第161話 ダンジョンと言えば服を溶かすモンスター 有栖ダンジョン第13層

 モンスターの群れとの戦いが続いている。


「莉子ちゃん! そっちのレッドパオーム! 合体スキルで行くにゃー!!」

「はい! やりましょう!!」


 御滝ダンジョンで出て来た、イドクロア持ちのレッドパオーム。

 鋭い牙と鋭利な鼻を持つ象型のモンスターである。


 かつての莉子とクララでは太刀打ちできなかった相手だが、成長した彼女たちならば。


「強弓換装! 『サジタリウス』!! からのー! 『グレートヘビーアロー』!!」

「……ふぅ。いっくぞー!! てぇぇぇい! 『斧の一撃アックスラッシュ』!!」


 相変わらず、2人の息はピッタリ。

 『Xの衝撃クロスインパクト』がレッドパオームの胴体を引き裂いた。


「おっとぉ! 牙はイドクロア!! 『太刀風たちかぜ』!! そして『瞬動しゅんどう』!! 最後に収納!!」


 どこから湧いて出たのか、六駆おじさん、レッドパオームが塵になる前にイドクロアを収拾するべく現れた。

 彼も採取の手際の良さに磨きがかかっており、お金に対する執着心が垣間見える。

 学習能力がまだ生きているなら、学業も頑張りなさいよと思わずにはいられない。


「みみみっ! 『分体身アバタミオル』!! ボコボコラッシュです!! みみみみみみっ!!!」

「おっとぉ! 芽衣がボコってるヤツも確かイドクロア持ち!! 『瞬動しゅんどう』!!」


 そもそも、六駆は反対側から攻勢を仕掛けるのではなかったのか。

 大丈夫。問題ないので諸君、安心して欲しい。


 既に一周回って乙女たちの加勢に来ているのだ。

 銀色に輝くからと言って強くなったわけではないが、やはり流れ星のように気付けばスッと駆け抜ける。

 その後ろに作られたモンスターの残骸が山積みになっている光景は壮観である。


 こうして第12層のモンスターの群れは掃討完了。

 だが、気を緩めてはいけない。


 山根リポートによれば、第13層にも同じように群れがいるらしい。


「はい、怪我したり煌気オーラ量が減ってる人ー! いたら教えてねー!!」


「わたしは平気だよぉー! 可愛い装備に汚れもないし! バッチリー!!」

「前線に出てくれてる莉子ちゃんが無傷で後衛のあたしが怪我してたら問題だにゃー」

「芽衣は前衛を務めましたけど、分体でしか戦っていないので無傷です! みっ!」


 集団戦でも怪我なく済ませるとは、実にスマート。

 こうなると、むしろモンスターが1か所に集まってくれて倒すのが楽まである。


 まったく、頼もしいパーティーになったものだ。


「じゃあ、次の階層に行こー!! こーゆうのは勢いが大事だもん!!」

「そうだね! 莉子の言う通り、勢い任せは必ずしも悪手ではないよ! いつも言ってるように、スキルはメンタル勝負! 気分が高揚してるとスキルのクオリティもアップするからね!!」


 リーダーの指示に師匠がお墨付きを与えて、彼らは次の階層へと下りていく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 次の階層では、見慣れたモンスターの中に目を引く存在がいた。

 それはあまりにも異質で、異様。異形でもあった。


 そのモンスターは柔らかそうなゼリー状の体をしているのに、虎のような形態を維持しており、オマケに動きが速かった。

 どこかの異世界の虎もそう言えば素早い動きをする。

 特性被りが発生。これはいけない。


 とにかく、あれが山根の言っていた「新種のモンスター」である事をチーム莉子はすぐに理解する。


「あの、ゼリーのヤツ。ゼリー虎でいいか。あいつ以外は大したことなさそうだね。1、2の3、4……。全部で11体。先に周りから片付けようか!」


 六駆は秀でた戦闘力を持っているにも関わらず、初見の相手を前にすると慎重に対応を判断する。

 人によってはそんな彼のスタイルを臆病や怠惰と嫌うかもしれない。

 個人がどのような感想を持っても憚る事はないが、その慎重さが六駆を最強の名に相応しい男にしている事もまた事実。


「りょーかい! あたしがまず、数をできるだけ減らすねー! 『四方クアトロ低空飛行の燕ロンディーネ』!! 3連射!!」


 クララの銀弓『ディアーナ』から、合計12羽の燕が羽ばたく。

 煌気オーラコントロールに長けた彼女は実に効率よく、耐久性の低いモンスターから排除していく。


「この距離から攻撃した方が良さそうだね! あのゼリー虎さんもいるし! 芽衣ちゃんは分体で前衛をお願い! わたしは!! 『旋風破せんぷうは』!!」


 莉子の放ったつむじ風で4体のモンスターが体勢を崩す。

 そこに芽衣の分体が突撃していく。


「みみみみっ! 『分体身アバタミオル』!! アレンジスキル『連続煌気弾ショットガン』です!!」


 煌気弾を散弾銃のように放つ事で、効率よくトドメを刺すチーム莉子の特攻隊長。

 こうして、残すはゼリー虎のみになった。


「念のため、僕が行こう! 『滑走グライド』!!」


 六駆はまず、ゼリー虎の周囲をぐるりと一周。

 反応速度と弱点がないかを調べる。


 しかし、今回はその慎重さが裏目に出た。


 六駆は強い。

 だが、相手の攻撃を絶対に喰らわない訳ではない。


「プルッシャアァァァァァァ!!」

「うわっ! これは予想外! 回避は無理だ! 『空盾エアバックル』!!」


 セリー虎、まさかの自爆。


 体の中心にあるらしい核が爆ぜて、そのゼリー状の体液が広範囲にばら撒かれた。

 いかに六駆と言えど、近距離で大量のゼリーに降られると対処の仕様は限られる。


「げっ! このゼリー、風の盾じゃ防げないヤツだ! ああー。生温かいー」


 咄嗟の判断をミスする六駆。

 だが、攻撃すら見ていない新種のモンスターに完璧な対応をしろと言うのは、繰り返すがハッキリ言って誰にもできない。


 それは南雲や久坂監察官。

 最強の監察官である木原久光にとっても同様である。


 ところで、ダンジョンのモンスターの花形と言えば触手系であるが、忘れてはいけないのが服を溶かすゼリー系。

 なんとこのゼリー虎の体液、あらゆるものを溶かす性質を持っていた。


「わっ、わわぁ! ろ、六駆くん! 装備が溶けてる!! えっ、大丈夫なの!?」

「うわぁ。本当だ。ああ、体は大丈夫だよ。煌気オーラでバリア張ってるから。でも、マント以外は見事に溶けたねぇ」


 探索員の装備は、インナーの上に着るものが大半である。

 そのため、今回の損害は南雲の作った新装備、漆黒の堕天使が全てをこうむった。


 その結果、六駆の姿はどうなったのか。


 上半身はゼリーを多く浴びたのでインナーまで溶けて肌があらわに。

 下半身は不幸中の幸い。半ズボンくらいの丈が残っていた。



 全裸にマントと言う最悪の絵面だけは回避する事ができた。



 だが、半裸にマントもこれはこれで結構な変態臭が匂い立つ。

 後ろから見るとさらに割と最悪で、なんだか、ロングコートの下は全裸の露出狂みたいに見える。


「ははは! いやー、参った、参った! でも、良かったよ! 装備溶かされたのが僕で! 3人のうちの誰かだったら大惨事だもんね!!」


 六駆でも結構な大惨事なのだが、当人が平気そうなのでオッケーです。

 3人娘も「身を挺して自分を守ってくれた」と理解しているので、変態スタイルになった六駆を労った。


「ど、どうしよ? 一旦地上に戻る?」

「そっちの方が良いかもだねー。適当な装備ならすぐに借りられるんじゃないかにゃ?」


「ああ、平気、平気! むしろ、なんだか解放感があるし! このまま行こう!!」

「みっ。師匠、男らしさとおじさんっぽさが共存してるです……」


 こうして乙女たちが辱めを受ける事なく済んだのは、紛れもない六駆のおかげ。

 乙女たちのあられもない姿を期待した者には反省文の提出を求める。

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