第143話 チーム莉子、海を渡る F県北部 有栖ダンジョン

 チーム莉子、無事に海を渡る。

 有栖ダンジョン近くのホテルに到着して、チェックインを済ませる。


「おおー! ベッドがフカフカだにゃー! この弾力! すごく安眠できそう!!」

「みみっ。クララ先輩の胸と同じくらい柔らかいです。みみみっ」

「六駆くん、大丈夫? お水飲む? ウコンの力買って来たよ!!」


 莉子さん、それは違う方の酔い止めである。


「う、うぐぅ……。ああ、僕はもうダメだ。みんな、今までありがとう」


 ちなみに、六駆おじさんと乙女3人は同室である。

 これもシングルの部屋を余分に取るよりも宿泊費を抑える事ができるからと、おじさんの小賢しい考えで発案されたものだった。


 なお、チーム莉子の共通認識として「逆神六駆は煩悩を金欲に全振りした男」と言うものがあるので、今さら同じ部屋に泊まる事くらいで騒ぐ者はいない。

 ルベルバックではアタック・オン・リコの中で共同生活をしていたし、本当に今更である。


 六駆くんが彼女たちのいずれかに手を出すような甲斐性があれば、この物語の本質も変わっていただろう。


「晩ごはんー! 晩ごはんー!! ねーねー、みんな、何食べる!? やっぱ、ラーメン!? もつ鍋!? あたしコンビニで旅行雑誌買って来たんだー!!」

「みみみっ! 芽衣は初めての旅行なので、クララ先輩に着いて行くです!!」


 ここで待ったをかける、清らかな心の乙女。

 その「待った」を我々も待っていた。


「わたしはホテルに残るよぉ。六駆くん弱ってるし、1人にしとくの可哀想だもん」

「り、莉子ぉ……!!」



「ほぇー。見て、芽衣ちゃん! 豊胸餃子だってさー! おもしろいねー!!」

「六駆くん、ごめんね! ちょっと待ってて! すぐ帰って来るから!!」



 莉子さん、何かのために立ち上がる。

 クララとの差は絶望的なので既に諦めがついているが、現在成長期真っ盛りの芽衣がその何とか餃子を食べて、自分がアレを成長させる機会を失うのは耐えられなかった。


 乙女たちは着替えを済ませて、夜の街へと郷土料理求めて出動。

 六駆くんは、独りでウコンの力の2本目に手を伸ばしていた。


 だから、それはそっちの酔い止めではない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 有栖ダンジョンは全部で26階層の中規模ダンジョン。

 ただし、出現するモンスターが強いため、ダンジョンランクはA判定。


 そのダンジョンを、1度の探索で一気に駆け抜けてしまおうと言うのが今回のチーム莉子の作戦。

 各々がルベルバックで更なるパワーアップを遂げており、探索員ランクも莉子とクララはBに。芽衣はCに上がった。


 今やチーム莉子はルーキーのパーティーではない。

 既に中堅クラスの、もっと言えば上級クラスのチーム力を備えていた。


「あ、コンビニがあるよ! 色々と買って行かなきゃだね! ね、六駆くん!!」

「……うん。……そうだね」


 どうした、逆神六駆Dランク探索員。


「にゃははー。六駆くん、まだ昨日の夜、置いて行ったこと根に持ってるー」

「……ひどいですよ。僕だって郷土料理食べたかったのに……」


「み、みみっ! 芽衣はちゃんと師匠にお土産買って行ったです!!」

「……うん。レトルトのおかゆね。……梅干しが酸っぱかった」


「だ、だってぇ! クララ先輩が、む、胸が大きくなるとか言って、わたしを誘惑したんだもん! いっぱい食べたから、効果がもう出てるかもだし!!」


「……そんなのすぐに出る訳ないじゃないか。……しかも莉子、成長期終わってるでしょ」



 はい、逆神六駆Dランク探索員が、たった今NGワードを言いました。

 これから粛清が行われるので、皆様はお買い物チームと粛清チーム、お好きな方をお楽しみください。



「暑いところらしいから、飲み物は多めに買っといた方がいいかにゃー? こーゆうとき便利だよねー。採取箱! これも南雲さんが改良したんだってねー」

「みっ! イドクロアが崩れないように作られているから、飲み物を入れても安心感が違うです!!」


 これまで、彼らが大荷物を抱えてダンジョン攻略をしていると思っていた諸君には、今さらながら新出情報をお伝えしておこう。

 イドクロアをゲットした際に使う、採取箱。

 これは、ボタンを押すだけで小型に縮小される機能があり、イドクロアの保管はもちろんのこと、飲食物などの運搬にも広く用いられている。


「六駆くーん? そう言えば、昨日もクララ先輩のこと、見てたよねー?」

「ああっ!? 見てないよ!? あああっ、痛い!! 誤解だよ!! 見てない、見てないよ!!」


「じゃあ、昨日の夜、お風呂上がりのクララ先輩は何色のジャージ着てた?」

「黄色! あああっ!? いや、だって! 目立つから!! たまたま覚えてたあああっ!!!」


 こちら、ダンジョンに潜る前にウォーミングアップを万全にする探索員の鑑たち。

 コンビニの駐車場で、連続莉子パンチが繰り出されております。


「よーし! これくらいでいいかにゃー! 芽衣ちゃん、欲しいものちゃんと買った?」

「酸っぱい昆布のヤツ買ったです! みみっ!!」

「にゃははー。渋い趣味を持っておるなぁー。まだ若いのにー! あ、すみません。領収書お願いします。名前は南雲で!」


 充分な飲み物と、ある程度の食料を買い込んだクララと芽衣のお買い物組。

 コンビニから出ると、他のお客さんの邪魔にならない場所でビニール袋から採取箱に移し替えていく。


「六駆くん、もう1回言って! もう1回!!」

「り、莉子のスタイルが世界で一番輝いています!!」


「も、もぉ! そんな何度も言わないでよぉ! バカぁ!」

「ええっ!? 莉子が言えって! あああ! 痛い! 背中が痛い!?」


 こちらも、いつも通り。

 莉子さんは手遅れ。六駆おじさんはおっさんスキルでどうにか惨劇を回避。


「莉子ちゃーん! こっちの準備はできたよー!」

「あ、はーい! さあ、六駆くん! 新しいダンジョンに行くよ! 頑張ろー!」


 六駆にダメージを負わせる事ができる世界で唯一の女子、小坂莉子。

 士気は非常に高く、今回の攻略でも活躍が期待できそうである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 コンビニから出て、20分と少し歩くと有栖ダンジョンの入口が見える。

 もう出現して10年以上経つ古いダンジョンのため、地元の探索員が出入りする程度で活気はあまりない。


 まずは探索課に顔を出して、探索員登録を済ませる。


「すみませーん! 南雲監察官室から派遣されてきましたぁー! チーム莉子でーす!!」


 いつの頃からだろうか。

 莉子さんが自分のパーティーの名前を恥ずかしがらなくなったのは。


「はいはーい! お待ちしておりましたよ! チーム莉子の皆様ぁ!!」

「おりょ? 本田林さん!? なんでこんなとこにいるんですかー!?」


 六駆がクララの肩をつついて、判断ミスを指摘する。

 「まだまだですね」と言って、本田林(?)を確認する。


「よく見て下さい。この人は眼鏡がサングラスです。髪の分け目も本田林さんとは逆。なにより、御滝市いいとこ! の法被を着てないじゃないですか!」


「あ、わたくしですね、皆さんの言っておられる本田林の従兄弟! 名を山田林やまだばやしと申します! よろしくどうぞー!!」


 本田林の色違いも出てきたところで、楽しいダンジョン攻略の準備に取り掛かろうか。

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