼み事をする。


「あれ出せます? ほら、最初に僕たちを恫喝して来た時に使ってた、魔鏡出すスキル! できれば、この場所をこの国全土に中継して欲しいんですけど!」

「拝承した。容易い事だ。ぐぅんっ!」


 簡単に整う、生放送の用意。

 満足そうに竜人ナポルジュロのスキルを見た六駆は、帝竜バルナルドの肩をポンと叩く。

 わざわざ『竜翼ドラグライダー』を使って、空を飛んだうえで叩く。


 つまり、予定通りやんなさいよと、そういう事である。


「……スカレグラーナの地に住まう、ホマッハ族の者どもよ。余は帝竜バルナルド。卿らが生まれるその遥か太古からこの地を統べる、古龍である」


 六駆おじさん、カンペを出す。

 そこには「もうちょっとフレンドリーに!!」と書かれている。


「……うむ。かつての余は、卿らに非道な行いを繰り返しておった。種族の違いと言ってしまえば容易いが、過去は変えられぬ。だが、一言だけ謝らせてくれぬか。……申し訳なかった。今後は余も竜人となり、ホマッハ族の繁栄を支えていきたいと思っておる。無論、卿らが余を赦せばの話であるが」


 王都ヘモリコンから、国の端のヌーオスタ村まで。

 おおよそ20000人のスカレグラーナの民が、一斉に返事をした。



「「「反省しているなら! いいよ!!!」」」



 こうして帝竜の謝罪が終わり、贖罪が始まる。

 これからは多くの脅威からスカレグラーナを守る、竜人と言う名の竜の神として、長き時間を費やし清算していけば良い。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神六駆による『生命大転換ライフコンバート』が行われ、一旦竜人バルナルド(仮)が誕生する。

 翼も爪も牙もない、ちょっと大きなリザードマンみたいになっている。


「いやぁ、どんなスキルでも覚えとくもんだねぇ! ふぅぅんっ! 『複製レプリカル』!!」


 異空間の中で、帝竜バルナルドのオプション装備が次々に複製されて行く。

 その作業工程は、完全にフィギュア職人のそれだった。


 出来上がったパーツの仕上がりに満足した六駆は、竜人バルナルド(仮)をもう一度異空間に叩き込む。

 竜人ジェロードはのちに「あの時のバルナルド殿の怯えた表情が忘れられぬ」と懐古したとか。


 再びゴリゴリと嫌な音を立てて、15分後。

 出来たてほやほやの竜人バルナルド(完成)が異空間から登場した。


 その黄金色の鱗には帝竜だった頃の権威が見え、3人の竜人の中で最も巨大な翼は、これからも竜人の頂点としてスカレグラーナを見守る覚悟が見て取れた。



 なお、その雰囲気も含めて、全てレプリカである。



 これにて、チーム莉子に課せられたミッションは全てが完了。

 そうなったら、早く帰りたいのが六駆と芽衣。


 ヌーオスタ村まで竜人の背中に乗って移動したら、莉子たち3人はルッキーナとお別れをする。


「みなさん、ありがとう! 私、チーム莉子の伝説を語り継いでいきます! また、遊びに来てくださいね!!」

「うん! また来るよぉ! ルッキーナちゃん、元気でね!!」


「また異世界としばしのお別れだにゃー。寂しくなるねぇー」

「芽衣は1秒でも早く家に帰って、お布団にくるまって寝たいです! みみっ!!」


 六駆は竜人たちと最後の打ち合わせ。


「じゃあ、後はサーベイランスから出て来るナグモとうまい具合にやってくださいね」

「うむ。心得た。ナグモは実に柔軟な考え方の出来る切れ者であるゆえ、余をはじめ、ジェロードとナポルジュロも、何かあればまずかの者を頼ろう」


 六駆は「結構ですね!」と満面の笑みを見せた。


「時に逆神六駆。貴公の父をどうする? 我がずっと抱えておるのだが」

「ああ、忘れてました。『強制覚醒の呪詛アンタモウハチジヨ』!!」



「はぁぁぁっ!? な、なんなんですか!? 俺、どうしてここにいるんですか!?」

「うるさい! 『ゲート』! 先に帰ってろ! クソ親父!! ふぅぅんっ!!」



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 しぶとく生きていたクソ親父。

 先に現世へと直帰する。六駆のドロップキックを背中に喰らって。


 竜人たちは、改めてサカガミの名に畏敬の念を覚えたと言う。

 特にバルナルドは「ええ……。逆神大吾、割と元気そう……」と、六駆相手にガチで殺し合いをした割にダメージを受けていない大吾の耐久値にドン引きしたと言う。



 さあ、チーム莉子。

 彼らも現世へと帰還する時がやって来た。

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