第149話 監察官・南雲修一のやっぱり落ち着くね、このポジション

 こちら、探索員協会本部。南雲観察室。


「山根くん、煌気オーラの遠隔供給システムの不具合はどうなった?」

「こっちはどうにかなりそうです。有栖ダンジョンの壁とサーベイランスの相性が悪いんですよね。はいはい、これでどうかなっと!」


 今回は監察官室でチーム莉子のサポートをする事になっている南雲と山根。

 ならば、チーム莉子が既に有栖ダンジョンの第5層に到達しているにも関わらず、なにゆえ何のリアクションもなしに話が進んで行ったのか。


 南雲監察官の作り上げた自慢の逸品、情報集積メカ・サーベイランス。

 これまでは映像のみで音声を拾えなかったダンジョン用のサーベイランスを改良して、通信を可能にしたのが新サーベイランス。


 ルベルバックの情報集積メカ・ランドゥルを参考にさせてもらったらしい。


 異世界に抜けてしまえば大気中の煌気オーラを勝手に取り入れて、通信も音声、映像と多くの方法が可能になるものの、ダンジョン内で得られる煌気オーラではその運用方法を選択するとたちまちエネルギー切れを起こすのが悩みの種だった。


 そこで今回、チーム莉子の遠征に合わせて、新型サーベイランスの運用実験をしようという話になったのだが、不具合が発生して今の今まで格闘していた南雲と山根。

 「新しい技術には不備が付き物」とは、月刊探索員のインタビューを受けた際、南雲の残した言葉である。


「やれやれ。ルベルバックと現世の煌気オーラの違いでここまで誤差が出るとは。私としたことが、見積もりが甘かったな」

「まあまあ、南雲さん。とりあえずどうにかなったんだから、良しとしましょうよ」


「なんだか今日はやけに優しいな、君。なに? どうしたの?」

「いえね、南雲さんと一緒に監察官室にいるって事は、きっと上司が酷い目に遭うんだろうなって! そう思うと、優しさのひとつくらいは自分だって出しますよ」


「嫌な見積もりだな。……うむ。リンク状態、オールグリーン。これであちらと通信もできるな。さて、その前にコーヒーでも淹れよう」

「自分もコーヒーゼリー出しますよ。聞いてもらえます? ついに生クリームも生成できるようになったんです! 自分のコーヒーメーカー8号機!」


「君ねぇ。いや、研究としてはすごいよ? 煌気オーラで食べ物を作り出すってコンセプトも悪くない。でも、そのうち怒られると思うんだ。国の寄付金使って、何作ってんのって」

「だって、南雲さんのコーヒー毎回残すのもったいないじゃないですか!」



「君が飲めば良いじゃないか! どうして毎回半分以上残すの!?」

「えっ、聞いちゃいます? だって、そんなに美味しくないんですもん!!」



 カップにコーヒーを注いだタイミングで悲しい事を言う山根。

 それでも律義にカップを手渡す南雲。


「どうもでーす。はい、そろそろ逆神くんたちの様子を見ましょう。もう結構進んじゃってるかもしれませんね。では、出力開始! 映像出ますよ!」


 この後、南雲監察官がコーヒーを噴きます。

 お食事中の方におかれましては大変申し訳ありません。


「ぶふぅぅぅぅぅぅっ!!!」


「木原さんが近接戦してますよ! すごい! 苦手を克服したんですね!!」

「やーまーねぇー!! 分かってて言うんじゃないよ! なんか木原くんからスタンドみたいなの出てるじゃん!! あれ、なに!? スキル判定して!!」


 山根は「どうせ出ませんよ」と言いながらも、指示に従う。

 カタカタターンとやると、意外な事に逆神流用にチューンアップした南雲監察官室のスキル情報にヒットした。


「どうやら、分身体を具現化してるみたいですね」

「だろうね。『幻想身ファントミオル』の亜種っぽいな。登録しといて」



「あ! 見て下さい! 木原さんの分身体が煌気オーラだん撃ち出しましたよ!!」

「見てるよ!! どうして逆神くんは木原くんにそういうアクロバティックなスキルばっかり教えるの!? 私、最近木原監察官がいたら避けるようになってるんだぞ!?」



 芽衣のレベルアップを目の当たりにして、とりあえず新しいコーヒーを求める南雲。

 木原監察官の手前、芽衣のCランクを容認した南雲だったが。

 映像を見る限り、これはもう木原芽衣が普通にCランク探索員と名乗っても憚る必要はないかと思われた。


「サーベイランスの機能、全てがフル稼働状態に移行しました。通信もできますよ」

「……できればもっと早く通信をしたかったよ。まあ、なんだ。繋いでくれる?」


 南雲監察官、少し遅ればせながらもチーム莉子のサポート体制を整える。

 それでは、現場の莉子さん。お願いします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 有栖ダンジョンを着々と攻略中のチーム莉子一行。

 六駆おじさんが突然動いた。


「むっ!? 『破断掌デストロイ』!!」


 煌気オーラ感知が苦手なくせに、視力が良いので目視でサーベイランスを発見する六駆。

 そのままとりあえず迎撃する。


『おおい! 何してるんだ、逆神くん! 私だよ! 南雲だ!! 君ぃ! 色々と調整して大変だったサーベイランスを見るなり攻撃して来ないでくれる!?』


「わぁ! 南雲さん! お疲れ様です!!」

『うん。お疲れ様。小坂くんはもう少し逆神くんの手綱を強く握ろうね?』


 とりあえず、六駆の攻撃スキルを喰らっても機能を維持し、本体の欠損もない新型サーベイランスの耐久値は称賛に値する。

 さすがは監察官の中でも特に優れた研究者。

 改良がちゃんと生きている辺りはさすがである。


「みみっ! 南雲さん! 芽衣はついに攻撃スキルをゲットしたです!!」

『……うん。見てたよ。また、とんでもなく規格外な存在になったね、木原くん』



「はいです! このスキルでおじ様に一撃喰らわせて、引退してやるです!!」

『木原くん!! ヤメよう、そんな事は!! おじさん黙らせるなら実績を示そう!!』



 南雲と木原監察官の監察官室は同じフロアにあり、トイレに行く際などに鉢合わせることもままある。

 だが、最近はあの大きな背中を見かけると南雲は尿意を我慢しながら別のフロアのトイレへと走っている。


 次の研究費で監察官室にトイレを作ろうと真剣に考え始めた南雲である。


「見てください、南雲さん! これ、僕が仕留めたんですよ!!」

『おお、ゴールデンメタルゲルじゃないか。珍しいヤツを手に入れたね。君の事だから、また無茶苦茶やったんだろうね』



「大したことはしてませんよ! 『麒麟の黒雨チーリン・ブラックレイ』ってスキルがあるんですけどね!」

『君ぃ! それ、阿久津を倒した時に使ったヤツぅ!! あんなクライマックス向きのスキルを使ったの!? ダンジョンの第5層で!? 嘘でしょ!?』



 南雲は前向きに考える。

 「彼らが第5層に到達するまでにサーベイランスが間に合わなかった」と悔いるのではなく、「この子たちが第5層にいる時点でまだ良かった」と頷いた。


 常時通信状態を保っているとエネルギー切れが起きるため、必要に応じてこれから先は連絡を取り合おうと南雲はチーム莉子に伝えて、通信を切る。


 だが、彼は気付いていなかった。


 通信状態がオンラインになった以上、チーム莉子の、もっと言えば逆神六駆の行動の監督責任が全て南雲の身に降りかかってくると言う事実に。

 近い将来その事実と直面することになるので、今は南雲をそっとしておいて頂けると幸いである。

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