第150話 椎名クララの万能さにも誰か興味持ってあげて 有栖ダンジョン第6層

「そぉぉぉれ! 『七色の孔雀羽アルコバレーノ・パヴォーネ』!!」



 冒頭でクララが決め技の名前を叫んでいるパターンは、9割がた戦闘がカットされているヤツである。



「わぁ! ホントすごいですね、クララ先輩! その新しい弓!! カッコいいです!!」

「みっ! ミニスカートの装備と相まって、ギリシャ神話の戦姫みたいです!! みみっ!!」



 その大絶賛の新しい弓についても、我々はほんの少ししか見ていない。



 有栖ダンジョン第6層。

 相変わらず、出て来るモンスターは強力であり、息つく暇もなくチーム莉子は戦いの中に身を置いていた。


 そんな中、躍動するのが新装備に新スキルと色々チューンアップされたクララ。


 銀弓『ディアーナ』はクララ専用に作られた装備のため、彼女の煌気オーラの量と質を参照して設計されている。

 しかも、製作者は監察官の中でも優れた研究者である南雲修一。


 諸君にとって南雲修一と言えばコーヒーを噴く苦労人のイメージしかないかと思われるが、彼の作る装備は探索員業界の中でも非常に高い評価をされており、彼に武器を作ってほしいと言う依頼は日に10件、多い時にはそれ以上が届く。


 最強の監察官の異名を誇る、木原監察官。

 木原監察官は武器を選ばないが、そんな彼のとっておきの装備も南雲が開発したものである。

 最強の監察官が使っても耐えうる矛を作り上げる南雲の手腕の高さが伝わるだろうか。


「みみみっ! また新しいのが来たです!!」

「えっと、んー。あっ! モンスターの中にイドクロア持ちがいるよ! 牛っぽい子! ブルババスクって言って、角がイドクロア! なんだけどぉ、絶命すると角の光が失われて、価値がなくなっちゃうの!!」


 目の前のイドクロアは全て拾って歩くのが信条の逆神六駆Dランク探索員。

 もちろん、ブルババスクだって見逃さない。


「莉子はその他大勢を全部よろしく! 芽衣は莉子の指示に従って、防御力の高いヤツを単体で撃破するように! クララ先輩、僕たちはお金を! 間違えた、イドクロアを最優先でいきましょう!!」


「あいあーい! 了解にゃー!!」


 なにゆえイドクロア獲得の相棒を莉子ではなくクララにしたのか。

 それは、クララの新スキルが逆神流にはない繊細な力加減を可能にしている点が大きい。


「まずは足止め! 『グラビティレイ』!!」

「素晴らしい! 僕には出来ない、絶妙な威力の弱さ! お見事です!!」


「あっははー。それは褒められているのかにゃー? なんかふくざつー」


 クララはもっと胸を張って良い。

 その本体よりも存在感のある胸を張って、莉子に見せつけてやると良い。


 銀弓『ディアーナ』には、6個の新スキルが入った源石が埋め込まれている。

 そこに加えて、中級スキルの源石も6個ほど組み込まれている。

 アームガード式スキル発現の効率が悪い事は南雲も熟知しており、彼の作る装備は武器から直に煌気オーラを放出できる構造の物が大半を占める。


 この銀弓『ディアーナ』をゲットした事により、元から多くの属性を使い分ける器用さを持っていたクララが、主要な属性のスキル全てを扱えるようになっていた。

 一撃の破壊力ならば莉子。

 一撃離脱の戦法なら芽衣。


 その2人を上手くサポートできる態勢が整ったクララ。


 チーム莉子の完成形が極めて近く、手の届く所までやって来ている事実を六駆は知っていた。


「僕が角を叩き斬りますから、クララ先輩はそののちトドメを! 『光剣ブレイバー』!! ふんっ!」

「了解だにゃー! 重力を利用して、アレンジスキル! 『サイクロンアロー』!!」


 ブルババスクの体が捻じ切れる。

 六駆おじさんは大好きなイドクロアをモンスターの群れの中で嬉々として収穫中。


 一見隙だらけだが、この状態の六駆からは半端ではない威圧感が出ており、「僕とお金の仲を邪魔すると殺すよ?」と言う無言のプレッシャーはモンスターの生存本能にも響くのか、彼に触れようという勇者はモンスターの中に存在しない。


 こうして、この階層も特に問題なく突破できそうな気配が漂い始める。

 ならば、小休止といこうじゃないか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「はい、六駆くん! アクエリアス!! それと、おにぎり! おかかだよ!」

「さすが莉子! やっぱりおにぎり最初に食べるならおかかからだよね! 梅でも良いけど、昨日梅のおかゆを食べた事に配慮してくれる心配り! さすがだなぁ!」


「えへへへへへへ。もぉ、そんなんじゃないんだからねぇー。もぉぉー」



 こんなのツンデレじゃない。デレッデレだ。



「クララ先輩、煌気オーラの残量は大丈夫です?」

「うん! 心配してくれてありがとー、芽衣ちゃん! 南雲さんが言ってたけど、新スキルはやっぱり煌気オーラの量がたくさん必要になるねー。けど、中級スキルもたくさん入れてもらったから、そっちと併用しながらだとね、まだ結構余裕な感じー!」


 ここで生きるのが、クララのぼっち……ソロ探索員時代から身に付けて来た経験値。

 全てを独りでこなさなければならなかったため、自然と煌気オーラの運用効率を上げる術を身に付けていた。


 煌気オーラお化けの莉子さんには最も縁遠い技術である。

 ちなみにその莉子さんは、本日既に『苺光閃いちごこうせん』を3発撃っている。


「みみみっ! 芽衣もクララ先輩を見習わなくてはです! もう2回も師匠に回復してもらってるです! みっ!」

「おおー……。なんかあたし、かつてないほど先輩っぽくなってる!?」


「あはは! クララ先輩はいつも先輩ですよぉ! はい、烏龍茶です!」

「ありがとー! やっぱり運動したあとは烏龍茶! 次点で麦茶も可!!」


 楽しそうに休憩するチーム莉子。

 そんな彼らに災難と言うか、人災と言うか、とにかく良くないアレが待ち構えている事を、六駆ですら察知できないでいた。


 第7層へと続く道を発見して、「いざゆかん!」と莉子を先頭に進んで行こうとした瞬間であった。


 その通路はやや細めのトンネルのようになっており、1人ずつしか通れない。

 そうなると、リーダーと前衛が先に行くのがパーティーの隊列としてはベター。


 後方で待機していた六駆とクララに悲劇が襲い掛かる。


「……おりょ? なんか、今、足元がたわんだ気がする!? うひゃあぁぁぁっ!?」

「おわっ!? あ、これはダメだね。僕だけ助かったら、クララ先輩が大けがする」


 突然足元が崩れ、クララと六駆が巻き込まれる。

 六駆だけならば難なく回避できる状況だったが、そこは百戦錬磨のおじさん。まずはクララの身の安全に最優先事項の印をつける。


「六駆くん!? クララ先輩!?」

「みみみみみみっ!!」


 見た目はダンジョンにある天然のトラップに引っ掛かった風な2人。

 だが、違う。


 思い出していただきたい。

 上層で、重力スキルの大技をゴールデンメタルゲルに繰り出したおっさんと、先ほど牛に向かってこれまた重力スキルを使ったお姉さんがいた事を。


 重力スキルを多用したせいで、ダンジョンの地盤が緩くなっていたのだ。

 つまり、自業自得である。


 他の探索員がとばっちりを受けなくて良かったまである。


 まだダンジョン攻略も前半なのに、パーティー分断の危機。

 どうする、チーム莉子。

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