第142話 今回の目的地はスカレグラーナ
南雲監察官室では、部屋の主が山根に指示を飛ばしていた。
「生きているサーベイランスがないか至急確認! 私が半分受け持つから、山根くんは残りを頼む」
「了解っす。デスクワークならいくらでもやりますよっと!」
スカレグラーナの様子を探るべく、南雲がようやく本領を発揮する。
凄まじい勢いで各サーベイランスの稼働が途切れた時点と、最後に残っている情報をサルベージしていく。
「小僧。うーむ。いまいちしっりくこん! お主、名は?」
「逆神六駆です」
「ほう。意外と良い名前をしちょるのぉ。ならば、今後はお主の事を六駆の小僧と呼ぶことにしよう」
「良いですけど、久坂さん。元の小僧呼びより文字数増えてますよ? ちゃんと覚えていられます?」
「ひょっひょっひょ! 抜かしおる!! ならば、はよう六駆の小僧からワシに名前で呼ばれるほどの実績を残して見せぇ! お主が本気出せば、監察官の椅子を1つ空けちゃろう」
「えっ!? ちなみに、監察官のお給料っていくらですか!?」
そこで六駆に聞かせる必要のない情報を教えた久坂監察官。
六駆は目を輝かせて、南雲の名を呼ぶ。
「南雲さん、南雲さん!!」
「うん。どうした、逆神くん。もしかして、君も手伝ってくれるのか?」
「今すぐ僕のために監察官の席を空けてもらえます?」
「この数分で突然の謀反宣言をされるほど、私は君に何かをしたかね!?」
六駆は「冗談ですよ。うふふ。今は」と不穏な言葉を残して、『
なにせ、200万の案件。
今すぐにでも出発したい六駆おじさん。
彼がかつてないほどに仕事熱心になるのも無理からぬことである。
「さて、六駆の小僧は明らかに頭を使うタイプじゃなかろう? ワシは
「あ、はい! もちろんです!!」
「あたしも頑張って聞きますにゃー」
「みみっ! 監察官の席を空ける時は、是非おじ様を左遷して下さいです! みっ!」
久坂はスカレグラーナの基本的な情報について説明を始めた。
スカレグラーナは巨大な火山と3つの太陽によって、1年を通して高温多湿な環境と言う、おおよそ農耕にも牧畜にも向かない気候である。
そこに住まうのは、ホマッハ族と呼ばれる異世界人。
「聞いたことがないじゃろ? 今は学校でダンジョン基礎とか言うのを教えちょるんじゃったか。ほんなら、ドワーフは分かるか?」
「はい! 少し小柄だけど、力があって。あと、高度な工芸技術とか、鍛冶技術を持っているんですよね? そう習いました!」
「ほう。よう知っちょるのぉ! 結構、結構! そのドワーフの親戚みたいな連中じゃ。連中は奇妙なスキルを応用して、農作物や鉱石を育てるのが得意でのぉ。実際に、スカレグラーナで採れるイドクロアの質は極めて高い! 質も、そして価値も! オジロンベっちゅう石は、【
「あっ!?」
「どうした、逆神くん!!」
六駆のお金脳が激しく回転する。
高価値なオジロンベ。
協会に有益なイドクロアが採れる国と通信が途絶えたのに、本部にまだ報告していない事実。
そして、ただのおつかいに4人合わせて800万も出すと言う久坂。
導き出される答えは。
「久坂さん! さては、そのオジロンベを独占してますね!?」
「なんてこと言うんだ、君ぃ! 久坂さんに限ってそんな事あるものか!!」
「六駆の小僧、お主やっぱり見どころ満載じゃのぉ! てへぺろ!! 修一、内緒にしちょってくれぇ!」
南雲の苦労人脳も高速回転をスタート。
なんと気の毒なプロセッサを搭載しているのだろうか。
「久坂さん……。私が監察官になった時に、景気よく支度金を冗談みたいな額くださったのは……。もしかしなくても……」
「安心せぇ! ワシは別に後ろ暗い事をしちょるわけじゃあないぞ? お主だってその機械を協会本部に提供して研究資金貰うちょるじゃろ? 木原の小童はモンスター好き放題狩ってから、データを金に換えちょる! 一緒、一緒!!」
南雲は少し考えた。
確かに、監察官は各々が得意な分野を協会のために行使する事で給料や賞与を得ている。
ならば、久坂の行動も似たようなものなのではないか。
半ば強引に彼はそう決定づけた。
【
「まあ、そういう訳じゃから! お主ら、チーム莉子には早速、明日から現地に赴いてもらいたい! 南雲監察官にサポートを申し付ける! じゃあ、ワシは帰るけぇ、修一、後は任せたぞい。じゃあのー」
そう言って、久坂は去って行った。
少しの静寂ののち、莉子が控えめに言った。
「あのぉ、南雲さん? 久坂監察官って、ちょっと六駆くんに似てますよね?」
「うん。実は私、結構前からそう思ってたの。世の中、強さを極めるとああいう性格になるものなのかね? 嫌だなぁ」
「南雲さん! 元気出していきましょうよ! 気にしてたらまたハゲますよ!!」
「1度としてハゲとらんわ! 山根くんもその理屈でいくと将来は相当強くなるな!! 腹立たしい!!」
その後、六駆の協力もあり、ある程度の情報は集める事ができた。
だが、どうしても現地に調査しに行く必要があると南雲も認め、やる気になっている六駆に水を差すのも気の毒だと考え、南雲観察室預かりになっているチーム莉子に、遠征の依頼を出すのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日。
午後2時。日須美中央駅にて。
「うわぁ。どうしよう。僕、車に酔いやすい気がするんだよ。高速バスで3時間でしょ? 大丈夫かな?」
「わたしに任せてっ! 六駆くんのために飲み物もミントのお菓子も、あとビニール袋もちゃんと買っておいたから!!」
F県北部の有栖ダンジョンへ出発するチーム莉子。
【
だが、今回はあくまでも南雲監察官室から出された「ただの現地調査」依頼であるため、本部に申請しても使用許可が下りるはずもない。
そこで新幹線代を支給されたのだが、「安い移動手段で浮いた分、豪華な晩ごはん食べようよ!」と、出張費をかすめ取るおっさん的思考を発揮させた六駆くん。
F県は料理が美味しい事でも有名であり、クララがまず陥落。
さらに莉子は「もぉ、六駆くんってば、仕方ないなぁ!」としか思っていない。
かつての毅然としたリーダーだった莉子さんはもういないのだ。
芽衣は基本的にチームの最年少として、流れに乗るのが彼女のスタンス。
そんな訳で、チーム莉子初の県外遠征は、高速バスの旅からスタートする。
なお、六駆くんには数十分後に罰が当たるので、ご安心されたし。
「うゔぉ……。酔った……。莉子さん、ちょっと窓開けてくれる?」
「ダメだよぉ! 今、トンネルの中だもん!」
最強の男、逆神六駆。
三半規管の鍛え方は未だ習得できずにいる。
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