第174話 3匹の古龍と因縁の男・逆神大吾 スカレグラーナ東 コンバトリ火山

 ドラゴンたちは、口々に「逆神」と言うワードを口にする。

 その表情と語気は深い怨恨に裏打ちされた凄みがあり、相当な縁が「逆神」とある事をうかがい知る事ができた。


「ぐぬぅ。古傷が痛みおるわ。あの男につけられた首の傷が……!」

「帝竜殿の喉を切り裂いたあの者のスキル。我も忘れる事はできませぬ」


「バルナルド殿。ナポルジュロ殿。逆神と言う者はそれほどの使い手だったか? 貴公らが油断をしただけなのではないのか?」


「痴れ言を申すな、ジェロード。我のみでも世界を滅ぼすに足りる力量を持っておるのは、若い貴公でも分かるだろう? その我が、成す術もなく倒されたのだ。そして、それは帝竜殿も……」


 幻竜ジェロードは、帝竜バルナルドと冥竜ナポルジュロに1000年ほど遅れてこの世に生を受けた。

 同じく逆神の者に封印されたのだが、帝竜と冥竜から遅れること数か月ののちに休火山に叩き込まれたため、先達の古龍たちとの初顔合わせは思念体だったと言う。

 とは言え、ジェロードも3000年の時を生きており、充分に古龍の域に達している。


「逆神の使う剛の剣術と柔のスキルの併せ技。あれには余も翻弄された。だが、もはや同じ手を食うこともない。あやつの犯した唯一にして最大のミス。それは、余やナポルジュロ。そして貴公、ジェロードを殺さずに封印したことよ」


 確かに、六駆にしては珍しい措置である。

 彼ならば、害をなすドラゴンなんて有無を言わずに滅しそうなのに。


 と言うか、六駆は剣術をそんなに多用していたのか。

 柔のスキルと言うのも引っ掛かる。

 六駆のスキルはだいたい全て剛と言うか、頭のおかしいものであり、間違っても柔などと言う形容は似つかわしくない。


 このドラゴン、年取り過ぎてボケたのだろうか。


「ふぅむ。帝竜殿がそこまで申されるからには、相当な使い手なのでしょうな」

「幻竜ジェロードよ。貴公には、余や冥竜ナポルジュロが封印から解き放たれるまでの助力の恩がある。ゆえに、言っておこう。逆神大吾。あの男にだけは気を付けよ」



 六駆ではなく、まさかの親父の方であった。



 そもそも、逆神家の崇高な使命(笑)は時間の計算が難しい。

 あいつら、異世界を平定したら転生時の年齢に戻る上に、転生した先の異世界で流れる時間も場所によって違うから、30年とか言われても逆神ならば六駆だろうと思ってしまうのは当然。


 まさか、親父の大吾が平定した異世界が、このスカレグラーナだったとは。

 六駆が今回の遠征について大吾と話をしていれば、「ああ、そこ俺が昔行ったとこだわ!」みたいなノリで、色々と情報を得る事ができたのに。


 いや、もしかすると、大吾も自分の封印が破られた事を現世で察知しているかもしれない。

 まずは、彼の様子を見てから話を進めるべきだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 という訳で、現世の逆神家。


「へーっくし!! ええい、ちくしょうめ!!」

「なんじゃ、大吾。風邪でも引いたんか? ワシにうつすなよ! 年寄りじゃぞ、ワシ!!」


「心配しろよ、親父! 俺がくしゃみするとか、滅多にないんだぞ!! ……はっ!!」

「どうしたんじゃ。さてはお前、更年期障害が始まったんじゃないかの?」


「いや、これは吉兆だ! 多分、今日は俺、ツイてるんだ! ちょっくらパチンコ行ってくる!! 親父、六駆のくれた生活費を寄越せ!」

「お前、なんちゅう事をしようとしとるんじゃ……。息子のくれた金を使い込む気か? ああ、嫌じゃ。ワシ、こんな風に育てた記憶ないんじゃけどのぉ」



「勝ったらその金で、一緒にガールズバー行こうぜ!」

「人は時として、リスクを承知の勝負をせにゃあならん! 戦って来い、息子よ!!」



 それから大吾は『開門アビエット』を使い、六駆の何重にもかけられた錠前スキルを30分で突破した。

 5万円を手にスウェットで出かけて行く大吾。



 多分、スカレグラーナを平定したのは同姓同名の転生者だろう。



 もしくは、ドラゴンたちが本格的にボケているかのどちらかである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 休火山では、相変わらずドラゴンたちが逆神の脅威について語っていた。


「げに恐ろしきはあの剣術。我も帝竜殿も、爪を折られ、翼を裂かれた。まるで白く光る箒星のようであった。人間とは思えぬ。……逆神大吾」


 その逆神大吾が我々の知っている人物と同じならば、息子の稼いできた生活費片手にパチンコ屋に出掛けている。

 確かにまともな人間とは思えない行動である。


「余のブレスを相殺して見せた、波動の塊も脅威であった。察するに、壮絶な修練を重ねて生み出した技法であろう。人にしておくには惜しい。逆神大吾よ」


 本当にその逆神大吾が我々の知っている人物と同じならば、10日分の生活費と言って六駆に渡された5万円をたった2時間で1万円まで減らしている。

 人にしておくには確かに問題がある。


 マジメに生きている人への示しがつかない。


「うぬぅ。我は気付かぬうちに封印されてしまったため、逆神大吾の実力を見ておらぬので。一度手合わせをしてみたいものですが」


 ジェロードがそう言ったところで、3匹が揃って煌気オーラの揺らぎを感じ取った。

 ちょうど、有栖ダンジョンで六駆がマグマアニマルズと交戦していたタイミングである。


「異界の門の先に行かせた、溶岩の狼たちに抗う者がおるようだ。冥竜ナポルジュロ。ちと様子を見て来てくれぬか」

「拝承いたしました。お任せ下さいませ」


 マグマアニマルの発生元を確認。

 方法は謎だが、3匹の中にモンスターを生み出す力を持つドラゴンがいる模様。


「待たれよ、ナポルジュロ殿。ここは我が行ってみよう。貴公らの話を聞いておったら、無性に戦いたくなってきた。侵入者は殺しても構いますまい?」


「ふっ。好きにせよ。やはり余や冥竜よりも若いな。血の気の多いことだ。ならば、我らはここで貴公の活躍を見ておくとしよう」

「幻竜ジェロード。相手が何であれ、油断はせぬことだ」


「ふふっ、我ら古龍に何かができる手合いなど、そうはおりますまい。まあ、貴重な進言として拝聴しておくとしよう。では、行って参る」


 幻竜ジェロードは、翼を大きく羽ばたかせて休火山から飛び立っていく。

 そののち、有栖ダンジョンとスカレグラーナを繋ぐ門の入口に向かって、黒炎のブレスで攻撃を仕掛けたのは諸君も知っての通り。


 今は念のためにもう一度ブレスを吐こうと思い、幻竜ジェロードは異界の門の前でタイミングを計っている。

 そこに押し寄せて来るのは、因縁の逆神の名を持つ六駆を含む、チーム莉子。


 今、決戦の幕が上がろうとしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神家では。


「ただいま。ダメだったわ。いや、あのリーチはもらったと思ったんだけどよぉ!」

「マジかお前! ワシ、豪華な晩飯が食べられると思うて、さっき炊飯器にあったご飯でチャーハン作って食べてしもうたぞ! もう米がないんじゃよ!!」


「えっ、マジで? 六駆帰ってくんの、いつだっけ?」

「知らん。あと、その饅頭から手を離さんか。それ、ワシのお茶請けじゃぞ」


「良いじゃねぇか! チャーハン食ったんだろ!?」

「年寄りの胃袋舐めんな! ワシらはボケたふりして昼飯2回食うくらい食欲旺盛なんじゃ!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ……戦いの幕が上がる。

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