第159話 良い感じの休息と気分転換からの攻略再開 

 ミンスティラリア魔王城。

 謁見の間では、ちょうど六駆たちにとっては朝食、魔王軍にとっては夕食を取り始めたばかりだった。


 そこにフワフワと飛んできた、見慣れないメカ。

 ダズモンガーがすぐに気付く。


「おのれぇ! 奇怪な物体!! 『爪の一撃デモンズクロー』!!」

「どうしたの、ダズモンガーくん! よし、僕に任せとけ! なんだか分からないけど加勢するよ! 『破断掌デストロイ』!!」


 サーベイランス、凄まじく派手な歓迎をされる。


 ダズモンガーと六駆の師弟合体攻撃は、完璧にサーベイランスを捉えていた。

 が、それでも無傷を誇る、南雲修一渾身の力作。


『おおおい! 逆神くん!! 私だよ、南雲だ!! と言うか君ぃ! 昨日も同じことしたよね!? ヤメてくれ! 壊れたらどうするんだ!!』


 魔王軍からすれば、見慣れない機械から見慣れない白衣のおっさんの映像が立体投影されたので、当然のようにざわつく。

 だが、ルベルバック遠征をした者たちは、南雲の事を覚えていた。


「ぬぉっ!? これは、南雲殿ではござらんか! よもや、貴殿の機械とは知らず、とんだ失礼を! お許し下され!!」


 ダズモンガーは悪い事をしたらすぐにごめんなさいが出来る、良いトラである。

 ちなみに六駆は先ほどの『破断掌デストロイ』について、まだ謝罪していない。

 早く謝らんかい、おっさん。


「南雲さん、すごいですね! サーベイランスって『ゲート』を通過できるんだ!」


『そうだね。私も驚いているよ。ああ、これは皆さん、お食事中に失礼を。私はそこにいる逆神くんたちの一応、形式上の上司です。南雲修一と申します。何を言っているのか分からないかと思いますが、有栖ダンジョンで彼らの消息が不明になっていたため、捜索に来た次第です』


 魔王軍には本当に何の事やらさっぱりだったが、「英雄の上司」と言うパワーワードが、南雲の存在を賓客へと昇華させた。


「ご、ごめんなさい、南雲さん! つい六駆くんに押し切られちゃって……!」

『ああ、良いんだよ、小坂くん。私もだいたい知ってるんだ、そのパターン』


「大丈夫ですよ。もう少しゆっくりしたらダンジョンに戻りますから」

『ああ……。すぐに戻らないんだな。いや、良いんだけどね。初日でかなり進んでいるから、その分の余裕はあるし。君は本当に自由だなぁ』


 扉が乱暴に開けられて、誰かがやって来たようだった。

 それは謁見の間に駆けてきた、魔王軍の白衣の似合う男。


「英雄殿とお連れの皆様、魔王様、あとダズとかその辺の者ども。食事中に失礼。なにやら面白いものが来ているようだったので、急ぎ馳せ参じた」


 シミリート見参。

 恐らく、魔王軍の中で最も南雲と話が合う人物である。


『ああ、これはシミリートさん。お久しぶりです。お元気でしたか』

「南雲殿も壮健のようでなにより。それよりも、そのメカは確かサーベイランスと言ったか。まさか単機で異世界へと来られるとは。実に興味深い」


 何やらごちゃごちゃして来た食事の場。

 そこで物申すのは、我らが逆神六駆。



「あの、ちょっとうるさいんで、どこか別の部屋でやってもらえます? 僕は今、食事に集中したいので!」



 元はと言えば六駆が勝手にミンスティラリアへやって来たのが原因で、南雲はそれを探しに来ただけなのに、何という自分勝手な発言だろうか。

 だが、時として自信満々に吐かれた暴論が「確かにそうかもしれん!」と場を支配する事がある。


 おっさんの持つレアスキルの1つである。


「南雲殿。よろしければ、私のラボで少し話などいかがか。英雄殿が満足されるまで、有意義な話ができると思うのだがね」

『そ、そうですな。私もシミリートさんとのお話は勉強になりますし。じゃあ、逆神くん? ご飯食べたら戻るからね?』


 六駆は親指を立てて、グアル草のスープに舌鼓を打つ。

 君は本当にそれが好きだなぁ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 お腹が満たされた六駆。

 だが、さすがに寝床を借りて食事までご馳走になって、「はい、さようなら。また来るよ!」と去って行くほど礼儀知らずではなかった。


 彼は「ちょっとお礼に兵士のみんなを鍛えて帰りますよ!」と言い出した。


 テレパシーに長けた者はその発言を聞いて、すぐに修練場から主にベテランの兵士たちがメインで脱兎のごとく逃げ出したと言う。

 逆神六駆の修行はスパルタ式。


 それは異世界のミンスティラリアでも有名であった。

 そんなスパルタ悪魔が莉子と芽衣を連れて、修練場へ。


 逃げ遅れた新兵たちがそこにはざっと500人ほど立ち尽くしていた。

 こうなるともはや手遅れ。腹を括るしかない。


「はい、みんな注目! 今日は、莉子先生が『太刀風たちかぜ』の強化を教えます! そして、こっちの芽衣先生からは『幻想身ファントミオル』と言う回避スキルを学んでください!! みんなは兵士! いついかなる時も戦いの準備を怠る事はないように! 僕が呼んだらすぐに戦えるようにしておかないとね!!」


 どうやら、六駆の中ではまた人手が必要になった際、真っ先に招集する当てはこのミンスティラリア魔王軍で変わりないようだった。


 それから、莉子と芽衣が先生扱いに照れながらスキルを指導した。

 彼女たちの教え方は師匠の六駆を1とすると10000倍くらい丁寧で優しく、莉子と芽衣の2人を新兵の間で「女神」と呼ぶことが決まったらしい。


 では六駆くんは何をしていたのかと言えば。


「はい! ダズモンガーくん! もう1回『猛虎奮迅ダズクラッシュ』を使って! 僕に一撃入れるまでは帰さないからね! そんな弱弱しいスキル、僕は教えた覚えがないよ!!」


「ろ、六駆殿ぉ! 無茶を申されますな! 貴殿に一太刀浴びせられる者など、この世に存在しているかどうかも怪しいですぞ!!」


 誰がダズモンガーくんに金で作られた鎧とか胸当てとかを届けてあげて欲しい。

 恐らく、あっと言う間に勝負は決する。


 最高の笑顔で攻撃を喰らう六駆の姿が目に浮かぶ。


 その後も魔王軍の最高戦力である親衛隊長をしごき回した六駆おじさん。

 適当なところで満足して、謁見の間に戻って来る。


 クララについてはもう言うまでもない。


「はーい! ファニちゃん、それロンー! ふっふー! 甘いぞなー!! これであたしが逆転トップだねー!!」

「むむー!! ずるいのじゃ! わらわに中を鳴かせたのは罠だったのじゃー!! クララ、クララ! もう1回! もう1回なのじゃ!!」


 彼女はミンスティラリアで既にアイドル的存在。

 文人武将の異名で執筆活動に精を出すトンバウルによって、魔王ファニコラと対等に遊戯をこなす乙女としてミンスティラリア全土にその名を轟かせている。


 異世界に来る度にそのコミュ力は上がっていくようである。

 サイヤ人だろうか。


 その後、謁見の間で探索装備に着替え終わったチーム莉子が集合。

 莉子が丁寧にお礼を述べて、クララは「また来るにゃー!」と手を振って、芽衣はペコペコと頭を下げて、『ゲート』をくぐっていく。


 最後に六駆が「今度は現世に遊びにおいでよ!」と無責任にファニコラを誘い、『ゲート』の奥へと消えていった。

 ようやくダンジョン攻略再開である。


 ところで、南雲はどうした。


「いや、実に興味深い。もう少し原理についてお聞きしたいのだが、良いかね」

『もちろんですとも! 私もシミリートさんの意見を聞いて、改良するアイデアが湧いてきました!! ははは! 異世界の研究は楽しいなぁ!』


 研究者トークがずいぶんと盛り上がっていた。


 南雲監察官。チーム莉子、もう現世に戻りましたよ。

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