第137話 小坂莉子、椎名クララ、木原芽衣、ランクアップ査定を受ける 探索員協会本部・仮想戦闘空間

 探索員のランクアップは、Bランクまでは監察官1人。Aランク以上になると監察官2人の承認が必要となる。


 今回、莉子とクララはBランク査定を。

 芽衣はDランク査定を受ける事になった。


 南雲が「案内しよう」と言って、3つ向こうの大きな部屋まで歩いて行く。

 山根は「じゃあ自分は準備しますよ」と言って、先に走って行った。


「おおお! なんですか、ここ! すごい! SF感がすごい!! 煌気力場の感覚もありますし!! なんですか、ここ!!」


「六駆くんってば、恥ずかしいでしょ。男の子ってこーゆうの好きだよねぇ」

「と、口では言いながらも、内心では六駆くんも可愛いところあるなぁ、なんて思っている莉子ちゃんなのであったー。まる」


「…………みみっ」


 芽衣ちゃんが既にギブアップを申し出るタイミングを見計らっている。

 六駆おじさんは暇だろうから、その仕草を見せたら全力で止めるように。


「ここは仮想戦闘空間と言って、分かりやすく言うとスキルの試し撃ちができる場所だ。壁には煌気オーラを吸収するイドクロア加工物が大量に仕込んであるから、ちょっとやそっと派手なスキルを撃っても問題ない。耐久性は私が保証しよう」


 そんな楽しそうな話を聞かせてはいけない。

 約1名、もう新しい遊びを覚えた小学生みたいにソワソワしているおっさんがいる。



「南雲さん! 僕、試してみてもいいですか!?」

「ごめん、ヤメて。君が試すと壊れるから。これ作るのに1千万かかってるんだよ」



 金額を聞いて「あばばばば」と泡を吹きながら倒れ伏せる六駆。

 南雲は監察官きっての知恵者。

 悪魔の飼い方を少しずつ学んできている。


「南雲さん、こっちの準備は済みましたよ」

「そうか。ありがとう。では、簡単にランクアップ査定について説明させてもらうよ」


 諸君も南雲の長い説明セリフに付き合うのは億劫だろうから、こちらで纏めておいた。


 ランクアップ査定は書類審査、面談、スキル考査、煌気オーラ総量測定の4つを総合的に判断して可否が決定される。

 チーム莉子は現在、南雲監察官室の預かりパーティーとなっているので、書類審査と面談はパスして、残る2つをこの仮想戦闘空間で済ませましょうと言うお話。


「本当は小坂くんと椎名くんをAランクに上げてやりたいのだが。まだそちらは準備ができていないのだ。申し訳ない」


 莉子と芽衣は逆神流のスキルを使うため、他の監察官に立ち会わせるわけにはいかず、Aランクの査定を現状受けられないのだ。

 逆に、Bランクまでならば南雲の裁量で決められるので、ルベルバックで大活躍してくれた彼らへの誠意を示した形となる。


 なお、その理屈でいけばクララはAランク査定が受けられるはずなのだが、この場の全員がそれについて失念している。

 理由は分からない。多分、そうなるように世界が回ったのだ。


「逆神流のスキルは、私がどうにか類似のスキルを見繕うから。なければ、私が作ったと申請しよう。映像とデータの両方で記録が協会に保管されてしまうから、慎重にやっていこうね」


 六駆が「さすが若くして監察官になる人は頭がいい!」と頷く。

 そんな彼を見て、莉子がずっと疑問に思っていた事を口に出した。


「あのぉ……。六駆くんはランクアップ査定を受けさせてもらえないんですか?」


 逆神六駆と南雲修一。

 おっさんコンビが「あっはっは」と笑った。



「僕が査定受けたら、その日のうちに家宅捜索だよ! やだなぁ、莉子ってば!!」

「まったくもってその通り。逆神くんは申し訳ないけど、一生Dランクで!」



 地位に全然興味を示さない六駆と、とりあえず身内の仕事を振っておけばどうにか悪魔の存在を隠匿できると考えている南雲。

 彼らの考えは見事に符合していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「じゃあ、誰からいくっすか? リーダーからですかね、やっぱり」

「わたしですか!? ふぇぇ……。上手くできるかなぁ」


 不安そうな莉子の肩に、六駆が手を乗せる。

 続けて彼女を勇気づけた。


「大丈夫。いつも通り、いつもの調子で撃てばいいよ。『苺光閃いちごこうせん』を!!」

「そっかぁ! うん、わたし頑張るねっ!!」



「ごめんね。『苺光閃いちごこうせん』は撃たないでくれる? 多分、修理費用が下りないと思うの。あんな未知の脅威を集めて煮込んだ凶悪スキル、誰も知らないから」



 南雲は水筒に入れて持って来たコーヒーを飲む。

 カフェイン飲まなきゃやってられないのだ。


「えっと、じゃあ何を撃ちましょうか?」

「南雲さん。ちなみに小坂さんは新人査定の時に『太刀風たちかぜ』撃ってますよ」


 それを撃ったのは六駆であるが、面倒なのを察してか彼は何も言わない。


「ああ、そうなの。じゃあそれで行こう。『ウインドキラー』と言って誤魔化せるし」

「分かりましたぁ! あの的に撃てばいいんですね?」


 さすが、リーダーは物分かりも良ければ理解も早い。

 莉子は手の平に煌気オーラを集中させて、気持ちを落ち着ける。


「……ふぅ。……やぁぁぁぁぁっ! 行きますっ! えぇぇぇぇいっ!!!」


 ガウッと空を切り裂く音と共に、風の刃が的を両断した。

 隣で見ていた六駆が「お見事!」と手を叩く。


「山根くん。スキル判定は出たか? 逆神流用にものすごく柔軟な判定にしたから、大丈夫だろう?」

「オッケーです。スキル判定、『ウインドキラー』でAランク。煌気オーラ総量は……。あの、Sランクって出ちゃってますけど」



「山根くん。待って、お願い。悪魔を増やして楽しいの? そしてコーヒー噴かなかった私を褒めろ」

「すごいっすねー。これだけ煌気オーラ総量があれば、そりゃ『苺光閃いちごこうせん』連発できますよ」



 莉子さん、ついに一般人枠からはみ出して、悪魔枠へと移動を開始する。


 そうなるのは当然の流れかもしれない。

 彼女は初歩スキルの『ライトカッター』すら使えなかったのに、その日に六駆から手解きを受けたらすぐに『太刀風たちかぜ』を撃って見せたのだ。


 煌気オーラのコントロールが致命的に下手だっただけで、素質は充分あると、これまで六駆も何度か言及している。


「小坂くん。とりあえず、君は余裕でBランクにアップだ。ゆくゆくはどうにかAランク査定が出来るように取り計らうから、少し待っていてくれ」


「わぁ! 六駆くん、六駆くん! わたし、Bランクになったよぉ!! すごい? えらい?」

「うんうん! 莉子は自慢の弟子だ! 偉いしすごいし、オマケに可愛い!!」


「えへへへへへへ。もぉ、恥ずかしいじゃん! 照れるなぁー!!」



「南雲さん。この2人、放っといたらマジで協会滅ぼせますよ」

「君は私をどうしたいんだ。胃に穴があくのを待っているのなら、すごく上手だよ」



 六駆と莉子が南雲に出会えたのは、お互いにとって最良のパターンである。

 南雲サイドはそれを熟知しており、莉子は気付いていない。


 六駆くんは理解しているけど知らないふりをしている。

 この悪魔め。


「それじゃあ、次は椎名さん。お願いできるっすか」

「はいはいにゃー。わー。あたしランクアップ査定受けるの1年半ぶりだよー」


 いつものパターンだと、目に見えない謎の力によってクララの査定シーンはカットされる。

 今回くらいは彼女にもフォーカスしてあげて欲しいと、我々は強く願う。

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