第148話 魅惑のゴールデンメタルゲル登場 有栖ダンジョン第5層

 有栖ダンジョンの攻略は順調。

 チーム莉子は第5層までやって来ていた。


 道中、モンスターと遭遇するも、誰が相手をするかで取り合いをするほどにパーティーの士気は高い。

 その中でも際立つのが、新スキルを得た芽衣である。


「『分体身アバタミオル』!! みみみみみみっ! ラッシュです! ラッシュです!!!」


 彼女は近づかなくても近接戦ができると言う、自分の夢と理想が詰まったスキル、『分体身アバタミオル』を1秒でも早く身に付けようと頑張っていた。

 「スキルはメンタル勝負」が六駆の信条であるが、それは芽衣にも如実に現れている。


 回避スキルの亜種である『分体身アバタミオル』は、彼女のメンタルにピッタリフィット。

 自分が安全マージンを確保しての戦闘とは、これほどまでに面白いのか。

 それに気付いた木原芽衣、覚醒の時を迎える。


「はっはっは! 芽衣は飛ばし過ぎないようにね! 煌気オーラ残留が既に少ないよ!」

「みみっ! なくなったら六駆師匠に補給してもらうです!!」


「にゃははー。南雲さんにヤメろって言われたのにー。悪い子だにゃー」

「でも、協会から支給された煌気オーラ回復アイテム。正直美味しくないですよね……」


 探索員協会公式の煌気オーラ回復アイテム。

 その名も煌気オーラモリモリ薬。


 名前がアレなのは、発案者が木原監察官だからである。


 モンスターの核から煌気オーラを抽出して、それをキャラメルのように加工した食べる煌気オーラ回復アイテムである。

 だが、探索員からの評判はすこぶる悪い。

 何故か。



 フレーバーが「生姜焼き味」と「味噌カツ味」しかないためである。



 そもそも、探索員は「煌気オーラが切れたら【転移黒石ブラックストーン】でこまめに帰還しよう」と言うのが基本であり、新人の頃に配布される「ダンジョン攻略のいろは」にもそう記載されている。

 「Cランク以下は深追いをしない」とも付記されており、煌気オーラの回復とはそれほど重要であり、難しいのだ。

 煌気オーラを回復させるスキルも存在するが、使用できる者は当然少ない。


 つまり、協会本部も煌気オーラ回復アイテムの開発にはそれほど前向きではないのである。


「はいはい、じゃあ芽衣、刺すよー」

「みみっ! お願いするです!!」


 で、結局はこうなる。

 今日も元気に『注入イジェクロン』で回復するチーム莉子。


 そんなサポートに徹している六駆くんの目の色が変わる瞬間がやって来る。

 どこのダンジョンにも親戚がいる、あいつが登場するからだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「はっ!? はっ、はっ、はっ!! りりりり、莉子! あ、あれ! あれ!!」


 UFOでも見つけたのだろうか。

 違う。六駆にとってもっと価値のあるものである。


 彼の視線の先には、金色に輝くメタルゲルの姿があった。


「わぁ! 初めて見たよぉ! ゴールデンメタルゲル! やっぱり出るところには出るんだねぇ! ひゃわっ!? な、なに!? 六駆くん!?」


 莉子の両肩を乱暴に掴んで、その身を引き寄せる六駆。

 落ち着け。見た目は高校生だから俺様キャラで通せばイケるかもしれないが、中身はおじ様キャラなので、下手をすると事案である。


「も、もぉ! 六駆くんってば……! わたしだって、覚悟はしてたけどぉ……!」



 莉子さん。お願いだからこれ以上の深い沼に自分から埋まらないで欲しい。



 六駆はすぐに「違うよ! あの金色のメタルゲル! お高いんでしょう!?」と本題を切り出す。

 莉子は自分が勘違いをしていた事に気付き「もぉぉ!」と怒りに任せて莉子パンチ。


 何故かダメージを負う六駆おじさん。

 律義に待っていてくれるゴールデンメタルゲル。


「たまにはあたしが説明するにゃー。ゴールデンメタルゲルは、メタルゲルの色違いなんだけど、実はメタルゲルよりも価値は低いんだよねー。金色だから高い! って勘違いする人もいるらしいけど、あの金色は体内に雷を蓄えてるからなんだにゃー」


「なんだ。じゃあ、高くないんですか。ガッカリだな」

「みみっ! 芽衣の記憶によると、外皮1キロで10万円くらいだったと思うです!!」



「みんな、下がっていて! ここは僕が引き受ける!!」

「清々しいほどにお金への欲求が素直だにゃー」



 六駆のメタルゲル狩りの歴史は、彼の探索員の歴史と言っても過言ではない。

 御滝ダンジョンでは、初対面のメタルゲルを大量に誘爆させて死にたくなった。

 さらにその後、同ダンジョンで見事に外皮をゲットした。


 日須美ダンジョンではメタルヒトモドキの事を「デカいメタルゲルやで!!」と勘違いした挙句、弄ばれたとか因縁付けてボコボコにした時もあった。


 今回、ゴールデンメタルゲルとの遭遇戦。

 彼は戦闘において、同じ過ちは犯さない男である。


「炎の系統はまずい。帯電してるなら、誘爆の可能性が高いな。ならば、凍らせるか。しかし、冷凍したら品質が落ちると言う事も考えられる。お刺身だってそうじゃないか。物理で仕留める手もあるが、力加減が分からない。……そうか、外皮さえ無事ならば問題ないのか。それなら、圧し潰すのが最善策か? よし、そうしよう」


 ブツブツと独り言で戦闘プランを組み立てる六駆。

 その姿は、まだ使命に燃えていた異世界転生周回者リピーター時代を彷彿とさせたと言う。

 一方、乙女たちは。


「ふぅーん。六駆くん、お金が相手になるとそんなに色々考えるんだぁ。へぇー」

「六駆くんは出会った時からまったくブレずにすごいと思うにゃー」

「師匠の戦いをこの目に焼き付けるです! みみっ!!」


 なんだか落ち着いていた。

 もう六駆が何をしても驚かない様子で、彼女たちも初々しさを失くしてしまった。


「よっしゃあ! 綺麗に潰れろよぉ! 『麒麟の黒雨チーリン・ブラックレイ』!!」



 それ、ルベルバック戦争で阿久津にトドメ刺した大技じゃないか。



 どうやら、六駆の中での強敵ランキングで阿久津浄汰とゴールデンメタルゲルが非常に近いところにいる模様。

 恐らく、どっちも金色に光るからだと思われる。


 ズズズズとダンジョンの床が陥没していく。

 ゴールデンメタルゲルもさすがの耐久力を見せるが、終わりのない暴力的な重力には勝てず、少しずつ楕円形のフォルムが崩れていく。


 さらに煌気オーラを強められること、20秒。


 完全にゴールデンメタルゲルは潰れてしまい、綺麗に外皮だけが残った。

 そこに嬉しそうに駆け寄る六駆。


 金色のそれを持ち上げて「やったぁぁぁぁ!!」と、ダンジョン攻略を完遂させたような勢いで叫ぶ。

 厳密には、六駆おじさんはダンジョン攻略完遂しても別に叫ばないのだが、そこはまあ細かい事を言いっこなしなていでお願いいたします。


 ゴールデンメタルゲルの外皮をいそいそと自分の採取箱に収納して、ホックホクな六駆おじさん。

 乙女たちのところへ戻ると、「いやぁ、厳しい戦いだったよ!!」と感想を述べる。


「良かったね。大好きなお金が手に入ってさっ! 六駆くんなんて知らない!!」

「どうしたの、莉子? 可愛い顔を膨らませて! それも可愛いよ!!」


 膨れっ面なのに頬を染める莉子さん。

 おっさんの安いお世辞にまで乗ってしまうそのチョロさ。

 将来が非常に心配である。


 一方で、莉子のハートを揺らした六駆であるが、先ほどのスキルでダンジョンそのものも揺らしていた。

 思わぬところから反撃を喰らう事になるのだが、それはもう少し先の事である。

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