第163話 監察官・南雲修一のちょっと留守にしてた間に色々とえらいことになってる……

 南雲研究室では。


「いやー、ごめんね山根くん! ついついシミリートさんと話し込んじゃった!」


 南雲がようやくミンスティラリアから帰って来ていた。

 正確には、ミンスティラリアからサーベイランスを引き上げさせていた。


「ホントっすよ。自分、南雲さんがおしゃべりに夢中の間、割と仕事してたんすからね。有栖ダンジョンの上層から下層にかけて偵察したり」


「だって、シミリートさんが魔王軍の新兵器の話とかするんだよ! これはもう、聞かないと嘘じゃないか! 仕組みを内緒で教えてくれたんだ! ふふふ、これは制作意欲がたぎって来るな……! 新しい装備が作れるぞ!!」


 いつになく上機嫌の南雲。

 サーベイランスのみでの異世界渡航が可能と分かったので、今後は六駆に頼んで『ゲート』を出してもらえばいつでもあちらに行ける。


 彼にとって、自分と同じレベルで研究について語れる人間は貴重。

 現世ではほとんどいないのだ。


 山根は相手をしてくれないし。


「それで、どうなってる? まあ、君が補佐してくれていたのならチーム莉子も大丈夫だろうけど。一応、モニターに出してくれるか」

「はいはい。今、彼らは第17層にいますよ。映像出ます」


 そこに映された逆神六駆の姿を見て、南雲は言葉を失った。

 失ってばかりではどうしようもないので、今度は言葉を絞り出した。



「私が話をしていた間に、逆神くんはどうしたの? 変な趣味に目覚めたの? うちで作った装備って、あんなアマゾンの部族みたいなヤツだったっけ?」

「そんな訳ないじゃないですか。作った自分だってショックですよ」



 山根は南雲に「新種のモンスターの攻撃を受けたらああなりました」と説明した。

 あまりにも説明が簡素だったので「どんな攻撃を受けたら半裸の体に葉っぱを身に付けるの!?」と南雲はその優秀な頭脳を激しく混乱させる。


「と、とりあえず、どうにかしなくては。あんな恰好でスカレグラーナに行かれたら、頭がおかしくなったと思われる。彼、私の名代なんだよ?」

「南雲さん。そんな事よりも、もっと重大な事態が発生してます」


 南雲は「あの恰好よりも重大なことってある!?」と思わず聞き返したが、それは紛れもなく重大と言うか、緊急事態であった。



「逆神くんが有栖ダンジョンの内壁をぶっ壊した影響で、ダンジョンが崩壊しそうです」

「嘘だろ!? 人の力でダンジョンって崩壊するのか!?」



 山根が「人の力じゃないです。逆神くんの力です」と訂正する。

 南雲も「ああ、そうか。人じゃなくて逆神くんか」と納得した。


「さっきからサーベイランス使って応急処置してるんで。南雲さんも仕事してください」

「君は本当に優秀な男だな。よし、私もすぐに加わろう」


 サーベイランスは改良により、アームが付いている。

 さらに、遠隔地の南雲監察官室から煌気オーラを供給する事により、いくつかの登録してあるスキルを使用する事も可能になっていた。


 その開発には六駆も協力していたのだが、まさか新機能を使う原因も彼になろうとは。


 有栖ダンジョン第9層では、3基のサーベイランスが集まって、六駆提供の構築スキル『大工仕事カーペンタブル』を発現中だった。

 逆神流を「邪道だから」と突っぱねないで「有効活用しよう!」と判断した南雲の柔軟な対応が功を奏した結果になるが、そもそも内壁を破壊したのも逆神流なので、六駆がいなければこんな事にもならなかった。


「よし。山根くん、煌気オーラ供給を代わろう。君は休みたまえ」

「うーっす。いやもう、疲れましたよ。南雲さん、全然気付いてくれないし」


 サーベイランスの煌気オーラ供給システムは、アタック・オン・リコのスキル砲システムが採用されている。

 レバーに煌気オーラを込める事で、遠隔地での簡単なスキル展開を可能にしていた。


「悪かったと言ってるじゃないか。特別ボーナス出すから。あと、焼肉食べに行こう」

「マジっすか! チーム莉子のみんなも喜びますよ!」


「ああ、彼らも呼ぶのね。いやいや、結構。高いところに連れてってやるとも!」

「しっかし、すごいっすねー。逆神流のスキルって。構築スキルなんて、Sランク探索員じゃないと使えないのに。それが遠隔地から自分の煌気オーラごときで可能にするんですから」


 その点に関しては、南雲も大いに賛同する。


 逆神流のスキル使いである六駆が「探索員協会のスキル運用は効率が悪い」と批判していたのも、もっともであると南雲も痛感させられていた。

 これほどまでに無駄を省いたスキルの展開システムを、ただの一族が作り上げていると言う事実。


 やはり逆神家とは友好な関係を保ちたいと彼は願っている。

 それから2時間かけて、ダンジョンの内壁修理が完了した。


「やれやれ。どうにかなったな。しかし、チーム莉子が引き上げて来たら、一度現地に行って、きちんとした修繕をしなければ」

「それも逆神くん頼りっすね。彼なら多分、1時間もあれば余裕っすよ」


 南雲は「そうだな。15万くらいで手を打ってもらおう」と締めくくり、次の作業に移った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「むっ! 『破断掌デストロイ』!!」


 六駆のスキルが、サーベイランスを捉えた。

 もう南雲は無為なツッコミをしない。


 むしろ、サーベイランスの耐久実験だと前向きに考えるようになっていた。


『逆神くん。私だ、南雲。……君ぃ、何と言うか、ずいぶんとアバンギャルドな恰好になったね。事情は山根くんから聞いてるけども』


 莉子が涙目で南雲に訴えた。


「南雲さぁぁぁん! わたし、頑張ったけど、全然ダメで!! なんだか、やればやるほど悪化していって!! こんな事になっちゃいましたぁぁ!」

『うん。落ち着いて、小坂くん。大丈夫。君たちのアイテムボックスの中にね、配給装備があるから。野営セットと同じ要領で圧縮収納してある』


 莉子は無言で芽衣を見る。

 芽衣も無言で既に仕事をしていた。


「みみみっ! 莉子さん、あったです!!」

「よかったぁー! 六駆くん、装備のスペアがあったよぉ! ほら、こっちに着替えて!!」



「えっ!? せっかく莉子が僕のために作ってくれたのに! このままで良いよ!」

「ううっ! とっても嬉しい! 嬉しいけどぉ! き、着替えて!!」



 莉子さん、アバンギャルドな六駆すらも肯定しつつあったものの、どうにか理性で踏みとどまり、パーティーメンバーをまともな姿にする事を叶える。


「南雲さん、南雲さん」

『うん。どうした、椎名くん』


「サーベイランスって、スマホの動画データを受信できますかにゃ?」

『ああ、可能だよ。何か私に見せたいものでもあるのかな?』


 クララは「チーム莉子、有栖ダンジョン最大の戦いの記録ですぞなー!」と言って、南雲に先ほど撮影した動画データを送信した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「転送完了っす。映像に出します」

「うん。……うん。これは?」



「小坂さんと木原さんが、すごく悲しそうな顔でヌタプラントの葉っぱを縫い合わせてますね」

「……肝心な時におしゃべりに夢中だった私の責任だな。山根くんは逆神くんの装備を作っといて。今度から、5セットくらい予備を渡しておこう」



 南雲修一は「やはり私が彼らの後見人として頑張らなければ」と、決意を新たにしたと言う。

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