第138話 椎名クララの特注装備と木原芽衣は計測困難
「ああ、ちょっと待ってくださいっす。椎名さん」
やっぱり今回もクララのシーンをカットなのですか。
「おお、そうだったな。椎名くん、君の専用装備として作っておいたものが完成している。受け取ってくれるか」
違う。
まさかのパワーアップインベントである。
クララさん、帰り道でトラックに撥ねられなければ良いのだが。
「えー!? ホントですかー!? いやー、実は莉子ちゃんと芽衣ちゃんがどんどんスキル増やしていくの、羨ましかったんですにゃー!」
「山根くん。こっちに例の弓を」
「はい。行きますよー」
「おおおい! やーまーねぇー! なんで投げるの!? 新品なんだぞ!?」
「あ、すみません。南雲さんの事を考えていたら、つい」
南雲は「私の事を考えていたらつい!?」と聞き返すも、山根に無視される。
仕方がないのでダイビングキャッチしたクララの新装備を彼女に手渡す、不遇の監察官。
「それは銀弓『ディアーナ』と言う。既に君の特性に合う源石を6つ埋め込んである。椎名くんのデータは元から協会に保管されているので助かったよ」
「うひゃー! ありがとうございますー!! おおー! カッコいい! オシャレ!!」
「私の『
さらに使用しない時には手のひらサイズに縮めて収納が可能と言う点も、南雲の『
それでは、新装備をゲットしたクララの査定に入ろう。
「いやー、迷うなぁー。どれ使おうかにゃー。スキルの名前もオシャレなの多くて困っちゃうにゃー。よーし、これにしよー!!」
「クララ先輩、嬉しそうで良かったねぇ」
「だねっ! 多分インスタにアップすると思うから、わたしすぐに反応してあげるんだ!!」
「みみっ。芽衣も複アカ総動員で盛り上げるです」
そこの3人はクラスで浮いていた子が修学旅行のグループに無事入れてもらえてホッとする学級委員みたいな表情をヤメて差しあげろ。
「んじゃ、いきまーす! せぇぇのっ! 『
クララの銀弓から4羽の燕が四方に飛び立ち、低い軌道から的に襲い掛かる。
インパクトの瞬間に飛沫をあげたところを見ると、水スキルのようだ。
「スキル判定、Bランク。
「なるほど。まあ、総合的に見てBランクで問題なかろう。彼女はキャリアもあるし。椎名くんの今後の課題は
そこで首を突っ込むのが、我らの六駆おじさん。
むしろ、ここで突っ込まずしていつ突っ込むのか。
今でしょ。と付け加えたくなる流れであった。
「大丈夫ですよ!
「大丈夫じゃないんだよ、逆神くん。君のその頭おかしいスキルの応用は今のところ隠しようがないんだからね。どうやったら自分の
クララの査定結果は割と地味だった。
だが、新しい武器を手に入れたし、新スキルも大量ゲット。
彼女の成長の道筋もハッキリとしてきた。
こうなると芽衣にも期待がかかるが、彼女の場合は事情が異なる。
「南雲さん。木原さんはどうしましょうか」
「そこなんだよ。木原くん、攻撃スキルはあれから覚えたか?」
「攻撃スキルに割く時間があれば、分身して身の安全を確保です!! みみっ!!」
南雲はこめかみを押さえてコーヒーを一杯飲んだ。
実は、木原芽衣が探索員の中でも極めてマイノリティ、と言うかもうアンタッチャブルな存在になっていた。
探索員になる最低条件として「攻撃スキルを使用できる者」との文言が協会憲章にも記載されており、つまりどんなに新人のFランク探索員でも何かしらの攻撃スキルを覚えているという話なのだが、お分かりいただけただろうか。
木原芽衣は逆神六駆によって、回避特化に魔改造されている。
ただ、六駆も頑張って攻撃スキルを覚えさせようとはしていたのだ。
日須美ダンジョンの攻略の記録を思い出してほしい。
何度も攻撃スキルを習得させようとした努力のあとが見えただろうか。
「逆神くん。逆神流のスキルと探索員のスキル、併用する事は可能かな?」
「うーん。どうでしょ? それは僕も考えた事がなかったですね。だって、協会のアームガード使ったスキルって効率悪すぎですから。現状、芽衣はうちのじいちゃんが作ったトロレイリングを使ってスキル使ってるんですよ。そこにアームガードか。うーん」
六駆にしては珍しく考え込んだあと、「多分ですけど」と見解を述べた。
「変な作用を起こして腕がぶっ飛ぶかもしれませんね!! ははっ!!」
「木原くんには、とりあえず
六駆のスキルに対する見識の深さは南雲もよく理解している。
そのおじさんが「多分爆発する」と言うからには、ほぼ爆発すると考えて良い。
芽衣は監察官の姪である。
それも、超武闘派で知られる、木原久光監察官の姪である。
万が一の時には、南雲の首が一瞬で涼しくなること間違いなかった。
「でも、攻撃スキル使えないとデータが取れないんじゃないですか?」
六駆の質問に山根が答える。
繰り返すが、彼は意外と仕事のできる男。
「その点は問題ないよ。この部屋の
「えっ!? 山根さん、そんな高度な引き算ができるんですか!?」
南雲が無言で莉子とクララのところへと近づいて行き、小声で彼女たちに聞いた。
「逆神くん、この間の定期試験は大丈夫だったの?」
「あ、あははー。えっとぉ、それがですねぇ……」
莉子は正直に話した。
ミンスティラリアに行って、時間の流れの違う異空間を作ってもらって、シミリートに任せておいたらどうにかなったと。
「……相変わらず、むちゃくちゃするな、君たちは。異世界を家庭教師のトライみたいな使い方しちゃダメだよ。ああ、コーヒーが足りない。失敬」
ついに水筒からカップに注ぐ過程を省略して、熱々のコーヒーを直飲みする南雲監察官。
熱くないのだろうか。
多分、それどころではないのだろう。
「木原さん、準備が出来たらお願いしまーす」
「みみっ! 本気出しちゃうです!! 『
芽衣が500人に増えた。
部屋いっぱいの女子中学生の群れに埋まった南雲が、六駆を問い詰める。
「……なんでこんな事に?」
「いやぁ。本人のやる気を尊重していた結果ですかねぇ」
「これ、もう隠せるレベル超えてるんだよ!! どうすんの、木原監察官にバレたら!! ああ、もう君は、ああああ!! コーヒー、コーヒー!!」
南雲がコーヒーをがぶ飲みし始めたのを見計らったように、仮想戦闘空間のドアが乱暴に開けられる。
そこには、筋骨隆々の中年がいた。
「おおう! 南雲ぉ! 俺んとこの姪っ子が来てるってんで顔出しに来たぞー!!」
「ぶふぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
その人は芽衣の事を姪っ子と呼んだ。
部屋の中は芽衣の分身体で溢れている。
木原監察官、来ちゃった。
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