第173話 突入準備完了! いざスカレグラーナへ!! 有栖ダンジョン最深部

 長かった有栖ダンジョン攻略も、この最深部で無事に完遂。

 結成してから3つのダンジョンに挑戦して、3つのダンジョンともに最深部へと到達して見せたチーム莉子。


 これはAランク探索員のパーティーでも達成している部隊はおらず、記録の話をするにはSランク探索員を引っ張り出さなければならない。

 なお、「新人パーティーが結成してから無傷での連続攻略完遂」と言う記録に限れば、探索員協会50と余年の歴史の中で初である。


 ただ、惜しい事に有栖ダンジョンは未攻略ダンジョンではないので、参考記録に留まる。

 しかし、記録の更新は次回のダンジョン攻略で果たされる可能性が高いため、これは月刊探索員の取材も待ったなしの案件である。


 そういうわけで、こちら有栖ダンジョン最深部。


 山根が構築した煌気オーラ力場の中で、チーム莉子はスカレグラーナへ入る準備をしている。

 主に、六駆の『注入イジェクロン』によるメンバーの煌気オーラ回復と、突入したらすぐに戦闘状態へ移行すると思われるため、その打ち合わせに時間が割かれる。


「はい、これで芽衣も煌気オーラ回復完了だよ。クララ先輩と芽衣はやっぱり消耗が激しいですね。2人とも、新スキルがまだ身についていないようだ」


「にゃははー。迷惑かけてすまんぞなー。だってさー、新しいスキルってつい使いたくなるんだもん! ねー、芽衣ちゃん!」

「みみっ! 芽衣は夢の遠隔攻撃スキルを手に入れたです! これなら、倒れるまで使っていたいです! まったく、六駆師匠は最高です!! みみみみみっ!!」


 張り切るのも良いが、まずは無茶をしないようにと嗜める六駆。



 その姿だけを見ていると、歴戦の勇者と勘違いしそうになってしまう。



「ルッキーナちゃん、平気かなぁ? 無理してわたしたちに付き合わなくても、後からゆっくり来てくれたらいいんだよぉ?」

「いえ。私の国の問題ですから。それに私、きっと情報の面で皆さんのお役に立てると思います。だから、連れて行ってください!」


 確かに、ルッキーナの持つ情報は貴重である。

 南雲が持っているスカレグラーナの資料は既に使い物にならない可能性の方があり、知能の高いらしいドラゴンが相手となれば、下手をするとその資料の存在を睨んだうえで逆に利用されて罠を仕掛けられているかもしれない。


『ひとまず、有栖ダンジョン内のサーベイランスは全てここに集めておいた。全部で4基ほどある。『サーベイシールド』で先ほどの黒炎ならば防げるから、是非とも盾として役立ててくれ!』


「南雲さん! 何言ってるんですか!!」

『お、おお、どうした逆神くん。えっ、私、何か変なこと言ったかい?』


「サーベイランス、1基で300万するんでしょう!? そんな機械を軽々と使い捨ての盾にできる訳ないじゃないですか!!」


 語気を強める六駆おじさん。

 だが、良識派のおじさんである南雲も反論する。


『いや、だがね、逆神くん。人命の前では、300万なんて大した額では……!!』



「じゃあ、僕5回死ぬんで、1500万ください!!」

『君ぃ。逆神くんはアレだな。時々実にゲスな男になるね。命は大事にしなさいよ』



 その後、六駆はもう一度「僕、死んでも生き返れますから! 1度死んだら300万もらえますか!?」と確認した。

 南雲は「君に限ってはあげないよ? だって、その話だとあげるって言ったら、今すぐ喜んで死ぬでしょ?」と、毅然とした態度で応じる。


『ちょっといいっすか? それより、無属性ブレスの対策はどうなったのかなって』

『山根くんはここぞと言うところで本当に良い事を言うな。そうだよ。逆神くんでも対処できなかったんだろ? まずいじゃないか』


 すると六駆は首を横に振る。

 少し不満そうな表情をしながら。


「さっきのは虚を突かれたから後手に回っただけです! 言っときますけどね、僕に同じスキルが2度通用すると思ったら大間違いですよ!! もう、頭の中には対処法が4つは浮かんでますから!!」


 六駆の脳裏に、先ほどのゴールデンメタルゲル大爆殺事件の記憶がよみがえる。

 彼は怒りに震えながらも、頭の中は冷静だった。


 さすがはたった独りで異世界を6つ平定した英雄。

 その経験は彼の中でしっかりと生きていた。


『じゃあ、逆神くんを先頭に突入するって形がベストっすかね?』

『まあ、そうだろうな。向こうの出方次第だが、私なら先手必勝でブレス攻撃をチョイスする。それを防げる逆神くんを前線に出すのが上策だろう』


 そこで六駆は異を唱える。

 試してみたい作戦があると言うのだ。


「うちの切り込み隊長の出番ですよ! 芽衣を先頭で突入しようと思います!」

「み゛っ!?」


 まさかの師匠からの裏切りに、芽衣はフリーズする。

 好きな4文字熟語は「安全地帯」な彼女にとって、戦の一番槍ほど魅力を感じない役割はなかった。


「大丈夫、安心して! 芽衣!! よく聞いてくれる?」

「みみっ……。師匠のお言葉なら、芽衣は一応聞くです。一応です」



「この作戦に失敗したら、どこにいても多分死ぬから! 乗った方が生存確率は上がるよ!!」

「みみみみっ!? こんなに効果的な交渉もないと思うです! み゛み゛っ!!」



 その後、六駆から作戦が全員に伝えられた。

 相変わらず、理にかなってはいるものの、通常では初手としてあまりにも危険なギャンブルプレー。

 南雲をはじめ、ほぼ全員を閉口させた。


「六駆くん、さすがだよぉ! もぉぉ! いっつも頼りになるんだからぁ!!」

「そう? いやぁ、莉子だけだよ! 僕の作戦について来てくれるのは!!」


 莉子さんは既に手遅れ。

 六駆の考案する作戦ならば、恐らくどんなむちゃくちゃなものでも全肯定するだろう。


 愛は盲目。もはや莉子には正しい道が見えていない。

 そんな彼女はパーティーのリーダー。


 パーティメンバーのクララと芽衣。

 そのパーティーの後見人である南雲の3人は「ああ、どうして莉子は六駆と出会ったのか」と、運命のいたずらを恨んだと言う。


 それはさておき、こうして準備は万端。

 異世界に殴り込みをかけるべく、チーム莉子の進軍が始まる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時間は少し遡り、3時間前。


 スカレグラーナの西にある休火山には、3匹のドラゴンがいた。


 彼らは4000年の時を生き、人語を操り、人をはるかに超える叡智と武力を併せ持つ、最強の生物として異世界の地に君臨していた。


「幻竜ジェロード。貴公には異界の門の守護を任せると言ったはずだが」

「帝竜バルナルド殿。お言葉ですが、我らに序列はないはずですぞ?」


「ふん。ジェロードよ、口を慎め。我らと帝竜殿とでは、流れる血が違う」

「よい。冥竜ナポルジュロ。我らは皆、同じ時に封印された。復活するために30年もかかったのだ。我らのうち1匹でも欠けていては、それも果たせなかった。ならば、余が序列など作ろうはずもない」


 帝竜、冥竜、幻竜。

 かつてスカレグラーナに破壊と滅亡をもたらした、3匹のドラゴン。


 彼らはとある人物によって、30と余年の時を休火山の中で過ごしていた。


「我らの宿願はこの世界の征服。そしてその先は、あの男への復讐を果たす……!!」

「おおっ! 我らの憎き、あの異界から来た男!!」

「……逆神! サカガミ!! ヤツだけは許せぬ!!」


 唐突にドラゴンたちから出て来た逆神の名。

 六駆よ、今回の騒動にもお前が関わっているのか。

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