第162話 空回りする乙女たちの善意 有栖ダンジョン第16層
第16層まで下りて来た六駆たち。
13層以降はモンスターの数が激減し、彼らの攻略スピードも必然的にアップしていた。
「さっぱり何も出なくなったねぇ。これじゃあイドクロアが手に入らないし、せめて討伐報酬用にモンスター狩りくらいしたいのに」
六駆の言う事はもっともなのだが、素直に頷けない3人娘。
モンスターの出現頻度が減った代わりに、天然のトラップが増えてきており、それを先頭で切り払っているのが六駆。
「女の子たちを危ない目には遭わせられないからさ!」と言って前に立つ彼は称賛されるべきであり、正しいジェントルマンの姿とも言えた。
だが、やはり素直に喜べない乙女たち。
マントの裾から下は生足で、どんなに頑張っても変態にしか見えないからである。
莉子は「ダメだよぉ! わたしのバカぁ! 六駆くんは悪気なんてないんだからぁ!!」と、自分を責め続けている。
だけど、視線を前に向けるとおっさん男子高校生の生足がこんにちは。
清らかな心を持つ莉子には刺激が強すぎた。
クララは「ああー。六駆くんのこの姿と背中の莉子って文字が絶妙にマッチしてて、共犯者同盟がどっちも甚大な被害にー」と、やはり下を向く。
確かに、言われてみれば露出狂の名前が「莉子」、もしくは露出狂の推しが「莉子」のどちらかに見える。
ちなみに先ほどからクララはスマホのカメラを起動させようかずっと迷っている。
芽衣はシンプル。
六駆の「風呂上りに全裸で家をウロウロするおっさん然とした姿」を、自分の伯父である木原監察官と重ねて、なんだかすごく嫌な気分になっていた。
女子中学生には、理性よりも先に生理的嫌悪感がやって来るらしい。
「むっ! これは御滝ダンジョンで見た、ヌタプラント! こんなに大きいのは初めてだ!! 念のために斬っておこう!! そりゃああああっ!!」
『
一太刀浴びせる度に、マントがチラッとなって、乳首がチラッとなる。
重ねて言うが、今回に限り六駆くんは全然悪くないのだ。
それなのに、なんだか乙女たちを困らせる元凶になっている。
彼が気の毒なパターンは珍しい。
と言うか、そろそろ莉子さんの心の限界が訪れようとしていた。
そこで彼女は提案した。
「ろ、ろろ、六駆くぅん! あの、そのね! 今斬った、ヌタプラントで上半身を隠すのはどうかなぁ!?」
「みみっ! それは名案です! さすが莉子さんです!!」
「ええ……。嫌だよ。だってこれ、葉っぱだよ?」
「そうだよぉ! 葉っぱ! ずっと手頃なものがないか探してて、待望の葉っぱなんだよぉ!!」
「ああ、もしかしてこの格好に気を遣ってくれてる? 別に、僕は気にしないよ?」
乙女たちが気にしているのだ。気付け、おっさん。
「みっ! そうです! そろそろダンジョンも終盤戦です! と言う事は、スカレグラーナに入るのも時間の問題! 異世界にお邪魔するのに、正装じゃないのはまずいと思うです!! みみみっ!!」
芽衣が珍しく強く進言するので、六駆も「んー。まあ、そこまで言うなら」と応じる。
なんだかんだで女子に甘い男である。
「じゃ、じゃあ、わたしが葉っぱを上手く組み合わせて、服みたいにするね! 任せて、わたし家庭科の成績、良いんだから!!」
「芽衣は葉っぱを集めるです! みみみみみみみっ!!」
こうして、莉子と芽衣の共同作業が始まった。
芽衣が集めて来たヌタプラントの葉っぱを莉子が受け取り、探索員の道具箱から針と糸を取り出して凄まじい速さで縫い合わせていく。
「おお! こんなところに鉱石が埋まってる! これ、イドクロアかな!? よし、掘り出そう!! ふぅぅんっ! 『
莉子と芽衣の奮闘をあざ笑うかのように激しく動き回る六駆。
お風呂上がりに体を拭かせてくれない小さな子供だろうか。
その後も暇に任せてあっちこっちへと鉱石を見つける度に、ダイナミックな動きとアクロバティックなスキルでマントをはためかせる六駆。
その姿を見て見ぬ振りしながら、チクチクヌイヌイと葉っぱと格闘する莉子。
隣には「頑張ってくださいです! ファイトです!!」と熱いエールを送る芽衣。
「で、できたぁ!! 六駆くん、こっち来て!」
「えっ、でもこっちにも鉱石が!!」
「それただの綺麗な石だから!! いいから早く来て!! そして早く着て!!!」
「……こんなに集めた鉱石、全部ただの綺麗な石なの? 早く止めてよ……」
こうして、六駆に葉っぱの装備を着せる莉子。
沈痛な面持ちの芽衣。
クララはどうしたかと言えば、結構前からスマホで動画を撮影していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「これでよしっ! ……よし。……よくないぃぃぃ! うわぁぁぁん!!」
莉子が泣き崩れた。
「芽衣、ちょっとメンタルが疲れて来たので、早退したいです」
また師匠みたいな事を言い始める芽衣。
その理由をわざわざ開示する必要があるのだろうか。
あるかないかで言えば、もちろんあるのだろう。
だが、言いたくないことだって時にはあるのだ。
「おお! すごいね、莉子! 葉っぱでこんな服を作れるなんて! なんかちょっとヌルヌルするけど、これは良い感じだよ! ありがとう!!」
六駆の上半身は、葉っぱで覆われていた。
だが、思い出してほしい。
ヌタプラントは触手を伸ばす系の植物。
つまり、葉の形状は縦長で、かなり細い。
それを無理やり服のようにして縫い合わせてはみたものの、やはりどうしても隙間が目立つ。
もう、誤魔化し合いはヤメよう。
端的に表現しよう。
六駆がホットパンツに葉っぱを付けてマントを羽織った変態にしか見えない。
スカレグラーナに対してその恰好では失礼だと言った芽衣。
彼女は既に、心の中で発言を撤回していた。
「これが悪魔の正装だ」と自分の師匠に言わせるのは、あまりにも忍びない。
莉子は悲しんでいた。
自分は六駆のどんな姿でも肯定できると思っていたのに、この姿の六駆を認めたくないもう1人の自分の存在に気付いてしまったから。
ついでに、より変態性を際立たせたのが自分であると言う事実もなかなかに辛かった。
「さあ! それじゃあ先に進もうか! お金と商機は待っちゃくれないよ!!」
こうして、逆神六駆は新しい世界の扉を開けた。
半裸で戦う最強の男。
もはや、羞恥心でも最強の栄誉を戴冠しようとしている。
ところで、クララは気付いていた。
「『
だが、莉子と芽衣があまりにも一生懸命だったので、言い出せずにいた。
ちなみに、動画も面白がって撮っていた訳ではない。
「この動画、六駆くんと莉子ちゃんの結婚式で使えるかもにゃー」と、思い出の1ページを記録係として残すべく、大役を買って出ていたのだ。
全員が善意のみで行動した結果が、いつも報われるとは限らない。
そんな切ない現実のありようを、チーム莉子は我々に教えてくれているのかもしれなかった。
なお、六駆くんの良くない正装問題については、頼りになる上司が異世界から帰還し次第どうにかしてくれるはずなので、諸君におかれましては安心して欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます