第160話 ダンジョンに戻るとすぐに戦闘 有栖ダンジョン第12層
野営で7時間の休息を取ると言うのが当初のプランだった。
それなのに、ミンスティラリアでガッツリ1日半も休みまくったチーム莉子。
2日目の攻略が始まるのだが、時刻は既に夕方である。
引きニートみたいな乱れた生活習慣を身に付けるのは良くない。
若いから無茶できると言ってそんな事をしていると、年を取ってから後悔する事になる。
「……あ。なんか、アレですね。寝すぎたせいか、もう眠くなってきたなぁ」
ほら、脳内だけ年を取ったおっさんが既に文句を垂れている。
まさか現世に帰って来ての第一声がそれだとは。
『おーい! 逆神くん! 小坂さんたちも! どうもー、山根っすよ!』
野営セットの片付けを若い乙女たちに任せて力なく座り込んでいる六駆の前に、サーベイランスが飛んできた。
「ああ、山根さん。お疲れ様です。相談なんですけど、このままここでもう一晩過ごしちゃダメですか?」
『個人的には全然オッケーなんだけどね。南雲さんが後からうるさいから、自分の独断では許可できないかなー。その南雲さん、未だにシミリートさんと話し込んでて使い物にならないんだよ。で、仕方なく自分が出張ってきたっす』
未だミンスティラリアで研究者トークに花を咲かせているらしい南雲。
「仕事しろ」と一喝したいところだが、普段から苦労をしている姿を見ていると「たまには好きな事やらせてあげよう」と言う気持ちになるのが人情。
「あっ、山根さん! もしかして、急いだほうが良いですか?」
『小坂さん、お疲れっす! いえいえ、そのペースなら十分な進捗っすよ。自分が来たのは、お知らせをするためなんすよね』
山根はなんと、12層と13層の様子を偵察して来たと言う。
普段は適当に手を抜いているが、上司のために骨を折るとは。
なかなか見所のある青年ではないか。
「莉子ちゃーん! 片付け終わったぞなー! ややっ! 山根さん、おつでーす!!」
『どうもっす! 椎名さん、そう言えばお誕生日おめでとう!』
チーム莉子に衝撃走る。
この瞬間、莉子と芽衣は「やってしまった!!」と頭を抱えたくなったらしい。
まさか、パーティーメンバーのお誕生日をスルーしていたとは。
では、なにゆえ山根は知っているのか。
「ほぇー! ありがとうございますにゃー! 山根さん、どーして知ってるんですかー?」
『椎名さん、Twitterで呟いてたじゃないっすか! たまたま昨日見てたんすよねー、自分!』
山根健斗Aランク探索員、実に有能な一面を見せ始める。
莉子は慌ててスマホを取り出した。
慌て過ぎである。ダンジョンの中に電波が届くものか。
誕生日が既に過ぎていた上に、「おめでとう」のスルーをしていた場合の対応は難しい。
すぐに「おめでとうございます! 知ってましたけどね!!」とフォローすれば良いと言うものでもない。
それをやると、途端にやっつけ仕事感があふれ出して震える。
「うわぁ! 知らなかった! クララ先輩、おめでとうございます! 全然知らなかった! そうなんだ! 教えてくれたら良いのに! いくつになったんですか? 二十歳!? それはまた区切りの年齢じゃないですかー!! こいつはめでたい!! えー! 知らなかった!!」
ただし、おっさんにはこの対応が例外的に許される。
基本的に気が利かないと思われているおっさんは、気付いた時に「おめでとう」を言うだけで何故か好感度が上がるのだ。
おっさんの108ある神秘の1つにも数えられる、不思議体験である。
「も、もぉぉ! 六駆くんってば、知らなかったのぉ!? ヤダなぁ!! もぉぉ!!」
「み、みみっ! 師匠、ひどいです! 芽衣はもちろん知ってたです!!」
今回はちょっと姑息な莉子と芽衣。
六駆に乗っかって、知ってた体で通す腹積もりのようだった。
その後、「わざわざ口に出すまでもないか思ってたんですよぉ! だってほら、わたしたち、魂で繋がってるから!!」と、莉子が謎のセリフで誤魔化しにかかる。
「やー! そうだったのー!? あたし、てっきり知らないのかと思ってたよー! だよねー! だって、Twitterとインスタで呟いてたもんねー! そっか、そっかー! 確かに、あたしたちくらいの仲になると、誕生日くらいで騒がないよねー!!」
椎名クララ、ぼっち生活が長すぎて誕生日の概念が一般人と違う模様。
これ以上この話題を引っ張ると、莉子の良心が痛んでその控えめな胸も痛めて、下手をするとへこむかもしれないので、この辺りで切り上げよう。
なお、へこむと言うのは、精神的な面と胸部的な面の両方をカバーする高度なダブルミーニングである旨を付言しておく。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『ああ、そうそう。本題ね。下の階層にね、新種のモンスターを含む群れがいるんだよ。しかも、ご丁寧に12層、13層と続いて。原因は調査中だけど、準備は万全にして行ってくださいっす!』
山根は端的に情報を提供する。
原因は不明だが、どうやら下層のモンスターが上層に大挙して押し寄せているらしいと彼は告げた。
これもスカレグラーナの件と関係しているのかもしれないから、用心して欲しいと言って、通信は終了した。
「仕方ないから、行ってみようか。だるいけど」
「もぉぉ、六駆くんってば! 元気出して行こー!! 新種のモンスターは討伐報酬もあるよ!!」
「さあ、みんな! 僕に着いておいでよ! ほらぁ、置いて行っちゃうぞ!!」
「さすが莉子ちゃん。もはや匠の技ですにゃー」
意気揚々と下の階層へ向かう六駆。
それに続いて莉子たちも戦闘準備を整えて彼の背を追う。
「おおー! これはまた! 本当にいっぱい集まってる! 土曜日午前中の耳鼻科くらい混んでるよ!!」
六駆はその分かりにくい喩えをヤメろ。
だが、実際のところ第12層はモンスターでごった返していた。
本当に有栖ダンジョンの下層から大移動して来たように見えた。
「ふぇぇ。なんでこの階層、いきなり開けた場所になってるのぉ!?」
「これは総力戦の予感だねー。ミンスティラリアで回復しといて良かったにゃー」
「みみっ! やってやるです!! 芽衣のスキルはさらに進化するです!!」
なにはともあれ、モンスターと遭遇したら討伐するのが探索員のお仕事。
チーム莉子、戦闘開始。
「これはさすがに僕も参加しないと、3人の負担が大きいね。じゃあ、3人は右回りに。僕は逆方向から片付けていくよ! 『
六駆も怠い体に鞭打って、給料分は働く様子である。
体を目覚めさせるためなのか、肉弾戦で次々と襲い掛かってくる前にモンスターを粉砕していく。
「あっ! みんな、見て! 六駆くんの装備!!」
「おおー! あれが噂のスキル使ったら色が変わるってヤツ!!」
「今までは光ってなかったので、きっと一定時間
逆神六駆の専用装備、漆黒の堕天使が銀色に発光していた。
光りながら高速移動してモンスターを肉片に変えていく様はまるで彗星のようである。
3人娘も「綺麗だねぇー」と、しばし見惚れる。
これでようやく六駆の装備にも彩が加えられる事となり、華やかさが格段にアップ。
返り血を浴びて笑いながら戦う様も、銀色の光越しに見れば少しは猟奇性が失われるかと思われた。
そんな六駆の新装備に悲しい未来が待ち受けている事を、まだ誰も知らない。
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