第196話 逆神六駆VS逆神大吾

 いつか、こんな日が訪れる気がしていた。


 せっせと隠居の為の資金を稼ぐ息子、六駆。

 その金を持って遊びに出掛ける親父、大吾。


 そうとも、いつかは両者が激突する日が来るであろう事は、逆神六駆の物語を語る上で避けようのない未来だったのだ。


「南雲さん」

『うん。どうした』


 現在、六駆は飛行スキルでスカレグラーナの空を駆けていた。

 彼は空を飛ぶスキルをこれまで使えなかった。



 だから覚えた。ジェロードとナポルジュロの協力によって。



 名前は『竜翼ドラグライダー』と名付けた。

 背中に龍の翼を具現化する事で、六駆はこれまでの『天滑走アマグライダー』による移動とは比較にならない程のスピードを身に付けた。


「サーベイランスの速度に合わせていると到着が遅れますので、先に行っても良いですか?」

『あ、ああ。……サーベイランス、時速100キロ超えてるんだけど?』



「今の僕のスピードを測るなら、秒速にしてください。では、失礼します」

『君は呼吸をするように規格外になっていくなぁ。ああ、もう見えなくなった』



 南雲は現在操縦しているサーベイランスから、コンバトリ火山のサーベイランスへと運用先を移した。


 そこには既に六駆がいた。

 ほんの数十秒の出来事である。

 意味は分からないが、「逆神六駆に意味を求めるな」と言う持論を思い出し「うん。まあ、そうね」と納得した。


「クソ親父ぃ! 何を勝手な事をしてんだ!! 僕の邪魔ばかりして!」

「おお! 六駆ぅ! いやな、この竜からも高価な素材を剥ぎ取ろうと思ってよぉ!」


「つまらない事をするんじゃないよ!」

「だって、お前! 金が落ちてるようなもんだぜ!?」


 六駆は叫んだ。


「バルナルドさんの牙とか爪とか翼は、僕が安全に貰う計画を立ててるの! それを邪魔して!! 後で竜人化する時に面倒でしょうが!!」



「えっ!? 余、竜人になるの? ……ナグモ?」

『……すみません。私にも事情が分かりません。ただ、覚悟はしておいてください』



 六駆の怒りは相当のものだった。

 穏便に言葉巧みに美味い具合に、帝竜バルナルドを竜人バルナルドにする計画があったのに。

 その過程で、麻酔スキル使って痛くないように素材をゲットする計画があったのに。


 それを自分のクソ親父が邪魔をした事が、許せなかった。


 思えばこれまでも、数多の不条理に耐えて来た。

 その堪忍袋の緒が切れる瞬間が、とうとう訪れたのだ。


「……『光剣ブレイバー』! 来いよ、親父。いい加減、好き放題させるのも疲れた。ここらでハッキリと上下関係を分からせてやる!!」

「お前、親に向かってなんてこと言うんだ!! 俺だって、今はホグバリオンがあんだぜ? お前の恐怖政治にゃうんざりしてたんだ!! やってやらぁ!!」


 こうして、最悪の親子喧嘩が始まった。

 帝竜バルナルドさんは、速やかに隅の方に行って可能な限りの防御スキルを使用してください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「はーっはは! この秘宝剣の事はちゃんと思い出したんだぜ!? 煌気オーラを何倍にも増幅してくれる!! いくら六駆が強いからって、舐めてっと怪我すんぜぇ!?」

「いいから、かかって来なよ」


「言ったな、こいつぅ! 峰打ちしようにも、両刃の剣だから無理だぞ!! 一刀流!! 『瞬動しゅんどう五月雨斬さみだれぎり』!!」


 大吾の剣技は実際のところ、ホグバリオンの力を得る事で監察官である南雲に匹敵するレベルまで引き上げられていた。

 いや、最大瞬間風速だけならば南雲に勝っていたかもしれない。


 ガキンッ。


「ほあ? お、お前、『光剣ブレイバー』はどうした?」

「いや、親父に絶望を与えるには、邪魔かなって。ほら、続けていいよ? にわか雨剣だっけ? はい、どうぞ」



 逆神六駆、ホグバリオンを人差し指で受け止める。



 彼の指は超高密度の煌気オーラで覆われており、その硬度がホグバリオンの切れ味に勝っていた。

 続けて繰り出される『瞬動しゅんどう五月雨斬さみだれぎり』は、36回の斬撃すべてが六駆の人差し指の前に返り討ちに遭った。


「……ナグモ? 逆神大吾がけいの世界の最強ではないのか?」

『なんと申しましょうか。大吾さんも強いですが、上はまだまだいます。あと逆神六駆くんはですね、私たちの世界はもちろん、多分どこの世界に行っても最強です』


 六駆が大吾を思い切り蹴り飛ばす。

 「おべしゃぁぁぁ」と気味の悪い絶叫が火山の中に響いて、帝竜バルナルドは思わず耳を塞いだ。


「……余は、竜人になろうと思う。あの者に逆らっても無駄だ。そうであろう? ナグモよ」

『素晴らしいお考えかと。正直、あんなに怒っている逆神くんを見るのは初めてなので。私にもこの戦いは止められません』


 壁にぶっ飛ばされた大吾は『瞬動しゅんどう三重トリプル』で六駆を翻弄する作戦に出る。

 ホグバリオンを手にしている限り、大吾のスキルは全盛期のものへと格上げされるのだ。


「ちくしょう! 親父の威厳を見せてやる!! 『虎武琉とらぶる』!!」

「あー。これ、親父が作った使えないスキルだ。そんな名前だったね。異世界の虎の咆哮を召喚するんだっけ? ……ふんっ!!!」


「えっ、おまっ、おまえさん? 確認するけど、今のただの裏拳?」

「異世界の虎って言うからには、ダズモンガーくんくらいのヤツを出さないと。防御スキル使う気にもなれないよ」


 そう言いながら、六駆は両手を竜の形にして、静かに煌気オーラを溜める。


「わ、分かった! よし、仲直りしよう! ここは引き分けだ! 父さんびっくりしたなぁ! 息子の成長ってすごいや!!」

「言いたい事は終わった?」


 六駆、未だに煌気オーラを充填中。


「ち、ちくしょう! こうなりゃ、そのスキルは撃たせねぇ!! うおぉぉぉ! ホグバリオン! 俺に力を貸してくれぇ!! 一刀流奥義! 『百鬼葬列剣ひゃっきそうれつけん』」


 大吾の奥義がホグバリオンによって増幅され、六駆に襲い掛かる。

 地獄の鬼を召喚し、相手を今来た地獄に引きずり込むと言う、実に残酷な剣技である。


『とんでもないスキルだ。山根くん。データちゃんと取っといて』

『とっくにやってます。どうするんすかね? あの百鬼夜行』


 六駆の両手両足にまとわりつく鬼たち。

 そこにトドメの真空剣まで飛来する。


「うるさいな!! どっか行きなさいよ! 鬱陶しい!!」


 気合一閃。

 と言うか、お説教である。

 「鬱陶しい」で、地獄から召喚された鬼たちが「すみませんでした」と帰っていく。



『逆神くんってアレだね。ガチギレすると、逆にスキルあまり使わなくなるんだ』

『見た感じ、スキル使わないでも木原監察官とタイマン張れそうな煌気オーラっすよ』



 監察官室では、もう感想戦を始めている。

 帝竜バルナルドは思った。


「卿らの国、怖いな。余はスカレグラーナの地で守り神にでもなろう」


 さて、六駆くんの準備が出来たようです。


「お、おい、待て! お前、親を殺す気か!?」

「うん。そうだけど」



「ばぁぁぁ!! バッカおぇ、日本の法律知らねぇの!? 殺人は罪だぞ!!」

「ここ、異世界だよね? あと、帝竜さんを殺そうとしたのは? ねえ、親父?」



 事ここに至れば、既に語る事もなし。


「待って! ごめんて! 魔が差したの! 今は反省してる!! 許しておくんなまし!!」

「反省は痛みと一緒にすると良いよ。大丈夫、死んでも生き返らせてあげるから」


 六駆は両手を大吾に向ける。

 無表情なのが逆に怖かったとは、南雲リポートの一文である。



「消し飛べ、クソ親父!! 『冥王プルート大竜砲ドラグーン』!!!」

「あぁぁぁぁぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ! んひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」



 こうして、スカレグラーナに真なる平和がもたらされ、逆神家の親子の序列がより明瞭化された。

 その後、六駆は笑顔で帝竜バルナルドに挨拶したのだが、かの竜を統べる皇帝はずっと敬語で話していたと言う。


 逆神大吾の生死については、次話に譲ろう。

 どうせしぶとく生きている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る